気になるあの子は溺愛中!
宵宮 詩春___
かつて学生向けファッション誌を席巻した、伝説のトップモデル___その正体は…
「ほ…本日から紫苑学園中等部に転校してきましたっ!
小鳥遊 春乃です……!
よろしくお願いします……!」
__突然この学園に転入してきた、冴えない中学生だった。
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「もう準備は完璧?忘れ物は無い?」
私が洗面台の前で見た目を整えていると、とっても不安そうな顔でお母さんが話しかけてきた。
「もちろんだよ、お母さん!私が転入するからって、
心配しすぎ!ちゃんと上手くやるよ」
自信満々にそう答えても、お母さんの顔から心配の色はきえない。
「春乃は特別に目立つからね……ストーカーやファンに バレたら……」
「大丈夫、モデル時代に本名を明かしている訳じゃないし、変装も完璧だよ!ね?」
そう言って、くるっと一回転してみせた。
「そう…十分気をつけるのよ。なにかあったら言ってね。」
「分かってる……あ、そろそろ家を出なきゃいけない時間だ!」
私はお母さんを押しのけるように、急いでスクールバッグを持って、玄関に飛び出した。
「慌ただしいわね……行ってらっしゃい、気をつけるのよ」
「うんっ!お母さん、行ってきます!」
__私は小鳥遊春乃 15歳
訳あって、今年から紫苑学園へ通う転入生だ。
早速だけど、その訳というのは……
私が9歳から14歳まで行っていた、モデル活動が原因で、中学校までマスコミやファンが押し寄せるように
なってしまったこと!
それがきっかけでモデルを引退、今はこうして新天地で地味に暮らして行く事を目標にしている。
だけど、私の正体がバレてしまって、またストーカーさんたちに追いかけ回されるのは嫌だから、色々と対策をしている。
私のモデル時代は、紺色の腰まで伸びたロングヘアと、桃色の瞳がトレードマークとなっていた。
だけど今は、肩までばっさりと切ったボブに、髪色と同じ紺色のカラーコンタクト、眉下まで伸ばした重たい前髪をしている。ついでに大きな黒縁メガネを掛ければ、見るからに目立たない女の子の完成だ。
登下校が1番危ないから、ってお母さんがすごく心配していた。だから、お父さんの友人が経営している、学校のすぐそばのマンションを買わせてもらった。
入学試験の時は、学園の姉妹校で受けたから、学校がどんな場所なのか知らない。期待と不安でいっぱいだ。
___何度か電車を乗り継いでたどり着いた、
名門・私立紫苑学園。
その建物を見て、私は思わず息を飲む。
「立派な学校…お城みたい」
その名前から想像したいたけれど、大きな柵と門の向こう側には、白いレンガ造りの立派な学舎がそびえ立っていた。
「ここの門から入ればいいのか…」
まだ早朝ということもあって生徒が誰も居ないから、
少し不安になってしまった。
「なぁ、君が小鳥遊春乃か?」
「えっ!?あ、はいっ……!」
びっくりした……
声の聞こえた方を振り向くと、スラッとした黒髪の男の人が立っていた。
「驚かせて悪いな。俺が案内役を頼まれたんだ。
俺は同じ三年生の城崎怜。気軽に城崎と呼んでくれ」
ブラウンを基調とした制服を着ている。
こういう案内役の人は、てっきり先生かと思っていたから、少しびっくりしてしまう。
「あっ、わたし…小鳥遊春乃ですっ…
私も小鳥遊と呼んでいただいて構いません!
よろしくお願いしますっ」
城崎さんは、よろしくという代わりに軽く会釈して、
ふたたび口を開いた。
「早速だが、学校じゃなくて先に家に行くか。
送られてきた荷物の荷解きもしなきゃいけないな。
明明後日から新学期が始まるから、あまり時間は無い かもしれないけど」
「はい!寮は初めてですが、引越しの経験はあるので
大丈夫です。」
自信満々に答えると、城崎さんは少し怪訝な顔をして、わたしに尋ねた。
「寮…?ここの学園には、男子寮しかないが。」
「えっ……?」
思わず目を見開いてしまう。たしかにわたしは、この学園の寮に住むという話を聞かされていたのだが……
「この学校___俺の父が経営する私立紫苑学園は、ここ最近の経営不振で共学になっただけで、元々は男子校だったんだ。だから、その名残で、ここには女子寮が無い。」
学長の息子…!?ということは、この人の父は私のお父さんの友人……!
というか、そもそも、なんでお父さんはこんな大事なことを言ってくれないんだ?
「おっ、お父様がここを経営してらっしゃるんです ね……!
でも、寮が無いということは、わたしはどこに住めば……」
城崎さんは、はぁ?という、あきれや苛立ちの混じったような表情になる。
「俺のマンションだ、本当に聞いてなかったのかよ」
「えっ……?」
一瞬、私の脳内の時が止まる。
一緒に住む………?初対面の男の人と……?
「学園に隣接するマンションがあって、そこの最上階が俺の家。実家から通うのがだるいから、親が買ってくれた。」
さらっと親に買ってもらったって、ほんとうにお金持ちなんだなあ、と思ってしまう。
わたしはモデル時代の貯金があるけど、お父さんやお母さんがとくべつお金持ちという訳じゃないから、あまり想像がつかない。
「ほ、ほんとに一緒に住むんですか……?」
わたしは少し不安げに、おそるおそる聞いてみる。
「あぁ、一緒っつっても、最上階は2つ部屋があって、その片方にってこと。」
あっ、そういうことか…!ようやく理解できた。
同じマンションの同じ階だけど、独立した部屋に別々に住むのか…。
ほっとして、城崎さんの顔を見る。
「じゃ、じゃあ、それなら良かったです。」
「ああ。」
「じゃあ、同棲という訳では……」
「勿論、そうじゃない。ただのお隣さんって感じだ。」
「そうですよね……!」
変な勘違いをしてしまった。少し恥ずかしいような気持ちで城崎さんをみると、特にからかったり、バカにしたりする様子は無くて少し安心した。
「じゃあ、行くか。」
「はいっ」
立派な壁と植木の並んだ道を歩いていく。
ここに通うんだな、という想像がまったくつかない。
「そういえば、わたしのことについてはなにか…」
「いや、なにも聞かされていない。名前と、隣に住まわせるってことくらいしか。あとは、父親の友人の娘っていうことくらいだな。」
じゃあ、城崎さんにも、私が元々モデルをやっていたことは知られていない。
城崎さんが色々な人に言いふらすとは思えないけど、念の為に隠しておこう。

