神の手と呼ばれた私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「……あれ?」
 「俺に何をした」

 笑顔がぴたりと固まる。

 「何って……ヘッドスパです。頭を中心にほぐしました」

 床に座ったまま、シエラは慌てて姿勢を正した。

 「……魔力調律を使ったのか?」
 「え? 使ってませんよ。そもそも私にはできません」

 それはテオドアも分かっていた。
 シエラの魔力量はごく僅かで、魔力調律の素質もない。昨夜も、彼女が魔術を使った気配など感じなかった。
 
 「とにかく、俺に何をしたのか、すべて話せ」
 「ですから、ヘッドスパです! ヘ・ッ・ド・ス・パ!」
 「その程度で、俺があれほど深く眠れるわけがない」

 まるで話が噛み合わない。
 テオドアは額へ手を当て、深く息を吐いた。

 「……話にならない」

 これ以上ここで問答を続けても埒が明かないと判断し、扉へ顔を向ける。

 「アルバ」
 「はい、旦那様」

 呼び終えるのとほとんど同時に返事があり、扉が開いた。
 まるで待ち構えていたかのような早さに、床へ座ったままのシエラが目を丸くしている。
 テオドアはそんな彼女を一瞥してから、アルバへ告げた。

 「今から、この女を部屋から一歩も出すな」
 「ええっ!?」
 「俺に何をしたのか白状するまでだ」
 「だから何もしてませんってば!」

 背後から抗議の声が飛んできたが、テオドアは取り合わなかった。
 そのまま部屋を出ようとしたところで、さらに大きな声が追いかけてくる。

 「あんなに可愛くスヤスヤ寝ていたじゃないですか!」

 足が止まった。
 隣にいたアルバまで、ほんの僅かに目を見開く。

 テオドアはゆっくりと振り返った。
 その表情を見た瞬間、先ほどまで勢いよく反論していたシエラの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
 
 「……いいか」

 自分でも驚くほど低い声が出た。

 「俺に何をしたのか話すまで、ここから出られると思うな」
 「え、ちょっと待ってくださ――」

 最後まで聞かず、テオドアは扉を閉めた。
 しばらくのあいだ、向こう側はしんと静まり返る。

 だが、数秒もしないうちに。

 「旦那様のためにやったのに……どうしてこうなるのよー!」

 シエラの嘆き声が、閉ざされた扉を突き抜けるように廊下まで響き渡った。
< 16 / 16 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

竜王の歌姫

総文字数/94,797

ファンタジー146ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「やっと見つけた、俺の歌姫」 ーーー虐げられた少女は再び花開く
石ころ令嬢は愛を知って光り輝く【1話だけ部門】

総文字数/9,006

ファンタジー7ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ジュエルとコレクターがいる世界。 ジュエルの女は美しく希少なジュエルを持って生まれることが価値とされるが、クレールは石ころのようなジュエルをもって生まれた。両親は美しいジュエルをもつ妹のローザを常に優先し、クレールは冷遇される日々を送っていた。 ローザの婚約者・ジョセフに無理やり襲われそうになるも、ローザに「妹の婚約者を体で誘惑した」と吹聴されて悪評が広まるばかり。しかしクレールは氷の公爵と呼ばれるリュカと出会うことになる。 リュカと目が合った瞬間、心が湧き立つような感覚を覚えるクレール。 そんなクレールを見て「やっと会えた」リュカはそう呟くのだった。 後日、クレールの家を来訪したリュカ。 クレールが自分の運命の相手(リンク)であることを告げて求婚する。 ローザが歯噛みする中、求婚に頷くクレール。 公爵邸での新しい生活が始まるのだった。 クレールは夫となったリュカに溺愛される日々を送るようになる。 石ころの自分が愛されるわけないと思うクレールだが、リュカからの惜しみない愛や屋敷の人々の優しさに触れるうちに徐々に自尊心を取り戻していくと共に、リュカに惹かれていく。クレールは公爵邸に居場所を見出し始めていた。 ある日病欠の侍女の代わりに、没落した元貴族令嬢(ジュエル)で現侍女のハンナがつくことになる。 猫被りのハンナは、2人きりになると「クレールはリュカに相応しくない」と罵詈雑言を吐いたり、数日ぶりに帰宅したリュカに色仕掛けで迫ったりする。 ハンナの言葉よりリュカの言葉を信じたいと、悪意に屈せず反撃するクレール。 やがて全ての悪事がバレて、ハンナは屋敷を追放される。 クレールはリュカと想いを通じ合わせる。 そしてクレールのジュエルはダイヤに変化する。 石ころのようだったジュエルは、愛を知って光り輝くダイヤの原石だったのだ。 クレールのダイヤを身につけながらパーティーに出席する2人。その場の誰よりも美しく輝くクレールを前に、唖然とするローザ。 以前のようにクレールを貶めようとするローザに、もうクレールは負けないのだった。 パーティーで問題行動を起こしたローザは社交界から実質追放される。義母の秘密も発覚し、家族は崩壊の末にそれぞれがざまぁな末路を迎える(ジョセフもざまぁ対象) クレールはリュカの愛を一身に受けながら、いつまでも光り輝くハッピーエンド。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop