母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

9

 時が止まったように、動けなくなる。

「団長、姫様はおられましたか?」

 ルビオの後から女騎士が遅れて居間に入ってくる。
 そこへ、ユーベルトが駆け込んできた。肩は弓矢が刺さり、血と泥に塗れている。

「ローズは返さんっ!」

 ユーベルトと引き連れている騎士らと、ルビオが激しく火花を散らして剣を交える。騎士らがルビオと女騎士の刃に次々と倒れていく。連戦の疲労からか、ユーベルトの動きが鈍く、隙を突かれてルビオに切られて倒れる。ローズは考えるより先に駆け出していた。

 床に伏すユーベルトを背に立ち塞がる。
 ルビオとの約束が思い出された。

『では、待っているわ。バハロ王を倒し、必ずわたくしを迎えに来てね、約束よ、ルビオ』

 その約束はもう守れない。

「ユーベルト様を切るなら、先にわたくしを切りなさい」

 ルビオが驚いた顔をしている。

「よせ、ローズ、……もう良い。カレイズへ帰れ」

 弱々しい声を聞きながらも、ローズは涙を一筋溢した。ルビオを愛していた。苦しいほど愛していた。迎えに来てもらう約束までした。なのに、それが過去になってしまっていた。

「いいえ、帰りません」

「何を仰られているのです。私とカレイズに戻って結婚する約束をしたではありませんか」

「ごめんなさい、もう、貴方を想い出せないほど、ユーベルト様を愛してしまったの」

 ローズは自分でも気づかないほど、ユーベルトのことを深く愛し、離れることも考えられなくなっていた。

「だから、わたくしもこの方と共に逝かせて」

「ダメだ、死ぬな。ユリアのように、ローズまで死なせたくはないっ!」

 ルビオは両手剣を鞘に収め、片膝をつくと頭を垂れた。

「もう、ここにはかつて愛し合ったローズ様はいらっしゃいません。それでも、私にはローズ様は切れません。その男と一緒にお逃げ下さい」

「団長、何、言ってるんですか! 姫様を連れ帰り……」

 傍に来た女騎士を、ルビオは穏やかな顔をして抱き寄せた。

「私には彼女がいますから」

「だ、団長っ」

 女騎士が頬を紅潮させた。まんざらでもなさそうだ。

「い、いいの?」

「貴女様が生きていて下さるだけで良いのです。カレイズの他の兵が来ます。今のうちです。お早くお逃げください」

 ローズはユーベルトの肩の下に入り、立たせてルビオから背を向けたまま言う。

「ごめんなさい、ありがとう、カレイズの黒騎士団長」

 ルビオと女騎士に見送られながら、ローズはユーベルトと寝室に向かい、教えられた隠し通路から城を脱出した。



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