深夜残業のナゾトキは、過保護なセフレの執着から
オフィスで過ごす深夜23時。
フロアの照明はすでに落とされ、私のデスクのスタンドライトだけが薄暗い空間を照らしていた。
タタタタン、と軽快なタイピング音を響かせているのは、隣の席に座る同僚の智也だ。
昼間は誰にでも当たりのいい爽やかな好青年を演じている彼だが、誰もいなくなったオフィスでは本性を現す。
「……なぁ、結衣。集中できないんだけど」
智也がキーボードを打つ手を止め、椅子のキャスターを転がして私のすぐ隣まで寄ってきた。
「智也、あと少しで月次報告書が終わるの。邪魔しないで」
「じゃあ、終わったら『いつもの』ね」
彼は私の耳元で低く囁くと、スッと細い指先を私の膝の上に滑らせてきた。スカートの裾を撫でる指の熱さに、息が跳ねる。社内では単なる「同期の同僚」。けれど裏では、誰にも言えない秘密のセフレ関係――それが私たちだ。
「……智也、手」
「終わらせたら離してあげる」
意地悪く微笑む彼の顔を睨みつけ、私は慌てて最後のデータを打ち込んだ。送信ボタンをクリックすると同時に、智也に腕を引っ張られ、給湯室の陰へと引きずり込まれる。
暗闇の中、背中が壁に押しつけられた。瞬時に重ねられる唇。深くて、強引で、体中の熱を吸い尽くすようなキス。
智也の腕が私の腰を強く抱き締め、絶対に逃がさないと言わんばかりの力で固定する。
「ん……っ……智也、ここ、会社……」
「誰も来ないよ。……俺以外の男のこと、考えてたら許さないから」
彼の言葉には、昼間の爽やかさからは想像もつかないほどの強い執着と独占欲が滲んでいた。セフレという割り切った関係のはずなのに、智也の肌の熱さと嫉妬深さは、時々私の心を激しく揺さぶる。
熱い吐息を交わしながら、ふと頭の隅で引っかかっていた「謎」を思い出した。
「ねえ、智也……そういえば、なんで今日残業してるの?」
「は? 結衣が残業してるからに決まってるだろ」
「嘘。智也の担当案件、今日の夕方には全部完了処理されてたよ。社内システムで見たもん」
智也は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに口元を歪めてクスッと笑った。
「なんだ、バレてたか。ナゾトキのセンスあるね」
「ナゾトキって……じゃあ、何のために残ってたの? 日常の謎すぎるんだけど」
智也は私の首筋に顔をうずめ、舌先で優しく撫でながら囁いた。
「企画部の高橋がさ、今日結衣に『残業終わったら飲みに行かない?』って誘ってただろ」
「え……? 見てたの?」
「見てたよ。だから高橋のPCに緊急のデータ修正案件ねじ込んで、先に帰らせた」
「……え?」
「結衣を独り占めするために決まってるじゃん。俺以外の男と二人きりなんて、一秒だって許さない」
耳元で明かされた真相のあまりの執着心に、背筋がゾクゾクと震えた。理由を知って甘い恐怖に囚われている私を逃がさないように、智也はさらに深く、逃げ場のないキスを覆いかぶせてきた。
(了)
