『わたしが王妃として不適格な12の理由』をプレゼンしたら、年下王子に「全部知ってる」と言われた。

王妃なんて、絶対ムリ!


 王妃教育をサボって王城の蔵書室で時間を潰していた時、とある魔術書を見つけた。
 それが日本語で書かれている事を理解した瞬間、わたしことリディア・オルタナード侯爵令嬢は、唐突に前世を思い出した。

 まず浮かんだのは、日本の都会の街並み。
 それから、大きな会社で事務職として働く、パンツスーツ姿の自分。
 対して、今のわたしはというと、昼装の仕立ての良いドレス姿。

「異世界転生!?」

 真っ先に頭をよぎったのは、悪役令嬢だの断罪だのという物騒な単語だった。
 慌てて記憶をまさぐる。
 うろうろあわあわと蔵書室を歩き回りながら、一つの結論が出た。

 ……大丈夫!
 この世界に見覚えは無い。 そして原作らしき物語にも心当たりは無い。
 知らない女に濡れ衣を着せられる覚えもなければ、断罪されるような気配だってない!

「ふー、やれやれ。 あ~よかった普通の侯爵令嬢で」

 なにかあるとすれば、わたしが第一王子にして王太子――アデルフェルト・セルヴァリオン殿下と婚約を結んでいるくらいだ。
 …………
 ……ん?

「……王太子と、婚約っ!!?」

 思わず声も裏返った。

「待って待って待って! ソコが一番ヤバそうなところじゃない!?」

 王太子と婚約?? わたしが??
 つまり……王妃になるの? わたしが??
 外交の場としても表に立って、国の代表として……国の母になるの? わたしが??

 今世の人生をちゃんと侯爵令嬢として送ってきた記憶は健在だ。
 でも、たった今流れ込んで来た前世の記憶は強烈過ぎた。

 激安スーパーでまとめて買ったお菓子を食べ比べる。
 フリマアプリで1円でも安い服を検索して夜更かしする。
 そんな一般庶民の感覚が、色濃く記憶に刻みこまれてしまった。

「王妃なんて……絶対ムリっ!!」
「ああ、こんな所にいたんだ」
「ひぇっ!」

 びっくりして思わず背筋が伸びた。
 やかましいわたしに気づいて蔵書室へ入ってきたのは、この部屋の持ち主の一人でもある、アデルフェルト殿下だった。
 金髪碧眼でキラキラの、まるで見本のような王子さま。
 ……まあ、前世のわたしの好みは黒髪で地味めな年上だったけれど。

「リディ……また無断で逃げて来たの?」
「あ、あはは……」
「? なに、その構え?」

 いつの間にか後ずさって妙なポーズを取っていたわたしに、アデルが怪訝な顔を見せた。

 わたしたちが婚約したのは、およそ十三年前で、わたしが七歳でアデルが五歳の時。
 その前から顔見知りでもあったから、アデルが王太子とはいっても、すっかり昔馴染みで幼馴染み。
 けれど、庶民な前世を思い出したせいか、王族で日本人離れしたキラキラのアデルがなんだか怖くなった。

「リディは本が好きだね。 教育係も怒っていたからもう戻った方がいいと思うけれど……ぼくと一緒にここでサボる?」

 いつもの柔和で穏やかな口調で誘ってきたアデル。
 聞き慣れた声と表情に、怖いという感覚はすぐになくなった。
 けれど、教育係という単語が、新たな恐怖を運んでくる。

 このままだとわたし……王妃にされちゃうっ!!

「う、ううん、いい! アデルは仕事してなさい!」
「急に姉ぶらないでよ」
「とにかくいいから! 今日はもう帰る! 具合悪いの!」
「具合悪そうには見えないけどね……うん、分かったよ。 伝えておく」

 いつもわたしがサボっても、最後には肯定してくれるアデル。
 小憎らしい小言を言われる事はあっても、その存在は頼もしかった。

 王妃教育――礼儀作法や挨拶、マナーや行事の知識、隣国の歴史まで。
 小さい頃からあまり疑問を持たずに受けて来た。
 前世を思い出した今、その意味と責任の重さを理解して血の気が引いた。

 いやいやいや、絶対ムリムリ!
 ただの一般事務職の会社員だったわたしが、国母なんかになれるはず無いでしょ!

 面倒くさくてサボりがちだった事実も、思い返せば恐ろしい。
 怠惰な自分は前世由来か、はたまた魂に刻まれた性質か。
 やっぱりわたしには向いてない。

 その晩はうんうんと悩みに悩んで、気づいたら机に突っ伏して寝ていた。
 普段使わない頭を使ったせいか、翌朝は妙に頭がすっきりしていた。
 ……大丈夫、まだ時間はある。 焦ることはない。

 それ以降も、どうにかして王妃になることを回避できないかを考えていた。
 でも、ぐうたらと能天気に過ごしてきた習慣は、おいそれと変える事は出来ない。

 友達令嬢と楽しくお茶会したり、蔵書室で面白そうな本を読んだり。
 今日は一旦寝よう、明日は思いつくだろう、と。
 大した危機感も持つ事ができず、ダラダラと先延ばしを続けていた。

 そしたらある日……

「リディ。 結婚式の具体的な日取りが決まったよ」
「(ガチャンッ)」

 アデルの一言爆弾に、わたしが持っていたティーカップを置き損ねた音が響いた。

「待って。 わたしたち……本当に結婚するの!?」
「するよ?」

 何を言っているの?というアデルの惚けた顔。
 一方のわたしは、頬が引き攣りまくっていた。
 自分の、生来の先延ばし癖を心の底から憎んだ。

 このまま待ってたって、断罪イベントも婚約破棄イベントも起こりっこない。

 もう……自分でやるしかないんだ!

 こうしてわたしの「王妃を回避せよ。 ガチでマジの婚約破棄作戦」が始まった。
< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop