放課後ロック・クラッカー!〜校内の開かずの扉、すべて開けてみせます〜
「ははっ、いい目だね、鍵開け姫! その瞳、最高にゾクゾクするよ!」
クロノ・ヴァレンタインは不敵に微笑むと、純銀のピックを球体金庫の『牡羊座(アリエス)』の鍵穴へと一気に滑り込ませた。
――スッ……。
金属と金属が擦れる音すらしない。
無音。完璧なまでの『無音のピッキング』!
『なっ……!? あの早さと静かさ……! ピンの抵抗(反発力)を完全に殺してる!?』
私の背筋に冷や汗が流れた。
鍵開け(ピッキング)とは、本来、工具で内部のピンを押し上げる際に生じるかすかな「手応え」や「打音」を頼りに行うものだ。
けれど、クロノの指先はまるで水滴が滑るように、物理的な抵抗を一切感じさせずにピンを滑らせている。
「何を怯えている、鈴宮!」
背後から、神臣先輩の低く力強い声が私の鼓膜を揺らした。
先輩の手が私の右肩を強く掴み、ぐっと自分の方へと引き寄せる。
「相手の手並みに飲まれるな。お前にはお前の鍵開け(スタイル)があるはずだ」
「神臣先輩……っ!」
「あいつが『無音』なら、お前は『音』を聴け。僕がお前の耳となり、盾となる。……見せつけてやれ、生徒会特殊捜査課の底力を!」
神臣先輩の瞳に宿る、圧倒的な情熱と私に対する絶対の信頼。
その熱量が、恐怖で凍りつきかけていた私の心臓を一瞬で解かした。
『そうだ……! 私は私のやり方で、ルシファーちゃんたちと一緒に解くんだ!』
「はいっ!!」
私は叫ぶと同時に、腰のポーチから左右三本ずつ、計六本のチタンピックを抜き放った。
クロノが対峙する『牡羊座』の対角線上――『天秤座(ライブラ)』の鍵穴へ、両手のピックを一気に突き立てる!
――ガチンッ!!
高らかな金属音が、静寂に包まれた時計塔の最上階に響き渡った。
「ほう……『音』と『振動』を全身で拾う聴覚ピッキングか。荒削りだが、ダイナミックで悪くないね!」
球体金庫の頭上で純銀のピックを躍らせるクロノが、感心したように目を細める。
球体金庫の表面に刻まれた十二の星座盤が、カチカチと狂おしい速度で回転を始めた。
十二の鍵穴すべてに仕込まれたピンが、内部の巨大な『時間歯車(クロノス・ギア)』と連動して、一秒ごとにパターンを変化させていく。
「クロノ! その金庫、ただのカラクリじゃありませんよ!」
私はイヤホンから拾う集音センサーの音を全神経で分析しながら叫んだ。
「内壁の三層目……そこにファントム・キーが仕掛けた『電子妨害(サイレント・トラップ)』が隠されてます! 一定以上の速度でピンを揃えると、内部の自爆装置が作動して秘宝ごと木っ端微塵になります!」
「ふふっ、知っているさ! だからこそ燃えるんじゃないか!」
クロノは怯むどころか、仮面の奥の紫の瞳を妖しく光らせた。
純銀のピックが銀色の残像を描き、牡羊座、牡牛座、双子座のピンを瞬く間に固定していく。
だが――その直後だった。
――バチチチチッ!!
球体金庫の表面から青白い電流が弾け飛び、クロノの純銀ピックを弾き飛ばした!
「くっ……!?」
クロノの体が大きく後ろへ弾け飛び、足場の歯車から体勢を崩して落下しかける。
「見たか、怪盗! 言葉通り自爆トラップだ!」
神臣先輩が素早く踏み込み、落ちかけたクロノの胸元を掴んで歯車の上へ強引に引き戻した。
「……おっと、これは失礼。敵である僕を助けるなんて、君は随分とお人好しだな、生徒会長殿」
クロノはシルクハットを整えながら苦笑するが、その指先はわずかに痺れて震えていた。
「勘違いするな。お前に死なれては、ファントム・キーについての情報が聞けなくなるからだ」
神臣先輩が冷たく吐き捨て、私の方へと視線を戻す。
「鈴宮! 大丈夫か!?」
「大丈夫です……! でも、電流のせいで内部の磁気構造が壊れて……十二の星座が全部『逆回転』を始めました!」
ゴゴゴゴゴ……!
球体金庫が狂ったように振動し、十二の星座の針が逆時計回りに高速回転し始めた。
それだけじゃない。
塔全体を支える巨大な振り子(ペンデュラム)が、ガコン! ガコン! と不気味な悲鳴を上げ、回転速度を上げていく。
部屋の四隅に置かれた真鍮の配管から、プシューッと白い高圧蒸気が吹き出し始めた。
『ザザッ……ふたりとも……聞こえるか!?』
激しいノイズを押し切って、インカムからカイ先輩の切迫した声が戻ってきた!
『カイ先輩! 通信が繋がった!』
『大変だよ! ファントム・キーのハッキングによって、大時計塔の自爆プログラムがカウントダウンに入った! あと三分で、塔全体の歯車が逆回転の負荷に耐えきれずに崩壊する!』
「三分……っ!?」
神臣先輩の顔に緊張が走る。
三分後にこの塔が崩壊すれば、中にいる私達も、秘宝も、すべて崩れ去る瓦礫の山に埋もれてしまう。
「クロノ! 遊んでいる暇はなくなったぞ!」
神臣先輩がクロノを睨みつける。
仮面の怪盗は、痺れる自分の指先を悔しそうに見つめ、それからフッと息を吐いた。
「……やれやれ。美学に反するが、ここは共同作業(コラボレーション)といこうか。鍵開け姫、僕の指先は今、電流のせいでコンマ一ミリの精度が出ない。……君が僕の『目』となり『指』となれ!」
「え……!?」
「何を驚いているんだい? 十二の星座を同時に解除するには、どうしても二人の鍵開け師(クラッカー)の手が必要だ! 僕が左側の六つ、君が右側の六つを叩く! タイミングの指揮は……君に任せる!」
クロノが弾き飛んだ純銀のピックを空中でキャッチし、再び構えた。
敵同士だったはずの怪盗と、私。
だけど……いま、この難攻不落の「第二の開かずの扉」を破るためには、お互いの技術を信じて重ね合わせるしかない!
「神臣先輩……!」
私が振り返ると、神臣先輩は力強く頷いた。
「行け、鈴宮。怪盗だろうが何だろうが、使い倒して扉を開けてみせろ。僕がバックアップする!」
「はいっ!!」
私は覚悟を決めた。
「クロノ! 右側と左側の同期タイミングは、巨大振り子が左端に到達したコンマ〇二秒後です! 私の掛け声に合わせて、同時にピックを捻ってください!」
「了解だ、姫!」
残り時間、二分。
激しい蒸気と吹き荒れる夜風の中、私とクロノは球体金庫を挟んで対峙した。
左側にクロノ、右側に私。
そして私たちの背後には、落ちてくる蒸気パイプや散らばる金属片を、その身を挺して蹴り飛ばし、防ぎ続けてくれる神臣先輩の姿があった。
「鈴宮に指一本触れさせん……!」
神臣先輩の制服が破れ、頬に微かな傷がつく。けれど、その漆黒の瞳は私を庇うために鋭く輝き続けていた。
『神臣先輩が守ってくれている……。カイ先輩が道を示してくれている……。なら、私に解けない鍵なんてあるはずがない!!』
集音センサーから聞こえる、重厚な歯車の噛み合い音。
カチ……カチ……カチ……。
巨大な振り子が、左端へと到達する。
『来る……! コンマ〇二秒の奇跡の重なり……!』
「クロノ! 三、二、一……今ですッ!!」
私とクロノの十本の指が、同時に球体金庫の十二の鍵穴へと突き立てられた!
――ジャシキィィィィンッ!!
十二の星座の針が、完璧な一直線を描いて『午前零時』の位置でピタリと停止した!
球体金庫の表面がパカッと割れ、内部から眩いばかりの青い光が溢れ出す。
「開いた……っ!?」
だが、喜んだのも束の間。
――ドガァァァンッ!!
塔の最上階の天井が激しく吹き飛び、巨大な文字盤のガラスが粉々に砕け散った!
吹き込む強風と、月光の中に姿を現したのは――漆黒のヘリコプターと、そこから垂れ下がる謎の武装集団!
『クックック……見事だ、生徒会特殊捜査課、そして怪盗クロノ』
ヘリのスピーカーから、あの『ファントム・キー』の不気味な合成音声が響き渡った。
『秘宝の封印解除、感謝するぞ。……横取りさせてもらう!』
ワイヤーを降ろしてきた黒づくめの工作員たちが、解錠されたばかりの秘宝を目がけて一斉に襲いかかってきた!
「させないっ!!」
神臣先輩が叫び、工作員に向かって飛びかかる!
崩れ去る大時計塔、乱入してきたファントム・キー、そして光を放つ第二の秘宝!
クロノ・ヴァレンタインは不敵に微笑むと、純銀のピックを球体金庫の『牡羊座(アリエス)』の鍵穴へと一気に滑り込ませた。
――スッ……。
金属と金属が擦れる音すらしない。
無音。完璧なまでの『無音のピッキング』!
『なっ……!? あの早さと静かさ……! ピンの抵抗(反発力)を完全に殺してる!?』
私の背筋に冷や汗が流れた。
鍵開け(ピッキング)とは、本来、工具で内部のピンを押し上げる際に生じるかすかな「手応え」や「打音」を頼りに行うものだ。
けれど、クロノの指先はまるで水滴が滑るように、物理的な抵抗を一切感じさせずにピンを滑らせている。
「何を怯えている、鈴宮!」
背後から、神臣先輩の低く力強い声が私の鼓膜を揺らした。
先輩の手が私の右肩を強く掴み、ぐっと自分の方へと引き寄せる。
「相手の手並みに飲まれるな。お前にはお前の鍵開け(スタイル)があるはずだ」
「神臣先輩……っ!」
「あいつが『無音』なら、お前は『音』を聴け。僕がお前の耳となり、盾となる。……見せつけてやれ、生徒会特殊捜査課の底力を!」
神臣先輩の瞳に宿る、圧倒的な情熱と私に対する絶対の信頼。
その熱量が、恐怖で凍りつきかけていた私の心臓を一瞬で解かした。
『そうだ……! 私は私のやり方で、ルシファーちゃんたちと一緒に解くんだ!』
「はいっ!!」
私は叫ぶと同時に、腰のポーチから左右三本ずつ、計六本のチタンピックを抜き放った。
クロノが対峙する『牡羊座』の対角線上――『天秤座(ライブラ)』の鍵穴へ、両手のピックを一気に突き立てる!
――ガチンッ!!
高らかな金属音が、静寂に包まれた時計塔の最上階に響き渡った。
「ほう……『音』と『振動』を全身で拾う聴覚ピッキングか。荒削りだが、ダイナミックで悪くないね!」
球体金庫の頭上で純銀のピックを躍らせるクロノが、感心したように目を細める。
球体金庫の表面に刻まれた十二の星座盤が、カチカチと狂おしい速度で回転を始めた。
十二の鍵穴すべてに仕込まれたピンが、内部の巨大な『時間歯車(クロノス・ギア)』と連動して、一秒ごとにパターンを変化させていく。
「クロノ! その金庫、ただのカラクリじゃありませんよ!」
私はイヤホンから拾う集音センサーの音を全神経で分析しながら叫んだ。
「内壁の三層目……そこにファントム・キーが仕掛けた『電子妨害(サイレント・トラップ)』が隠されてます! 一定以上の速度でピンを揃えると、内部の自爆装置が作動して秘宝ごと木っ端微塵になります!」
「ふふっ、知っているさ! だからこそ燃えるんじゃないか!」
クロノは怯むどころか、仮面の奥の紫の瞳を妖しく光らせた。
純銀のピックが銀色の残像を描き、牡羊座、牡牛座、双子座のピンを瞬く間に固定していく。
だが――その直後だった。
――バチチチチッ!!
球体金庫の表面から青白い電流が弾け飛び、クロノの純銀ピックを弾き飛ばした!
「くっ……!?」
クロノの体が大きく後ろへ弾け飛び、足場の歯車から体勢を崩して落下しかける。
「見たか、怪盗! 言葉通り自爆トラップだ!」
神臣先輩が素早く踏み込み、落ちかけたクロノの胸元を掴んで歯車の上へ強引に引き戻した。
「……おっと、これは失礼。敵である僕を助けるなんて、君は随分とお人好しだな、生徒会長殿」
クロノはシルクハットを整えながら苦笑するが、その指先はわずかに痺れて震えていた。
「勘違いするな。お前に死なれては、ファントム・キーについての情報が聞けなくなるからだ」
神臣先輩が冷たく吐き捨て、私の方へと視線を戻す。
「鈴宮! 大丈夫か!?」
「大丈夫です……! でも、電流のせいで内部の磁気構造が壊れて……十二の星座が全部『逆回転』を始めました!」
ゴゴゴゴゴ……!
球体金庫が狂ったように振動し、十二の星座の針が逆時計回りに高速回転し始めた。
それだけじゃない。
塔全体を支える巨大な振り子(ペンデュラム)が、ガコン! ガコン! と不気味な悲鳴を上げ、回転速度を上げていく。
部屋の四隅に置かれた真鍮の配管から、プシューッと白い高圧蒸気が吹き出し始めた。
『ザザッ……ふたりとも……聞こえるか!?』
激しいノイズを押し切って、インカムからカイ先輩の切迫した声が戻ってきた!
『カイ先輩! 通信が繋がった!』
『大変だよ! ファントム・キーのハッキングによって、大時計塔の自爆プログラムがカウントダウンに入った! あと三分で、塔全体の歯車が逆回転の負荷に耐えきれずに崩壊する!』
「三分……っ!?」
神臣先輩の顔に緊張が走る。
三分後にこの塔が崩壊すれば、中にいる私達も、秘宝も、すべて崩れ去る瓦礫の山に埋もれてしまう。
「クロノ! 遊んでいる暇はなくなったぞ!」
神臣先輩がクロノを睨みつける。
仮面の怪盗は、痺れる自分の指先を悔しそうに見つめ、それからフッと息を吐いた。
「……やれやれ。美学に反するが、ここは共同作業(コラボレーション)といこうか。鍵開け姫、僕の指先は今、電流のせいでコンマ一ミリの精度が出ない。……君が僕の『目』となり『指』となれ!」
「え……!?」
「何を驚いているんだい? 十二の星座を同時に解除するには、どうしても二人の鍵開け師(クラッカー)の手が必要だ! 僕が左側の六つ、君が右側の六つを叩く! タイミングの指揮は……君に任せる!」
クロノが弾き飛んだ純銀のピックを空中でキャッチし、再び構えた。
敵同士だったはずの怪盗と、私。
だけど……いま、この難攻不落の「第二の開かずの扉」を破るためには、お互いの技術を信じて重ね合わせるしかない!
「神臣先輩……!」
私が振り返ると、神臣先輩は力強く頷いた。
「行け、鈴宮。怪盗だろうが何だろうが、使い倒して扉を開けてみせろ。僕がバックアップする!」
「はいっ!!」
私は覚悟を決めた。
「クロノ! 右側と左側の同期タイミングは、巨大振り子が左端に到達したコンマ〇二秒後です! 私の掛け声に合わせて、同時にピックを捻ってください!」
「了解だ、姫!」
残り時間、二分。
激しい蒸気と吹き荒れる夜風の中、私とクロノは球体金庫を挟んで対峙した。
左側にクロノ、右側に私。
そして私たちの背後には、落ちてくる蒸気パイプや散らばる金属片を、その身を挺して蹴り飛ばし、防ぎ続けてくれる神臣先輩の姿があった。
「鈴宮に指一本触れさせん……!」
神臣先輩の制服が破れ、頬に微かな傷がつく。けれど、その漆黒の瞳は私を庇うために鋭く輝き続けていた。
『神臣先輩が守ってくれている……。カイ先輩が道を示してくれている……。なら、私に解けない鍵なんてあるはずがない!!』
集音センサーから聞こえる、重厚な歯車の噛み合い音。
カチ……カチ……カチ……。
巨大な振り子が、左端へと到達する。
『来る……! コンマ〇二秒の奇跡の重なり……!』
「クロノ! 三、二、一……今ですッ!!」
私とクロノの十本の指が、同時に球体金庫の十二の鍵穴へと突き立てられた!
――ジャシキィィィィンッ!!
十二の星座の針が、完璧な一直線を描いて『午前零時』の位置でピタリと停止した!
球体金庫の表面がパカッと割れ、内部から眩いばかりの青い光が溢れ出す。
「開いた……っ!?」
だが、喜んだのも束の間。
――ドガァァァンッ!!
塔の最上階の天井が激しく吹き飛び、巨大な文字盤のガラスが粉々に砕け散った!
吹き込む強風と、月光の中に姿を現したのは――漆黒のヘリコプターと、そこから垂れ下がる謎の武装集団!
『クックック……見事だ、生徒会特殊捜査課、そして怪盗クロノ』
ヘリのスピーカーから、あの『ファントム・キー』の不気味な合成音声が響き渡った。
『秘宝の封印解除、感謝するぞ。……横取りさせてもらう!』
ワイヤーを降ろしてきた黒づくめの工作員たちが、解錠されたばかりの秘宝を目がけて一斉に襲いかかってきた!
「させないっ!!」
神臣先輩が叫び、工作員に向かって飛びかかる!
崩れ去る大時計塔、乱入してきたファントム・キー、そして光を放つ第二の秘宝!