どうやら青と春がケンカしているらしい



ーーー

「2年5組青田です」

「2年2組春田です、同じ学年なんですね」

「…そうですね」

本を、誰かと一緒に読むなんて今までやったことがない。
図書室の中にある自習用の大きめの机。今日初めて話した女子と椅子に横並びで座った。
俺たちの真ん中にはいわゆる青春キラキラ恋愛小説が置かれている。

なぜこの春田という女子は「一緒に読もう」などと提案を?読み慣れているんじゃないのか? 
まさか、柄にもなく恋愛小説を読もうとしている学校で目立たない暗い男を嘲笑うため?

「春田さんは、こういう本、よく読まれるんですか?」

質問をして気づいた。先ほど春田さんは「私のような人間が読んでいい本じゃない」ということを言っていた。
春田さんは、強く首を横に振った。まるで質問も含めて不本意だという顔をした。

「全く読んだことなくて、参考がてら読んでみたくて」

「参考…?」

ということは、春田さんにとってもこれは何かしらの参考資料ということだろうか。
本当は読みたくないのに、意地でも読まなければならない事情。そんなことあるか、普通。

「ひとまず、読んでみますか」

聞いてはみたかったものの、今日、この時間だけの関係の人間に春田さんも話したくないだろうと、勝手に察して俺は切り替えるように言葉を放ち、本を開く。
春田さんに事情を聞くということは自分も話さなければならない状況になってしまうし、それはなんとなく嫌だ。
春田さんも小さく「うん」と頷いた。




冴えない平凡な女子高生が、学校の中で一番モテる男子高校生を好きになり、片思いかと思いきや実は男の方もその女子のことが好きだった。
ざっと要約するとそんな恋愛小説である。

「…この女はなぜ、この男が好きなんでしょうか。やけに口調が横暴ですよね」

投げかけた疑問に春田さんが本から視線を上げて俺の方を見た。
なにやら自信ありげな顔をしている。やはり、この女子は、恋愛小説がなんたるかを分かっているのでは。

「きいたことあります、こういうの俺様っていうんですよ。自分の気持ちをストレートにぶつけるがあまり、口調が荒くなってしまう不器用な男」

「…なるほど」

「たぶんこの男子高校生はあと少ししたらデスメタルに目覚めると思います」

「よく分かりませんが違うと思います」

何を言っているんだ、この人。と、再び本に瞳を落とす。
俺より読むスピードが遅い春田さんを少し待って、ページをペラリとめくった。

「主人公の女子高生には、血の繋がらない弟がいてその弟も主人公のことが好きになるという展開ですね」

「恋愛によく出る『ライバル』ということですね」

ライバル、か。ミステリーでも遺産争いや自分より成功している相手への嫉妬心から事件に繋がることがある。そうか、恋愛でもそういう想いが生じるのか。

「ではこの後、相手のイケメン男子高校生は、主人公の弟を毒殺する計画を立てるわけですね」

「こんな青春恋愛小説で、毒殺なんてされるわけないでしょ」

「では、高校生らしく単純に刺し殺しますか?」

「殺し方の問題じゃないです」

ドン引きの顔をされる。デスメタルに目覚める方が絶対にあり得ないけどな。
そんなことを思いながら、引き続きページを捲った。
デスメタルも、毒殺も、そんな込み入った展開はなく、ただ主人公たちは恋愛に頭を悩ませながらも言葉を相手にぶつけ、勘違いし、勘違いされ、両想いは確定なのに遠回りをしながら少しずつ近づいていく。

むず痒い、なんだお前ら、さっさと告白して付き合えばいいのに。

だけど、もう少しその過程ものぞいていないような、なんとも言えない気持ちが渦巻く。

「いよいよ、次の章で告白ですかね」

「春田さんはこのあとどんな展開を迎えると思いますか」

「男が屋上からパラシュートで飛び降りながら、ギター奏でてロックに告白します」

「情報量多い」

「じゃあ青田くんはこのあとどんな展開をむかえるとお思いで?」

「気持ちを確かめ合って無理心中ですかね、有名な文豪たちも無理心中の事件起こしてましたし」

「青春キラキラ恋愛小説で、無理心中ですか、どう考えても違いますよね」

「パラシュートでギター奏でて告白の方があり得ない」

「無理心中の方があり得ない」

「はあ?じゃあ春田さん先に読んで」

と、一度本を閉じて春田さんの方に本を滑らせる。すると即座に返ってきた。喧嘩腰の口調とともに。

「青田くんが先に読んで、さっきから読むスピード早すぎんのよ」

「君が遅すぎるんだ」

「私は本気で青春恋愛を知りたくて読んでんの、惰性で仕方なく〜みたいな青田くんと一緒にしないで」

「惰性で仕方なくだと?俺だって青春キラキラ恋愛小説を知りたくてたまらないから読んでんだ。俺が青春を知ることが今求められてんだよ」

「求められてるって…誰に?」

「…世間に?」

「ナニイッテンノ?」

やばいヤツだと思われている。
怪訝な顔をしている春田さんに俺は「いいから」とやや荒めに本を押し付けた。

「いいから、春田さん先に読んで」

「で、でも…」

「俺より先に青春キラキラを知れることをありがたく思え」

「俺様キャラ憑依してんじゃん…」


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