憧憬少女
雑多でギラギラとした歌舞伎町のネオン街を抜ける。
キャッチの声や酔っ払いの歓声が少しずつ遠ざかり、15分ほど歩くと、そこには見慣れた路地裏。
壊れているのか、チカチカとライトが点滅している街灯。
まるでこの場所だけ昭和に取り残されたかのように、静まり返っている。
古い建物が並ぶ中で、比較的少し綺麗なこのアパートが、店の寮であり、私の住処だ。
階段を上がり、鍵を取り出して301号室へ入る。
6畳ほどの部屋の中には、シングルベッド、テーブル、冷蔵庫、洗濯機、小さなテレビなど、生活に必要最低限の物が置かれている。
もちろん、私が買った物じゃない。
店が用意してくれた物だ。
服を脱いで洗濯機の中に入れる。
ユニットバスの小さな鏡に映る私は、店で見た鏡に映った私と違い、心なしかホッとしているような気がした。
…今日も、暇なく仕事があってよかった。
風俗は絶対に稼げる仕事じゃない。
出勤したのに客が付かなくて、給料ゼロで帰るキャストもいる。
私は今のところ客に恵まれているけど、明日どうなるかの保証はない。
メイクを落として、念入りにシャワーを浴びながら、そんなことを考えているのにハッとして、頭を振った。
家にいる時くらいは、仕事や客のことはあまり考えたくない。
頭にバスタオルを巻いて、体にボディクリームを塗る。
軽くつねっただけでほんのりピンクになる、この白い肌にボディクリームを塗るのが毎日の日課。
適当にスウェットを着て、スキンケアを済ませて、髪の毛にドライヤーを当てて乾かした。
バッグの中から給料袋を取り出して、5000円だけ財布の中に入れる。
残りは百円ショップで買った大きめのポーチに移し替えた。
このポーチの中には、100万円以上入っている。
風俗嬢として働いて貯めた、私のお金。
ポーチが膨らんでいくことだけが、私がこの街で生きている唯一の証明のような気がした。
テーブルの下にそっとポーチを置いて、ベッドに寝転ぶ。
スマホの時刻は1:30を示している。
電気を消して、テレビもつけない、真っ暗で静かな部屋。
遠くで微かに、車の走る音だけが聞こえていた。
だんだん瞼が重くなってきて、眠気が襲ってくるのが分かった。
…ああ、そういえば今日、何も食べてなかったな。
お腹、空いてないし、いっか。
完全に瞼が閉じた時、ぼんやりとした意識は途絶えた。