いまさら家に男が一人増えたところで構いません!
第2話 つい、拾っちゃった
私は息を切らして弟二人を抱えて走る
九条くんは
まったく気にせず話を続ける
「父親と衝突してしまってね」
「家を出てきてしまったんだ」
「他を当たってください!」
「九条くんなら喜んで助けてくれる人が山ほどいるでしょ!」
「学校の人間には」
「あまり知られたくないんだ」
「私も学校の人間です!」
「そうだったね」
「そうだったねじゃない!」
奏太が九条くんを見上げる
「兄ちゃん」
「家ないの?」
「今はね」
「かわいそう」
「奏太!」
「情を移さない!」
「仕方なく」
「公園でテント生活をしていたんだけど」
「親に謝って」
「お家に帰るべきだと思います!」
「見ての通り」
「それも続けられそうにない」
「私の話聞こえてます!?」
「勝手に相談を進めないで!」
「そこで」
「ぶしつけなお願いなんだけど」
「嫌です!」
「一緒に」
「どうしたらいいか考えてくれないかな」
「嫌ですって!」
「たとえば」
「テントを張っても怒られなくて」
「水が手に入る場所とか」
「はぁ……」
「はぁ……!」
私はついに足を止めた
肺が痛い
心臓がものすごい勢いで鳴っている
それ以上に両腕が限界だった
三歳と五歳を抱えて全力疾走なんて無理がある
両腕が下ろしてくれと悲鳴を上げている
「おねえ」
「もう終わり?」
「もう一回やって!」
「遊びじゃ……ないのよ……」
私は二人をゆっくり地面へ下ろした
膝に手をついて必死に息を整える
その横で九条くんは
涼しい顔をして立っていた
息ひとつ乱れていない
なんだか
ものすごく腹が立つ
私は息も絶え絶えのまま
九条くんを睨んだ
「もう一度……言いますけど……」
「うん」
「親に……頭下げて……」
一度
大きく息を吸う
「家に帰ればいいと思います!」
九条くんが少しだけ首を傾げた
「それに」
「一人で生活できるんですか!?」
「できないなら仕方ないでしょ!?」
「手厳しいね」
「誰のせいで……」
「こんなに疲れてると思ってるんですか……!」
「僕は立ち止まって話したかったんだけど」
「高梨さんが走っちゃうから」
「九条くんが追いかけてきたからですよね!?」
九条くんが少し困ったように笑った
「親に謝る……か」
「それができれば」
「苦労はしないんだけどね」
「してください!」
「そこは苦労しといてください!」
「じゃ、そういうことで」
私は再び歩き出した
もう走るのはやめた
どうせ追いつかれる
それなら
無視して帰ってしまえばいい
「高梨さん」
私は前だけを見て歩く
「高梨さん?」
今度も無視した
「聞こえてる?」
「聞こえてません!」
「よかった」
「聞こえてるね」
そんなことを繰り返しているうちに
家へ着いてしまった
しまった
私は玄関の前で立ち止まる
九条くんも隣で立ち止まった
そして我が家を見上げる
「ほお」
嫌な声が聞こえた
「ここが高梨さんの家かい?」
私はまだ少し乱れた息を整えながら
九条くんを見る
「なんで……」
「普通についてきてるんですか」
「話していたら」
「着いちゃったね」
「帰ってください」
その瞬間
ガチャ
玄関が開いた
「姉ちゃん!」
「遅え!」
十三歳の湊(みなと)
その後ろから
「腹減った!」
十歳の陸(りく)
「今日、から揚げでしょ!?」
八歳の悠真(ゆうま)
三人がぞろぞろ出てきた
そして三人の視線が
一斉に私の横にいる九条くんへ集まった
数秒後
湊が言った
「姉ちゃんの彼氏?」
「違う!」
陸が目を丸くする
「うわ」
「イケメンってやつだ」
悠真は九条くんの足を見る
「足なが!」
九条くんは弟たちを見回したあと
にこりと笑った
「はじめまして」
「九条伊織です」
「なんか名前までかっけえ!」
「姉ちゃんすげえじゃん」
「よくこんな男ゲットできたな」
「だから!」
「彼氏じゃないってば!」
すると
悠真が私の服を引っ張った
「姉ちゃん」
「そんなことより腹減った」
「俺も」
「俺も!」
「はいはい!」
「今作るから中入って!」
弟たちが一斉に家へ戻っていく
私は玄関へ入ろうとして
ふと後ろを振り返った
九条くんはまだそこに立っていた
「なんですか?」
「いや」
九条くんは我が家の玄関を見たあと
少しだけ視線を落とした
「お昼ご飯の支度があるんだね」
「そうですけど」
「邪魔をして」
「ごめんね」
そう言うと九条くんは
くるりと背を向けた
「それじゃあ」
「また学校で」
さっきまで
あれだけしつこくついてきたくせに
急にしおらしくなって
一人で歩いていく
その背中が妙に寂しそうに見えた
行くあてもないくせに
これからまたどこかで
テントを張れる場所でも探すつもりなんだろうか
その背中を見ていると
ふいに言葉がこぼれた
「捨てられた犬みたい……」
私は小さく息を吐いた
「あの」
九条くんが振り返る
「お昼」
「食べていきます?」
九条くんの目が大きくなった
「いいのかい?」
「どうせ食べてないんでしょ?」
「ありがとう」
さっきまでの寂しそうな顔はどこへやら
ぱっと表情が明るくなった
そしてものすごく自然に
こちらへ戻ってくる
切り替えが早い
「ちょっと」
「元気になるの早くない?」
「そうかな?」
「そうだよ!」
九条くんはもう玄関の前まで来ていた
「お邪魔します」
「まだ入っていいとは――」
いや言った
お昼を食べていけと
確かに私が言った
私は額に手を当てる
「もういいです」
「あがってください」
「ありがとう、高梨さん」
その時
陸が顔を出した
「兄ちゃんも来いよ!」
「ゲームやろうぜ!」
九条くんが私を見る
「いいのかな?」
「いいよ」
「ご飯できるまで遊んであげてよ」
こうして
学校では雲の上のお人だった
九条伊織が
我が家へ入った
九条くんは
まったく気にせず話を続ける
「父親と衝突してしまってね」
「家を出てきてしまったんだ」
「他を当たってください!」
「九条くんなら喜んで助けてくれる人が山ほどいるでしょ!」
「学校の人間には」
「あまり知られたくないんだ」
「私も学校の人間です!」
「そうだったね」
「そうだったねじゃない!」
奏太が九条くんを見上げる
「兄ちゃん」
「家ないの?」
「今はね」
「かわいそう」
「奏太!」
「情を移さない!」
「仕方なく」
「公園でテント生活をしていたんだけど」
「親に謝って」
「お家に帰るべきだと思います!」
「見ての通り」
「それも続けられそうにない」
「私の話聞こえてます!?」
「勝手に相談を進めないで!」
「そこで」
「ぶしつけなお願いなんだけど」
「嫌です!」
「一緒に」
「どうしたらいいか考えてくれないかな」
「嫌ですって!」
「たとえば」
「テントを張っても怒られなくて」
「水が手に入る場所とか」
「はぁ……」
「はぁ……!」
私はついに足を止めた
肺が痛い
心臓がものすごい勢いで鳴っている
それ以上に両腕が限界だった
三歳と五歳を抱えて全力疾走なんて無理がある
両腕が下ろしてくれと悲鳴を上げている
「おねえ」
「もう終わり?」
「もう一回やって!」
「遊びじゃ……ないのよ……」
私は二人をゆっくり地面へ下ろした
膝に手をついて必死に息を整える
その横で九条くんは
涼しい顔をして立っていた
息ひとつ乱れていない
なんだか
ものすごく腹が立つ
私は息も絶え絶えのまま
九条くんを睨んだ
「もう一度……言いますけど……」
「うん」
「親に……頭下げて……」
一度
大きく息を吸う
「家に帰ればいいと思います!」
九条くんが少しだけ首を傾げた
「それに」
「一人で生活できるんですか!?」
「できないなら仕方ないでしょ!?」
「手厳しいね」
「誰のせいで……」
「こんなに疲れてると思ってるんですか……!」
「僕は立ち止まって話したかったんだけど」
「高梨さんが走っちゃうから」
「九条くんが追いかけてきたからですよね!?」
九条くんが少し困ったように笑った
「親に謝る……か」
「それができれば」
「苦労はしないんだけどね」
「してください!」
「そこは苦労しといてください!」
「じゃ、そういうことで」
私は再び歩き出した
もう走るのはやめた
どうせ追いつかれる
それなら
無視して帰ってしまえばいい
「高梨さん」
私は前だけを見て歩く
「高梨さん?」
今度も無視した
「聞こえてる?」
「聞こえてません!」
「よかった」
「聞こえてるね」
そんなことを繰り返しているうちに
家へ着いてしまった
しまった
私は玄関の前で立ち止まる
九条くんも隣で立ち止まった
そして我が家を見上げる
「ほお」
嫌な声が聞こえた
「ここが高梨さんの家かい?」
私はまだ少し乱れた息を整えながら
九条くんを見る
「なんで……」
「普通についてきてるんですか」
「話していたら」
「着いちゃったね」
「帰ってください」
その瞬間
ガチャ
玄関が開いた
「姉ちゃん!」
「遅え!」
十三歳の湊(みなと)
その後ろから
「腹減った!」
十歳の陸(りく)
「今日、から揚げでしょ!?」
八歳の悠真(ゆうま)
三人がぞろぞろ出てきた
そして三人の視線が
一斉に私の横にいる九条くんへ集まった
数秒後
湊が言った
「姉ちゃんの彼氏?」
「違う!」
陸が目を丸くする
「うわ」
「イケメンってやつだ」
悠真は九条くんの足を見る
「足なが!」
九条くんは弟たちを見回したあと
にこりと笑った
「はじめまして」
「九条伊織です」
「なんか名前までかっけえ!」
「姉ちゃんすげえじゃん」
「よくこんな男ゲットできたな」
「だから!」
「彼氏じゃないってば!」
すると
悠真が私の服を引っ張った
「姉ちゃん」
「そんなことより腹減った」
「俺も」
「俺も!」
「はいはい!」
「今作るから中入って!」
弟たちが一斉に家へ戻っていく
私は玄関へ入ろうとして
ふと後ろを振り返った
九条くんはまだそこに立っていた
「なんですか?」
「いや」
九条くんは我が家の玄関を見たあと
少しだけ視線を落とした
「お昼ご飯の支度があるんだね」
「そうですけど」
「邪魔をして」
「ごめんね」
そう言うと九条くんは
くるりと背を向けた
「それじゃあ」
「また学校で」
さっきまで
あれだけしつこくついてきたくせに
急にしおらしくなって
一人で歩いていく
その背中が妙に寂しそうに見えた
行くあてもないくせに
これからまたどこかで
テントを張れる場所でも探すつもりなんだろうか
その背中を見ていると
ふいに言葉がこぼれた
「捨てられた犬みたい……」
私は小さく息を吐いた
「あの」
九条くんが振り返る
「お昼」
「食べていきます?」
九条くんの目が大きくなった
「いいのかい?」
「どうせ食べてないんでしょ?」
「ありがとう」
さっきまでの寂しそうな顔はどこへやら
ぱっと表情が明るくなった
そしてものすごく自然に
こちらへ戻ってくる
切り替えが早い
「ちょっと」
「元気になるの早くない?」
「そうかな?」
「そうだよ!」
九条くんはもう玄関の前まで来ていた
「お邪魔します」
「まだ入っていいとは――」
いや言った
お昼を食べていけと
確かに私が言った
私は額に手を当てる
「もういいです」
「あがってください」
「ありがとう、高梨さん」
その時
陸が顔を出した
「兄ちゃんも来いよ!」
「ゲームやろうぜ!」
九条くんが私を見る
「いいのかな?」
「いいよ」
「ご飯できるまで遊んであげてよ」
こうして
学校では雲の上のお人だった
九条伊織が
我が家へ入った