母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

5

「服が欲しいそうだな」

 言いながらローズに近づいてくるその声の主は、ユーベルトのものだ。

「わたくしをどうなさるおつもりですの?」

「孕ませて世継ぎを生んでもらう」

「お断りします」

「自分の置かれている立場が理解できぬほど愚かではあるまい」
 
 ローズの目の前に立った美丈夫は、彼女が身体に巻き付けているシーツを剝ぎ取る。
 透けたナイトドレスが裸体の線を露わにする。腕を掴まれて強い力で寝台に投げ飛ばされた。即座に組み敷かれ両手首を掴まれて、頭上で一つに纏められ縫い留められる。首筋に顔が埋められ、肌を舐められた。

「では、世継ぎを産んでも生かして下さるのなら、抵抗はしません」

『お約束いたします。必ず、必ずお迎えに参上致します』

 ルビオの言葉が蘇る。生きてさえいれば、必ず迎えにきてもらえる。確固たる言葉がローズを支える。

(どれほど身体が穢されようとも、私の心は貴方のものよ、ルビオ)

「良かろう。ただし、二度と俺の命を狙うなよ」

 首筋から顔を離したユーベルトが、暗闇の中ローズの双眸を見据えた。

「承知いたしました」

「賢明だな。だが、念のため世継ぎを産むまではこの部屋に幽閉する。大人しくしていられたら、正式に王妃として部屋から出してやろう」 

 懐妊しても男児を産めるとは限らない。一体何人産めば待望の男児が産めるかは定かではない。そう考えると、気の長い話だ。だが犬死にするよりはましだ。生きていれば、カレイズ王国が攻めてきて、ルビオが迎えにきてくれる。それを信じて待つだけだ。

 ナイトドレスが脱がされ、ユーベルト自身も裸になって裸体を撫でられる。母国はいつ戦を仕掛けてくるだろう。先の大戦で、カレイズ王国は多くの兵士を失い多大な犠牲をだした。すぐには次の戦の準備には取りかかれないと思われる。それまで、生きる為に身体を差し出し、愛する人を想いながら他の男に抱かれ、子を孕むのだろうか。
 やるせなさでいっぱいになる。
 抵抗をやめて一筋の涙を流したローズを、ユーベルトは拘束することをやめた。
 空が白むまで延々と抱かれ続けた。
 そんな行為が毎晩繰り返されていく。


 一月が経ち、二月が経つ。やがてユーベルトに激しく抱かれるようになって、半年が過ぎようとしていた。ローズは国王の寝室に幽閉されたまま、魅惑的なナイトドレスを着て過ごし続けている。毎日毎日一晩中抱かれる身体は重だるく、昼まで寝て、昼食を取ると、睡魔で再び寝台に上がって寝た。そして夜が来て夕食をとった後、ソファーで寛ぐ。夜がふけるとユーベルトがやってきて抱かれる。
 その頃になると、ローズは彼から与えられる快感に、まるで中毒のように溺れてしまう自分に気付いていた。心の中でどれほど抗おうと自制できず、浅ましく強請らされるようになっていた。

(ルビオと約束したのに、どうしてこんなことにっ! これではルビオに顔向けできない。心だけでも、母国を発つ時に置いてきたというのに)

 散々イかされて吐精された身体は、汗と体液塗れで重だるい。ふいに、寝台の端に座って開け放たれた窓を見ているユーベルトが目に入った。

「今日は前妻のユリアの命日だ。もう二年になる」
 
 いつになく、ユーベルトの声が暗く、その背中はいつもより小さく見える。独り言のように話を続ける。

「夜会で出会って一目惚れして直ぐに求婚した。ユリアも俺を愛してくれた。結婚当初から、ユリアは病弱で余命三年だと御殿医から宣告されていた。なのに、愛するあまり毎晩抱いて懐妊させてしまった。ユリアは幸せそうに微笑んで妊娠を喜んでいた。だが、三ヶ月で子は流れ、ユリアは弱って死んでいった。今でもユリアを愛してる。なのに、お前を身代わりに抱いて慰めている。滑稽だろ?」
 
 哀愁を漂わせた背を向けたまま、彼は自嘲気味に笑った。

(この人も同じなのね。愛する人が別にいながら、私を抱いてる)

 ローズはかける言葉が見つからなかった。



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