銀杏並木の毒舌な隣人③ (年下の彼氏編)
 その日の麻美子は、いつも以上に「品のある大人の女性」を演じていた。

 東京は上野駅の改札を抜けると、秋を迎える休日の広場は、行き交う人々で賑わっている。

「どちらに行けばいいのでしょう?」

 戸惑う彼に、麻美子は優雅に指をさしてみせた。

「ふふっ、あっちよ」

 隣を並んで歩くのは、同じ下着メーカーに勤める五歳年下の後輩、(れん)
 新人時代に麻美子が指導を担当した、頼もしい若手のホープだ。

 先日の飲み会で久しぶりに再会し、彼からまっすぐにアプローチを受けたことが、今日のデートのきっかけだった。

 誘われた瞬間は「年の差もあるし……」と大人の理性を覗かせていた麻美子だったが、こうして隣を歩く時間を迎えてみれば、あたたかな甘い喜びに胸を躍らせている自分を隠しきれずにいた。

 社内の男性陣からは『あの頼れる大人の女性と付き合えるなんて羨ましい』と、蓮を羨む声が囁かれていた。

 その噂を聞くたび、麻美子はどこか誇らしく、そして同時に「いつでも完璧で頼れるお姉さん」でいなければと、自ら固い仮面を顔に張り付けていたのだ。

 今日、彼女がデートに選んだのは美術館だった。

 賑やかな動物園では、以前のように「余計な口を挟んでくる毒舌な隣人たち」に邪魔されるかもしれない——そんな警戒心から導き出した、完璧な計算の上の選択だ。

 パンフレットを受け取り、館内へと足を踏み入れる。
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