モブ令嬢と敵国赤ちゃんの育児日記〜婚約破棄寸前ですが後の皇帝に国が滅ぼされないよう頑張ります〜
わいわいと慌ただしいエミリア達をよそに、レオンは状況を整理しようとこめかみに手を当てたーー

 だが、いつもは数秒で終わる情報整理が出来なかった。

 今回ーー通常の仕事に加えて、初めて個人で頼まれた仕事をきちんとこなすべく徹夜をしたこと。

 そして、目前に広がる理解を超えた出来事により頭がショートしてしまい、ふらりと目眩を起こし意識が遠のく。

「あ!レオン!!」
「ーーっ」
 
 エミリアが咄嗟に左腕をまわし抱き止めて、地面に倒れ込むのを抑えるが、レオンとの隙間にいる赤ちゃんを右腕で抱えているので、バランスを崩して後ろに倒れそうになったその時ーー

「きゃい!」

 その場を楽しんでいる赤ちゃんの掛け声と同時に、レオンの体重がわたあめのように軽くなった。

 (これなら、私でも何とか…)

 もそもそと体勢を変えて、肩を組むと、開いたままの扉の方へとレオンを運んでゆく。

「フェレ助も手伝うフェレ!」

 とは言ってくれたが、フェレ助は身長が足りずにずってしまう恐れがあるため、残りの籠やザルに乗ったおむつを室内に運んで、レオンを寝かせる為の寝具の用意と、室内の片付けして欲しいとお願いした。

「お任せフェレ!」

(頼もしいーーけど、何でこんなことに…)

 エミリアはレオンが目を覚ました時にどう上手いこと説明するか、今から考えはじめていた。

 そんなエミリアの姿を、遠くの物陰から見ていた侍女がいた。両手で口を押さえて、ポツリと呟く。

「な、なんてことーーアリッサ様にご報告しなければ」


♢♢♢
カイルside





「カイル様知ってる?商人には鑑定士の魔法を使う者の割合が高いそうよ!ほんっとーに卑しい人達よね」

 晩餐の席でアリッサの教養深さをアピールしていた。
 アリッサの言葉に、カイルは手にしていたフォークとナイフの手を止める。

「卑しい?」
「そうよ!だって、勝手に人の個人情報を覗き見る能力なんて、下世話な平民にぴったりな能力だわ。貴族に鑑定の能力の適性が無くて良かったわよねぇ」
 
「ーー貴族にはいないと、誰が決めたんだ?」

「え?」

「鑑定の能力がある者は、それをひけらかさぬ様教わる。貴族であれば尚更だ。貴族に鑑定の能力が無いと、何故言い切れるんだ?」

「カイル様どうしてそのようなーー」

「お嬢様!」

 話の途中で駆け込んで来た侍女は「ご歓談中申し訳ございません、緊急でアリッサ様にご報告すべきことがありまして」と述べてから、颯爽とアリッサの横に侍る。

 そして、こそりと耳打ちで何から話し始めた。侍女の言葉に、アリッサは目を見開いた。

「確かなの?」
「はい、この目でしかと見ました」
「そうーーわかったわ。貴女はもう下がって良いわよ」

 アリッサに告げられた侍女はぺこりとお辞儀をすると、部屋を出る前にもう一度お辞儀をしてこの場を後にした。


「どうかしたの?アリッサ」


 侯爵夫人が話しかけると、アリッサが口元を優雅にハンカチでぬぐう動作をして、背筋を伸ばした。
 そして、改まった様子で、コホンとわざとらしい咳払いをした。

「コホン。……カイル様。ブラウン伯爵家の名誉に関わる重大な事実を知ってしまいましたわ」

「?」

「な、何を言い出すの?アリッサ」

 何のことか検討もつかないカイルは疑問符を浮かべ、侯爵夫人ははらはらしながら、アリッサに問いかける。

「あのエミリアとかいう没落貴族の娘……」
「エミリアは俺の婚約者で、没落貴族ではない」

 カイルの訂正に、アリッサは心の中で(婚約解消したら没落貴族なのだから、まだそうなってないだけで、結果は同じことじゃない!…まぁ今、そんなことはいいわ)

「あんなに毒気のないふりをして、とんだ 女狐だったようですわよ?」

「アリッサ!」

 咎める様に声を上げた母を、アリッサは話は終わっていないと制する。

「私の侍女が先程見かけましたの。これから夜も老けようと言う時に、若い男を抱きしめて、邸宅に連れ込んでいたのですって」

「な、何ですって?それは確かな話なの?幾ら貴女がまだ子供でも、冗談では済まされない話なのよ」

 困惑気味にしている侯爵夫人を尻目に、アリッサは気分良く続ける。

「それをこれから、私とカイル様で突き止めに行けば良い話だわ!行きましょうカイル様!!伯爵家が温情で置いてあげているのに好き勝手するなんて許せないわ!」


 アリッサが息巻いている間、一言も発さず無口になったカイルが、その話に返事をすることは無かった。
 ただ、黙々と机に置かれた肉を食べてから、数分の静寂の時間が流れる。


「カ、カイル様?」

 かちゃん

 呼びかけを遮るように、それぞれの手に持っていたフォークとナイフを音をたてながら机におくと、口元を拭い、近くにいる執事に声をかけた。

「すまない、俺は気分が優れないから部屋に戻る。侯爵夫人とアリッサ嬢が残りの晩餐を楽しめるように頼む」

「え?カイル様、待って、何処に行くの?」
「何処も何も、部屋に戻るんだよ」
「だ、だって、私達。一ヶ月ぶりで…明日にはもう帰っちゃうしもう少し…」
「体調が悪いところにごめんなさいね、どうぞお部屋でゆっくり休んできて」


「ぇえ、お言葉に甘えさせていただきます。遥々いらして頂いたのに、大したお持て成しが出来ずに申し訳ございません。侯爵夫人」
「いいえ、こちらこそーーいつも、申し訳ないわね」


 アリッサの言葉を修正する様に言葉を重ねた侯爵夫人に頭を下げたあと、カイルは部屋を後にした。


 
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