私の運命の人
カチャッと玄関のドアが開く音がして、私はパタパタと出迎えに行く。

「おかえりなさい!」
「ただい……」

顔を上げたいっくんは、驚いたように目を見開いた。

「あの、変かな? ちょっと張り切り過ぎちゃった」

毛先をアイロンで巻いた髪はサイドを残してアップでまとめ、ボルドーのワンピースに身を包んだ私は、気恥ずかしさにうつむく。

「いや、とてもきれいだよ」
「ほんと? 変じゃない?」
「とんでもない。すごく魅力的で美しくて、ちょっと心配になるくらい」
「何が心配なの?」
「その……、ほかの誰かに君を取られそうで」

私はキョトンと首を傾げた。

「いっくん、そんなこと思ってたの? あるわけないのに」
「どうして? いつもそればかり考えてたよ。君の隣にふさわしいのは、もっと若くてかっこいい人だろうって」
「何言ってるの! いっくん、自分がかっこいいことに気づいてないの?」
「僕が、かっこいい? 言われたことないよ。三十路とか、じいさんとしか……」
「それは名前のこと。いっくんはとってもかっこいいよ。ほら!」

いっくんの腕を取って、姿見の前に二人で並ぶ。

「いや、どう見ても君がきれい過ぎて……」
「もう、それならちょっと待ってて」

私は寝室に行くとクローゼットを開け、いっくんのネクタイとジャケットを選んで戻る。

「はい、じっとしててね」

ネクタイをダークブルーのものに着け替えるとジャケットも光沢のあるフォマールなものを羽織らせ、ヘアスプレーを持って来て吹きかけてから髪に指を入れてクシュッと整えた。

「ひゃー、かっこいい! ね?」

再び鏡の前に行くと、いっくんは見慣れないのか自分の姿に驚いている。

「ふふっ、今夜はデートだね」

顔を覗き込んで笑いかけると、ようやくいっくんは笑って頷いた。
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