恋と焦燥のロードマップ
これまでなら、返事が来るまでの数分なんて何とも思わなかったはずなのに、その夜だけは妙に長く感じた。撮影現場で大勢のスタッフに囲まれるときよりも、舞台に立つ直前よりも、たった一人からの返信を待つ方が落ち着かなかった。
しばらくして、通知が鳴る。
『雫:会ってみたい』
その短い言葉をみた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。
『湊:じゃあ、今度の土曜日とかどう?』
『雫:大丈夫だよ』
『湊:場所は俺が考えておくね』
『雫:よろしくお願いします(笑)』
画面を見ながら、俺は小さく笑った。
たったそれだけのやり取りなのに、土曜日という予定ができただけで、それまでと同じ毎日が少し違って見えた。
それから数日間、俺は撮影の合間に何度も土曜日のことを考えていた。どこで会うか、何をすルカ、何時にするか。普通なら、初めて会う相手との予定を決めるだけなのに、俺にとってはそれ以上の意味があった。今まで雫と交わしてきた言葉が、画面の向こう側から現実へと移る。そのことが楽しみである一方で、少し怖かった。
メッセージの中では、何度でも言葉を選び直せる。返事をする前に考えることもできるし、相手の顔が見えないからこそ、余計な緊張をしないで済む。でも、実際に会えばそうはいかない。声の大きさも、話す速さも、笑うタイミングも、沈黙した時の空気も、全部その場で生まれる。
それでも会ってみたいと思った。
雫がどんな顔で笑うのか、どんな声で自分の名前を呼ぶのか。そんなことを、俺はもう知りたくなっていた。
土曜日の朝、鏡の前に立って、いつもより少しだけ時間をかけて身支度をした。とは言っても、派手な服を選んでいるわけじゃない。むしろ目立たないように、黒に近い服を選んで、髪もできるだけ自然に整えた。その上から帽子を深く被り、メガネをかける。
鏡に映った自分をみて、これなら大丈夫だろうと思った。
自惚れだとはわかっているが、俳優として仕事をしている以上、街を歩いているだけで気づかれることもある。撮影現場ならまだしも、休日くらいは何も考えずに歩きたかったし、何より今日は雫と初めて会う日だった。余計な心配はしたくなかった。
待ち合わせの場所へ向かう途中も、何度か帽子の位置を直した。
約束の時間より少しだけ早く着いて、俺は人の流れを眺めながら雫を待った。
そして、スマートフォンの画面に表示された時間が約束の時刻を少し過ぎたところ、少し離れたところから一人の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
写真では見た事あったけど、実際に見るのは初めてだった。
雫だ。
そう思った瞬間、今までも何度も画面越しに見ていた名前が、初めて一人の人間として目の前に現れたような気がした。俺は無意識に背筋を伸ばしていた。
雫もこちらに気づいたらしく、少しだけ足を止めて、それから俺の方へ近づいてくる。
「……湊さん?」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
「あ、うん。雫さん?」
「そうです」
「よかった。合ってた」
「ふふ、私も、ちょっと自信なかった」
「俺も」
そんな、なんでもない会話から始まった。けれど、その瞬間から、俺たちの関係は少しだけ変わった。
画面の向こうにいる人が、今は目の前にいる。そのことが、ただ嬉しかった。
しばらくして、通知が鳴る。
『雫:会ってみたい』
その短い言葉をみた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。
『湊:じゃあ、今度の土曜日とかどう?』
『雫:大丈夫だよ』
『湊:場所は俺が考えておくね』
『雫:よろしくお願いします(笑)』
画面を見ながら、俺は小さく笑った。
たったそれだけのやり取りなのに、土曜日という予定ができただけで、それまでと同じ毎日が少し違って見えた。
それから数日間、俺は撮影の合間に何度も土曜日のことを考えていた。どこで会うか、何をすルカ、何時にするか。普通なら、初めて会う相手との予定を決めるだけなのに、俺にとってはそれ以上の意味があった。今まで雫と交わしてきた言葉が、画面の向こう側から現実へと移る。そのことが楽しみである一方で、少し怖かった。
メッセージの中では、何度でも言葉を選び直せる。返事をする前に考えることもできるし、相手の顔が見えないからこそ、余計な緊張をしないで済む。でも、実際に会えばそうはいかない。声の大きさも、話す速さも、笑うタイミングも、沈黙した時の空気も、全部その場で生まれる。
それでも会ってみたいと思った。
雫がどんな顔で笑うのか、どんな声で自分の名前を呼ぶのか。そんなことを、俺はもう知りたくなっていた。
土曜日の朝、鏡の前に立って、いつもより少しだけ時間をかけて身支度をした。とは言っても、派手な服を選んでいるわけじゃない。むしろ目立たないように、黒に近い服を選んで、髪もできるだけ自然に整えた。その上から帽子を深く被り、メガネをかける。
鏡に映った自分をみて、これなら大丈夫だろうと思った。
自惚れだとはわかっているが、俳優として仕事をしている以上、街を歩いているだけで気づかれることもある。撮影現場ならまだしも、休日くらいは何も考えずに歩きたかったし、何より今日は雫と初めて会う日だった。余計な心配はしたくなかった。
待ち合わせの場所へ向かう途中も、何度か帽子の位置を直した。
約束の時間より少しだけ早く着いて、俺は人の流れを眺めながら雫を待った。
そして、スマートフォンの画面に表示された時間が約束の時刻を少し過ぎたところ、少し離れたところから一人の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
写真では見た事あったけど、実際に見るのは初めてだった。
雫だ。
そう思った瞬間、今までも何度も画面越しに見ていた名前が、初めて一人の人間として目の前に現れたような気がした。俺は無意識に背筋を伸ばしていた。
雫もこちらに気づいたらしく、少しだけ足を止めて、それから俺の方へ近づいてくる。
「……湊さん?」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
「あ、うん。雫さん?」
「そうです」
「よかった。合ってた」
「ふふ、私も、ちょっと自信なかった」
「俺も」
そんな、なんでもない会話から始まった。けれど、その瞬間から、俺たちの関係は少しだけ変わった。
画面の向こうにいる人が、今は目の前にいる。そのことが、ただ嬉しかった。