落ちこぼれ芸能科ですが、演技の天才ヒロインが舞台で全員勝たせます。
第三章
その日の特訓がいったん終わったころには、劇場の外はすっかり夕焼け色に染まっていた。
赤い光が廊下の窓から長く差しこんで、床の上にのびる影までやわらかく見せている。
「今日はここまで!」
小春がぱんっと手を打つと、あちこちから疲れた声が返ってきた。
「つっかれた……」
「でもなんか、思ってたより楽しかったかも」
「白峰のあの声、反則すぎ」
「やめろって……」
教室に笑いが広がる。
最初に集まったときの重たい空気が、少しずつほどけてきているのがわかる。
よかった。
たった一日で全部変わるわけじゃない。けれど、確かに一歩進めた気がした。
「白雪」
名前を呼ばれて振り向くと、桜井蓮が台本を抱えたまま立っていた。
「このあと、少しいいか」
「うん? いいよ」
「劇場、残れるか」
「残れる!」
即答したせいか、蓮がほんの少しだけ眉を上げた。
「そんな元気あるのか」
「あるよ。今日、すごく楽しかったもん」
「……そうか」
短い返事。
でも、彼の目がわずかにやわらいだ気がして、小春はこっそりうれしくなった。
みんなが帰り支度を始める中、小春も自分の荷物をまとめる。
そのとき、桃園えるちゃんがするりと近づいてきた。
「小春ちゃん」
「ん?」
「ふたりきり?」
「たぶん」
「きゃー」
「なんで叫ぶの」
「だって完全に放課後イベントじゃん」
えるちゃんがにやにやしながら小声で続ける。
「しかも相手は、さっき軽く嫉妬してた桜井蓮くんです」
「まだ言うの?」
「言う」
「違うって言ってたよ」
「そういうのはね、言った本人より見てる周りのほうがわかるの」
えるちゃんは得意げに胸を張る。
「いい? もし雰囲気よくなったら、ちゃんとときめくんだよ」
「そんな指示ある?」
「あるの!」
わけがわからなくて、小春は思わず笑ってしまう。
「もう、えるちゃんってほんとおもしろい」
「感想それ?」
「ありがとう」
「そこは否定してよー!」
最後までにぎやかに手を振って、えるちゃんは帰っていった。
残された小春は、ほんの少しだけ深呼吸をする。
ふたりきり。そう思うだけで、なぜか胸がそわそわした。
変なの。
蓮くんとはずっと同じクラスなのに、今日ちゃんと話したばかりみたいなものなのに。
劇場へ戻ると、蓮はすでに舞台袖の近くに立っていた。
大きな空間の中でひとり台本を見つめる姿は、それだけで絵になる。
赤い光が廊下の窓から長く差しこんで、床の上にのびる影までやわらかく見せている。
「今日はここまで!」
小春がぱんっと手を打つと、あちこちから疲れた声が返ってきた。
「つっかれた……」
「でもなんか、思ってたより楽しかったかも」
「白峰のあの声、反則すぎ」
「やめろって……」
教室に笑いが広がる。
最初に集まったときの重たい空気が、少しずつほどけてきているのがわかる。
よかった。
たった一日で全部変わるわけじゃない。けれど、確かに一歩進めた気がした。
「白雪」
名前を呼ばれて振り向くと、桜井蓮が台本を抱えたまま立っていた。
「このあと、少しいいか」
「うん? いいよ」
「劇場、残れるか」
「残れる!」
即答したせいか、蓮がほんの少しだけ眉を上げた。
「そんな元気あるのか」
「あるよ。今日、すごく楽しかったもん」
「……そうか」
短い返事。
でも、彼の目がわずかにやわらいだ気がして、小春はこっそりうれしくなった。
みんなが帰り支度を始める中、小春も自分の荷物をまとめる。
そのとき、桃園えるちゃんがするりと近づいてきた。
「小春ちゃん」
「ん?」
「ふたりきり?」
「たぶん」
「きゃー」
「なんで叫ぶの」
「だって完全に放課後イベントじゃん」
えるちゃんがにやにやしながら小声で続ける。
「しかも相手は、さっき軽く嫉妬してた桜井蓮くんです」
「まだ言うの?」
「言う」
「違うって言ってたよ」
「そういうのはね、言った本人より見てる周りのほうがわかるの」
えるちゃんは得意げに胸を張る。
「いい? もし雰囲気よくなったら、ちゃんとときめくんだよ」
「そんな指示ある?」
「あるの!」
わけがわからなくて、小春は思わず笑ってしまう。
「もう、えるちゃんってほんとおもしろい」
「感想それ?」
「ありがとう」
「そこは否定してよー!」
最後までにぎやかに手を振って、えるちゃんは帰っていった。
残された小春は、ほんの少しだけ深呼吸をする。
ふたりきり。そう思うだけで、なぜか胸がそわそわした。
変なの。
蓮くんとはずっと同じクラスなのに、今日ちゃんと話したばかりみたいなものなのに。
劇場へ戻ると、蓮はすでに舞台袖の近くに立っていた。
大きな空間の中でひとり台本を見つめる姿は、それだけで絵になる。