最強男子の過保護な溺愛が止まりません!

第七話 やさしい笑顔の裏側

暗い廊下の先。
 古い窓から差しこむ月明かりの中に、九条瑞希先輩は静かに立っていた。

「みんな、こんな時間にそろってどうしたの」

 いつも通りのやさしい声。
 やわらかな笑み。
 乱れひとつない制服姿。

 なのに、その場にいる誰ひとりとして、安心した顔はしなかった。

「それ、こっちの台詞やろ」

 蓮くんが半歩前に出る。
 さっきまでの軽い調子は消えていた。

「九条先輩こそ、何してるんですか」

「見回りだよ」

 瑞希先輩はさらりと言う。

「旧資料棟に明かりが見えた気がしたから、念のため確認に来たんだ」

「見回りを一人で?」

 朔が低く返す。

「先生に頼まれることもあるからね」

 完璧すぎる答え。
 自然すぎて、逆に怖い。

 私は氷河ノ先輩の後ろからそっと顔をのぞかせた。
 すると瑞希先輩の視線が、まっすぐ私に向く。

「相沢さん」

「は、はい」

「怖い思いはしていない?」

 やさしい声。
 だけど私は、昨日言われた言葉を思い出していた。

 知りすぎるのは、危ないよ。

 喉が少しだけ乾く。

「……だ、大丈夫です」

「そう。ならよかった」

 そう言って微笑む。
 でもその目は、笑っていない気がした。

「九条」

 氷河ノ先輩の声が冷たく落ちる。

「その紙、誰に書かせた」

 一瞬、空気が止まった。

 瑞希先輩は小さく首をかしげる。

「紙?」

「とぼけるな」

「何の話をしてるのかわからないよ」

 やわらかい微笑みのまま。
 でも、目だけがほんの少し細くなる。

「氷河くんこそ、相沢さんにずいぶん執着してるみたいだね」

「質問に答えろ」

「怖いな」

 瑞希先輩はくすっと笑った。

「そんなに怒ると、彼女が怯えるよ」

「……っ」

 確かに、少し怖い。
 でも今はそれ以上に、瑞希先輩の落ち着き方が不気味だった。

「先輩」

 気づけば、私は一歩前に出ていた。

「昨日、私に言いましたよね」

 自分でも驚くくらい、声は震えていなかった。

「知りすぎるのは危ないって」

 その瞬間。
 瑞希先輩の笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。

「覚えてたんだ」

「……はい」

「じゃあ、忠告は無駄だったみたいだ」

 やさしい声のまま。
 でもその言葉には、ひやりとした刃があった。

 氷河ノ先輩の手が、私の肩を引き寄せる。
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