能力スコア ~小鞠の繰り返し~

第2話 施設での出来事

 私は毎日、ぐるぐるとハンドルを回していた。
 ハンドルを回している間に、時々周りから話声がする。皆、ハンドルを回しているだけでは退屈なんだろう。

「いつまで回していればいいのかなぁ」
「ちょっと疲れるよね」

 不満の声が周りからする。私もこのハンドル回しには疑問が残る。何か意味はあるのだろうか……と。

「こらっ、そこおしゃべりしない!」

 教官の怒鳴り声がする。

「ごめんなさい」
「すみません」

 おしゃべりしていた二人がすぐにまたハンドルを回し続ける。
『キーンコーンカーンコーン』

 昼食の合図だ。皆は食堂へ向かう。

「じゃあ、行こうか」
「行くよ!」

 私も楓と桂一と共に食堂へ向かった。最近は私を含めてこの三人でお昼を食べることが多い。
 トレーを持って、列へ並ぶ。
 食堂のおばさんはトレーに昼食を乗せる。今日は麦ごはんと緑茶のようだ。

 そして、私達三人は席へ着く。
「ハンドルを回すだけで食事ができるなんていいね」
「ああ、そうだな」
 楓も桂一も嬉しそうに麦ごはんを食べる。

 午後もハンドルを回し、自分の部屋へ戻った。
 部屋は個室になっているが、ベッドと小さな机があるだけで、部屋自体はとても狭い。廊下へ出たりはできるが、建物自体から出ることはできない。

 私は机の前で椅子に座りながら、いろいろと考えていた。
 考えているうちに、私はちょっと心配になってきた。いつまでこんなことが繰り返されるのだろう。一生このままなのか。
 明日はちょうど外出許可日だ。一か月に一回、施設の外に出ることができる。本屋にでも行って、なにか勉強になるものでも買ってこよう。

 翌日。

 チュンチュン。

 チュンチュン。

 スズメが鳴いている。朝食をそそくさと済ませ、私は施設の外へ出た。久々に街の空気を吸った気がした。
 知っている街ではないが、適当に商店街などを歩き、本屋を探した。

『物理堂書店』

 そう書いてある看板を見つけた。大きさは中程度だろうか。とりあえず中へ入ってみた。
 お堅い名前の書店なのか、漫画本は少なく、資格や学術的な本が多く並んでいた。
 私はいくつか勉強になりそうな本を取り、中を少し読み気に入ったものを何冊か購入した。
 施設へ帰り、すぐに自分の部屋へ入った。
 この施設で、勉強している姿はあまり見られないほうが良い。なんとなく私はそう思った。

 夜になり、買ってきた本を読み始めた。

 コツ。コツ。コツ。

 本を読み始め、1時間ぐらい経った頃だろうか。部屋のドア付近で人の歩く音がした。看守なのか。私は読んでいた本を机の下に隠した。

 一瞬、私の部屋の前で足音が止まったが、少しの間をおき、再び足音がし、だんだんとその音が小さくなっていった。
「ふぅ。見られなくて良かった」

 何日か、この勉強を続けていたが、夜以外も勉強をしたくなって、私は昼食後も人目を盗んで勉強をし始めた。

 何日か経った、ある日。
 楓と桂一と三人での昼食後、私はまた一人で外のグランドの死角で勉強をし始めた。
「しかし、毎日の勉強は疲れるな」
 うっかり独り言を漏らすと、後ろからなにやら気配がした。動物などではなく、どうやら人のような感じだった。

「どうしたの?」
「何しているんだ?」

 焦って、声を方向を向くと、楓と桂一がいた。
「いや。えーと」

 私はどう説明すればいいのかわからなかった。
 動揺していると、桂一と楓がポケットから本を取り出した。
「俺たちも勉強しているんだぜ」
「そうなのよ」

 そして、桂一がグランドから施設にある建物のほうへ目を向けた。
「ハンドルを回しているだけで、ご飯が食べられるなんておかしい。何かあるはずだ。まずは施設を出ることを考えよう」

 私たちは一生懸命、勉強をした。そして、一年が経った。

 いつもの昼食後、私たちは施設のグランドの脇にある、休憩所の椅子に座った。
「この施設は年に一度、更新があり、ここを離れることも可能だ。ただ、一定期間、就職できないと、また連れ戻される」

 桂一が真剣な表情で話し始めた。
「俺はここを離れる。皆はどうする」

 桂一の問いに楓と私はこう答えた。
「もちろん、出るわ」
「うん。この施設からは離れたい」

 そして、桂一はこう言った。
「俺も出ていく。この怪しい施設とも、おさらばだ」

 10日後。

施設の門の前で、私たちは最後の話をした。
「じゃあな」
「じゃあ、私もこれで」

 桂一と私が別れの挨拶をすると、楓が下を見ながら何かを言い始めた。
「実は……。私には記憶がない期間があるの。自室にはパソコンがあるはずだけど、なぜか暗号化されていて見られないの。でも、あまり関係ない話だったかな」

 私は楓の記憶の事と、暗号化されたパソコンのことが気になったが、まずは自分のこれからの事を考えるしかなかった。


< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
学校の帰り、穂乃花 光(ほのか ひかる)と友人の屈子(くつこ)は鏡を拾う。 古ぼけた鏡だったが、それは不思議な鏡だった。 普通の鏡だと思っていたけど、月明かりの夜、鏡を覗いたら、 5年先の未来が見えた。 何故5年先ってわかったって? それは部屋のカレンダーを見たから。鏡に映っているカレンダーは2029年だったのよ。
いきなり飛び蹴りをしてきた不思議な女の子
konoha/著

総文字数/8,435

恋愛(ラブコメ)6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
その図書館には、奇妙なうわさがあった。朝、職員が図書館へ入ると、室内が荒らされていることがあるというのだ。 僕はそのうわさの真相を確かめに図書館へ向かった。しかし途中、僕はいきなり女の子から横から飛び蹴りを食らいそうになる。 ギリギリかわしたが、女の子はそのまま去ってしまった。 よくわからなかったが、僕はそのまま図書館へ向かった。 ※この作品は日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2025の共通文章から創作したものを一部改変したものです。
蝶々のいるカフェ
konoha/著

総文字数/15,759

恋愛(ラブコメ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
そのカフェには蝶がいる。だが、そのままで見られない。スマホのアプリで見るのだそうだ。拡張現実(AR)という技術を使っているらしく、店内をスマホでかざせば蝶が見られる。そして、次第に私とマスターはその蝶に振り回される。それにバイトの恋ヶ窪、小川さんも加わって…… カフェの日常ものです。 ・主人公(小説家) 宮沢(みやざわ) ・マスター 北村 任三郎(きたむら にんざぶろう) ・バイトのウェイトレス 恋ヶ窪 砂花(こいがくぼ さか) 小川 美羽(おがわ みわ)

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop