恋と焦燥のロードマップ
第三章【逆算のチェックイン】
【オフィスに響いた焦燥と、無口な彼の猛追】
「……よし、これで営業二課の今月分の経費清算は終わり」
パソコンのエンターキーを少し強めに叩き、私は大きく息を吐き出した。時計の針は午後三時を回ったところ。画面の隅に綺麗に並んだExcelのファイル群は、我ながら完璧な仕上がりだった。
都内の中堅商社で営業事務として働き始めて、気がつけばもう十年。三十二歳になった。
頼まれる前に先回りして資料を揃え、他部署との面倒な調整も笑顔で丸く収める。社内では「仕事の段取りは完璧で、後輩の面倒見もいい有能な先輩」として、それなりのポジションを築いている自負はある。
けれど、パソコンの画面が暗転した瞬間に映り込む自分の顔を見るたび、胸の奥がじわりと焦げ付くような感覚に襲われる。
職場を一歩出れば、私はただの「取り残された独身女子」だ。
今朝も、給湯室のゴミ箱に捨てられていた高級ブランドの紙袋が目に入った。昨日、受付の二十代の女の子が、彼氏からプロポーズされて婚約指輪をもらったのだという。
「杏奈さん、私、本当に幸せです!」
そう言って左手を輝かせていた彼女に、「本当におめでとう! 自分のことみたいに嬉しい!」と、完璧な先輩としての笑顔を返した自分の顔が、今でも引き攣っているような気がする。
周りはみんな、とっくに「あっち側」の人生へ行ってしまった。
SNSを開けば、タイムラインは結婚式の写真や赤ん坊の成長記録、マイホームの進捗報告で埋め尽くされている。私一人だけが、終わりのない泥臭い日常のループに足をとられている。
『このままキャリアの積み上げと引き換えに、自分の人生のプライベート欄が空欄のまま、オフィスで干からびるんじゃないか』
パソコンのエンターキーを少し強めに叩き、私は大きく息を吐き出した。時計の針は午後三時を回ったところ。画面の隅に綺麗に並んだExcelのファイル群は、我ながら完璧な仕上がりだった。
都内の中堅商社で営業事務として働き始めて、気がつけばもう十年。三十二歳になった。
頼まれる前に先回りして資料を揃え、他部署との面倒な調整も笑顔で丸く収める。社内では「仕事の段取りは完璧で、後輩の面倒見もいい有能な先輩」として、それなりのポジションを築いている自負はある。
けれど、パソコンの画面が暗転した瞬間に映り込む自分の顔を見るたび、胸の奥がじわりと焦げ付くような感覚に襲われる。
職場を一歩出れば、私はただの「取り残された独身女子」だ。
今朝も、給湯室のゴミ箱に捨てられていた高級ブランドの紙袋が目に入った。昨日、受付の二十代の女の子が、彼氏からプロポーズされて婚約指輪をもらったのだという。
「杏奈さん、私、本当に幸せです!」
そう言って左手を輝かせていた彼女に、「本当におめでとう! 自分のことみたいに嬉しい!」と、完璧な先輩としての笑顔を返した自分の顔が、今でも引き攣っているような気がする。
周りはみんな、とっくに「あっち側」の人生へ行ってしまった。
SNSを開けば、タイムラインは結婚式の写真や赤ん坊の成長記録、マイホームの進捗報告で埋め尽くされている。私一人だけが、終わりのない泥臭い日常のループに足をとられている。
『このままキャリアの積み上げと引き換えに、自分の人生のプライベート欄が空欄のまま、オフィスで干からびるんじゃないか』