私が息をする今日に奇跡の気配がした

1,私の死を告げる不審者

 「ねぇ、君。少しいいのかな?」
 ある秋の日の学校からの帰り道、知らない声に後ろから呼び止められて振り向くと、そこには一人の息を呑むほど綺麗な男の子が立っていた。
 「・・・何ですか?」
 彼みたいな綺麗な人に見覚えはなかったし、呼び止められる心当たりもなかった。
 「君、時任歩美(ときとうあゆみ)、さんだよね?」
 「・・・っ」
 時任歩美。それは、私の名前だった。何故初対面の彼が私の名前を知っているのだろう・・・。
 怖いと思った。
 ーもしかして、ストーカー・・・?
 怖いと思うとの同時にそう思ったけど、そんなわけないと自分で否定した。だって、私はごく普通の中学2年生なのだ。ストーキング行為をしたくなるほどの容姿を私は持っていないし、何か特別な物を持っているわけじゃない。
 むしろ、ストーカーされそうなのは彼のほうだ・・・。
 「君は、時任歩美でしょ?」
 彼は、何故かすがるような目でこちらを見てくる。
 「そう、ですけど・・・」
 彼の目に負けて、答えてしまった。
 ーストーカーの可能性はゼロに近いとはいえ、見ず知らずの怪しい人に名前を知られるのはよろしくないのでは・・・。
 そう思ったけど、もう遅い。彼に私が時任歩美であることは知られてしまった・・・。
 私が時任歩美であると知った彼は、何か大切な物を見るような優しい眼差しを私に向けていた。
 「・・・・・・」
 ーなんだろう・・・この目、どこかで誰かに向けられたような気がする・・・。
 彼に見覚えがないはずなのに、何故かとても懐かしいような気がした。それに、胸が妙にドキドキした・・・。
 それは、彼の顔が綺麗すぎるだけが原因じゃない気がする・・・。
 「君は・・・」
 違和感の正体を探っていると、不意に彼が呟いた。
 「何ですか・・・?」
 何を呟いたのか気になって、尋ねる、さっきとは打って変わって真剣な眼差しを私に向けてくる。
 「君は、後三ヶ月で死ぬ」
 「・・・・・・えっ」
 彼の口から放たれた言葉は、私の予想を大きく上回るものだった。
 ー私が、後三ヶ月で死ぬ・・・?
 何の冗談だろう・・・。
 そんなこと、彼に分かるわけがない。
 私は元気だ。今もピンピンしている。
 「何を言ってるんですか・・・?」
 彼が言ってることが分からなくて聞き返してしまう。
 その声は、自分でも驚くほど冷たかった。
 それでも、彼はひるまずに続けた・・・。
 「君は三ヶ月後に死ぬ。これは事実だ」
 ー何かの冗談だろうか。私を怖がらせたいとか・・・。
 初対面の、怪しい人と二人きりの状況。訳の分からないことを言う相手・・・。
 不審者・・・。
 これって、結構やばい気がする・・・。
 急に寒気がして、まだ上着が必要な季節じゃないのにブルッと震えてしまった。
 ー逃げた方が良いかもしれない・・・。
 そう思った私は、後ろを向いて全力で走った。
 運動は得意な方じゃないけど、今ならいつもより早く走れそうな気がした。学校の体育の授業よりも全力で、私は走った。
 「事故には、気をつけて・・・」
 後ろの方から何か聞こえてきたけど、振り向かずに私は走った。
 彼は、追って来なかった。
 やっぱり、ただ怖がらせたいだけだったのかもしれない。 
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