姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
……え? ……え? ……え、待って。
私は脳内でパニックになる。
だって睦美の胸元には醜い傷痕があるのに……。それを見せられないから、つきあった人とは深い関係になる頃に別れなきゃいけなかったはずで……。
「アオくん、抱いて」
睦美はするすると服を脱ぎ下着だけになっていた。上半身が露になって……。
「綺麗だね」
碧が、睦美の胸元にかかる長い髪を肩の向こうへと流した。
!
はっきりと見えた。
睦美の白い肌のどこにも、私の記憶に刻まれたあの、醜い傷痕はなかった。
……どういうこと? どうして傷が消えてるの? 治ったの? それとも治したの? いったいいつ?
心臓がばっくん、ばっくん、と騒ぎ出した。
「私の全部、アオくんにあげるよ」
「念のために聞くけど、初めてじゃないよね?」
「……」
「処女は苦手で」
「ううんっ、私、初めてじゃないよ。今までカレシいたし」
「何人とした?」
「……」
「ひとり? ふたり? もっと?」
最後の問いかけに睦美がコクンと頷いた。
ハア、ハ、ハ、ハッ――
目の前が波打った。
呼吸が勝手に大きくなる。
過呼吸を起こしかけ、私は脇目もふらず玄関へと繋がるドアに向かって走った。「誰かいるっ」という睦美の悲鳴に近い声が聞こえてきたが、私は靴を胸に抱いたまま、鍵のかかっていない玄関から外へ飛び出した。
そうして何時間も掛けてようやくひとつの真実に辿り着いた。
醜かったあの傷痕が、なにもなかったように消えるわけがない。ならば睦美の胸元には最初から、傷なんてなかったのだ。
私は……
私は騙されていたのだ、ずっと。
【第一章終わり】