恋と焦燥のロードマップ
「え?」
「雫さんが静かなところが好きって言ってたから、こういうところがいいかなと思って」
私は少し驚いた。そんなことを話したのは彼と話し始めた最初の頃のことだ。
「……覚えてたんですね」
「覚えてますよ」
湊は当たり前のように言った。その言葉が、なんとなく嬉しかった。
店に入って、向かい合わせの席に座る。注文を終えてからも、最初のうちは少しだけぎこちなかった。メッセージなら何も考えずに遅れる言葉も、目の前に本人がいると、発言する前に一度考えてしまう。
「なんか、不思議ですね」
私がそういうと、湊が首を傾げた。
「何がですか?」
「こうやって会ってるのが」
「ああ……分かります」
湊も笑った。
「毎日話してたから、初めて会った感じがあんまりないんですよね」
「私も、それ思いました」
そこから、少しずつ会話が戻ってきた。
仕事の話をしたり、最近見た映画の話をしたり、好きな食べ物の話をしたり、メッセージで話していた内容を、今度は声にして話す。
それだけなのに、画面の中にいた人が、少しずつ現実になっていくような感覚があった。
湊は、思ったよりよく笑う人だった。
メッセージでは分からなかった小さな癖も、実際に会うとよく見える。話を聞くときは少しだけ身体をこちらへ向けること。考える時にグラスへ視線を落とすこと。私が何か話すと、最後まで逸らさずに聞いてくれること。
そんな些細なことばかりが、妙に印象に残った。
食事を終えて店を出た後は、私たちはそのまま駅へと戻らず、近くの公園を歩いた。
休日の昼下がりで、子ども連れの家族や犬の散歩をしている人がちらほらいる。ベンチに座っている人たちを横目に見ながら、私たちはゆっくり歩いた。
「今日は、どうでした?」
不意に湊がそう聞いてきた。
「どうって?」
「楽しかったですか?」
私は少しだけ考えた。
「…楽しかったです」
湊が笑った。
「俺も楽しかったです」
その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ温かくなる。
駅が見えたところで、私は足を止めた。
「じゃあ、今日はここで」
「はい」
少し名残惜しいと思った。でも、それを口にするのは恥ずかしかった。だから私は、代わりに笑ってみせた。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
湊も笑ってくれた。
「雫さんが静かなところが好きって言ってたから、こういうところがいいかなと思って」
私は少し驚いた。そんなことを話したのは彼と話し始めた最初の頃のことだ。
「……覚えてたんですね」
「覚えてますよ」
湊は当たり前のように言った。その言葉が、なんとなく嬉しかった。
店に入って、向かい合わせの席に座る。注文を終えてからも、最初のうちは少しだけぎこちなかった。メッセージなら何も考えずに遅れる言葉も、目の前に本人がいると、発言する前に一度考えてしまう。
「なんか、不思議ですね」
私がそういうと、湊が首を傾げた。
「何がですか?」
「こうやって会ってるのが」
「ああ……分かります」
湊も笑った。
「毎日話してたから、初めて会った感じがあんまりないんですよね」
「私も、それ思いました」
そこから、少しずつ会話が戻ってきた。
仕事の話をしたり、最近見た映画の話をしたり、好きな食べ物の話をしたり、メッセージで話していた内容を、今度は声にして話す。
それだけなのに、画面の中にいた人が、少しずつ現実になっていくような感覚があった。
湊は、思ったよりよく笑う人だった。
メッセージでは分からなかった小さな癖も、実際に会うとよく見える。話を聞くときは少しだけ身体をこちらへ向けること。考える時にグラスへ視線を落とすこと。私が何か話すと、最後まで逸らさずに聞いてくれること。
そんな些細なことばかりが、妙に印象に残った。
食事を終えて店を出た後は、私たちはそのまま駅へと戻らず、近くの公園を歩いた。
休日の昼下がりで、子ども連れの家族や犬の散歩をしている人がちらほらいる。ベンチに座っている人たちを横目に見ながら、私たちはゆっくり歩いた。
「今日は、どうでした?」
不意に湊がそう聞いてきた。
「どうって?」
「楽しかったですか?」
私は少しだけ考えた。
「…楽しかったです」
湊が笑った。
「俺も楽しかったです」
その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ温かくなる。
駅が見えたところで、私は足を止めた。
「じゃあ、今日はここで」
「はい」
少し名残惜しいと思った。でも、それを口にするのは恥ずかしかった。だから私は、代わりに笑ってみせた。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
湊も笑ってくれた。