それでも明日、あの場所で待ってる
「なんか小田君って、悩みなさそうでいいよね」

そんなふうに言ったものの、じゃあ自分は特別悩んでいるかというとそういうことでもない。もちろん悩みがないわけじゃないけど、楽しいことだってあるし、多分ごく普通の、本当にありふれた高校生活を送っている。

そのうちなんとなく受験をして、どこか適当な大学に入って、姉のように就職活動をして、適当な会社に就職するのかなって思う。

ただ、そうやって先のことを考えるとうんざりしてくる。そんなときに何かちょっとうまくいかないことがあると、面倒くさいって思う。もう全部、面倒くさいって。

本当にちょっとしたことだ。髪の寝癖がどうしても直らなかったり、牛乳をこぼしたり、教科書を忘れたり。

「わたしね、内山先生のお葬式のとき、一瞬思ったの。先生はもう、苦しまなくていいんだなって。病気のことだけじゃなくて、ほかの、面倒くさいこととか嫌なこととかも、一切したり考えたりしなくていいんだなって。死んじゃったら、そうなんだなって」

小田君がふっと顔をこちらに向けた。なんだか変なことを口走ってしまった気がして、わたしはとり繕うように続けた。

「別に、わたしも死んじゃいたいとかそんなんじゃないよ。全然。でもまあ、時々、何のために生きてるんだろうって思うことはあるけど。別に夢も目標もないし、わたしがいなくなっても誰も困らないじゃない?」

「困るでしょ。家族も、友達も」

「困りはしないんじゃないかな。悲しんではくれるだろうけど」

でもきっとそれもその時だけだ。時間が経てば悲しみも癒えて、みんな何事もなかったかのように生きていくんだ。

「困ると思う。俺はこの前の葬式のときも困った。亡くなった、旦那さんの方の内山先生には会ったこともないけど、生きていてほしかったって思う」

「それはもちろんそうだよ」

わたしは慌てて言った。当たり前のことだ。

「俺の担任の、奥さんの方の内山先生とか、その子供とかが悲しんでるの見るの嫌だったもん。だから自分にもっと近い、家族や友達だったらって思うと、本当に困る。絶対に生きていてほしいし、自分だって生きていたいし」

そのとき小田君のブレザーのポケットでスマホの通知音が鳴った。小田君はスマホを取り出し、何度かタップしてからまたポケットに戻した。

「じゃあ俺、行くわ」

わたしは立ち上がった小田君を見上げた。

「まあ、あんまり小難しく考えない方がいいと思うよ。いろいろ。じゃあね」

そう言って軽く手を上げた小田君に、何も言えなかった。胸の中がなんとなくモヤモヤしていた。

家に帰ってからも気持ちはどんよりしていた。

絶対に変なヤツだと思われた。面倒くさいヤツだって。

どうしてあんなことを喋ったんだろう。何のために生きてるんだろうとか、自分がいなくなっても誰も困らないとか。まるでシリアスな青春映画きどりのイタいやつじゃん……。ダッサい……。

それに、悩みなさそうでいいよねとか、偉そうに……。最悪。
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop