私の運命の人
私はアパートから少しずつ荷物をいっくんの部屋に移していく。
会えなかった時間を埋めるかのように、私たちは毎晩たくさんおしゃべりした。

「覚えてる? 昔、僕が学校から帰って来たら四歳だったゆりちゃんが庭先からにこにこしながら走って来たんだ。『いっくん、ちょうちょつかまえたの!』って、両手を合わせてね。でもそっと開いてみたら何もいなかった。君はわんわん泣き始めて、僕はそんな君を抱っこしてなんとかなだめようとした。そのうちにうとうとと眠ってしまったから、おばあさんに言って和室の布団に寝かせた。その隙に庭でちょうちょを掴まえて、枕元の君の麦わら帽子の中に入れておいたんだ。目を覚ました君に『ちょうちょさんが戻って来てくれたよ』って言ってね」
「えー、覚えてない。それで?」
「君は『ほんと?』と喜んで、そっと帽子を持ち上げた。ちょうちょを見つけて『わあっ!』って目を輝かせてね。だけどあっという間にちょうちょはひらひらと外に飛んで行ってしまったんだ。また泣いてしまうかな、と思っていたら君は『ちょうちょさん、ありがとう』と言って笑顔で手を振った。きっと虫かごに入れていたとしても、君はすぐにちょうちょを逃がしてやったと思う。こんなに小さいのに、誰に言われなくても自然とそんなことができるなんてって、僕はとても感激したんだ」

いっくんが語る幼い頃の話を、私はなんだかこそばゆい気持ちで聞いていた。
休日は二人でスーパーに行き、食材を買って帰って料理をする。
昔、祖母が作ってくれた肉じゃがやコロッケを二人で再現し、「これこれ、この味」と笑い合った。
いっくんと一緒にいられる毎日はとても楽しく、だけど時折いっくんは何かを考え込むような表情を浮かべ、私はそれが引っかかるようになる。
どうしたの?と問い詰めたいけれど、今はまだこの幸せに浸っていたくてなんとなくやり過ごしていた。
たとえどんなことがあっても、私は絶対にいっくんから離れない。
その想いだけは揺るぎなく。
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