恋と焦燥のロードマップ
【『帰る場所』エピローグ】
旅館から帰って、数日が経った。仕事もいつものように戻り、湊と連絡を取る時間も少しずつ日常の中へ馴染んでいった。そんなある日の午後、私は部屋の片付けをしていて、棚の奥にしまっていた古い箱を取り出した。中には昔の手紙や使わなくなった小物、子どもの頃に使っていたものなどが入っていて、それらを一つずつ整理していくうちに、一番下から何年も触れていなかったものが出てきた。
写真だった。
私は、その箱を見つめたまま、しばらく手を動かせなかった。事故のあと、家に残っていたものを整理したときに入れたのだろう。いつしまったのかも、もう覚えていない。ただ、そこにあることだけはずっと分かっていた。それでも、写真を見るのが怖くて、何年もの間、箱を開けることさえしなかった。そこに写っている人たちを見れば、もう二度と戻ってこないことを思い出してしまう気がして、見ないほうがいいと思っていた。
私は一度、箱を閉じようとした。けれど、旅館で過ごした日のことがふと頭に浮かんだ。湊の母親が見せてくれた古い写真。その中で笑っていた湊。家族と過ごした時間を懐かしそうに話す湊の母さん。そして、自分が湊に話した「もっと、家族と話しておけばよかった」という言葉。あの言葉を口にしたとき、自分の中にずっと閉じ込めていたものが、ほんの少しだけ動いたような気がしていた。
私は、ゆっくりと箱を開けた。
一枚の写真を取り出す。そこには、まだ幼かった自分と、父親と母親、そして兄が写っていた。何年も前の写真だから、少し色あせていて、端の部分も古くなっている。それでも、四人が笑っていることは今でも分かった。
しばらく、その写真を見つめていた。
胸の奥が、少しだけ痛くなる。やっぱり悲しかった。もう会えない。もう声を聞くこともできない。あの日のことを思い出せば、今でも苦しくなる。それでも、写真の中の家族を見ていると、悲しいことだけが家族との時間だったわけではないことも、少しずつ思い出せた。
一緒にご飯を食べたこと。くだらないことで喧嘩したこと。お母さんに怒られたこと。お父さんと出かけたこと。お兄ちゃんとくだらないことで笑ったこと。失った日の記憶だけが、家族との時間ではなかった。私が失ったのは家族と過ごすこれからの時間であって、過去に一緒に過ごした時間まで失ったわけではない。
写真だった。
私は、その箱を見つめたまま、しばらく手を動かせなかった。事故のあと、家に残っていたものを整理したときに入れたのだろう。いつしまったのかも、もう覚えていない。ただ、そこにあることだけはずっと分かっていた。それでも、写真を見るのが怖くて、何年もの間、箱を開けることさえしなかった。そこに写っている人たちを見れば、もう二度と戻ってこないことを思い出してしまう気がして、見ないほうがいいと思っていた。
私は一度、箱を閉じようとした。けれど、旅館で過ごした日のことがふと頭に浮かんだ。湊の母親が見せてくれた古い写真。その中で笑っていた湊。家族と過ごした時間を懐かしそうに話す湊の母さん。そして、自分が湊に話した「もっと、家族と話しておけばよかった」という言葉。あの言葉を口にしたとき、自分の中にずっと閉じ込めていたものが、ほんの少しだけ動いたような気がしていた。
私は、ゆっくりと箱を開けた。
一枚の写真を取り出す。そこには、まだ幼かった自分と、父親と母親、そして兄が写っていた。何年も前の写真だから、少し色あせていて、端の部分も古くなっている。それでも、四人が笑っていることは今でも分かった。
しばらく、その写真を見つめていた。
胸の奥が、少しだけ痛くなる。やっぱり悲しかった。もう会えない。もう声を聞くこともできない。あの日のことを思い出せば、今でも苦しくなる。それでも、写真の中の家族を見ていると、悲しいことだけが家族との時間だったわけではないことも、少しずつ思い出せた。
一緒にご飯を食べたこと。くだらないことで喧嘩したこと。お母さんに怒られたこと。お父さんと出かけたこと。お兄ちゃんとくだらないことで笑ったこと。失った日の記憶だけが、家族との時間ではなかった。私が失ったのは家族と過ごすこれからの時間であって、過去に一緒に過ごした時間まで失ったわけではない。