最強ヴァンパイアに溺愛されています!
▷▶︎▷プロローグ
月夜に奪われたはじめて
夜の見回りを終えたはずの校舎は、しんと静まり返っていた。
白雪美月は、転校初日の帰り道にうっかり落とした生徒手帳を探して、一人で旧校舎へ足を踏み入れていた。
「……あれ、こんなところだったかな」
小さくつぶやいた声が、暗い廊下に吸い込まれていく。
窓から差しこむ青白い月明かりだけが、古い床を淡く照らしていた。
その時だった。
コツ、と背後で靴音が鳴る。
びくっと肩を揺らして振り返った美月の視線の先に、ひとりの男子が立っていた。
黒髪に、夜を溶かしたみたいな深い瞳。
整いすぎるほど整った顔立ちなのに、その雰囲気はひどく冷たくて、どこか人ではないものを感じさせる。
「誰」
低く、静かな声。
問いかけなのに、命令みたいに胸を震わせる響きだった。
「わ、私は……今日転校してきた白雪美月です。生徒手帳を探してて……」
答えた瞬間、その男子の目がわずかに細められる。
まるで何かを確かめるみたいに。
次の瞬間、美月のすぐそばを冷たい風がすり抜けた。
気づけば彼は目の前にいた。
「え……っ」
あまりの近さに息が止まる。
逃げようとした背中が、とん、と壁に触れた。
「動くな」
静かなのに逆らえない声だった。
彼は美月の髪に触れそうなほど顔を寄せ、そっと息を吸う。
その瞬間、彼の表情が初めて揺れた。
「……なんだ、この匂い」
かすれた声に、美月の鼓動がどくんと跳ねる。
近い。近すぎる。
知らない男の子なのに、どうしてこんなふうに見つめられているのか分からない。
「きみ……」
彼の指先が、美月の頬にふれた。
ひんやりとした温度に、肩が震える。
「怖がるな」
そう言ったくせに、その瞳はひどく危うかった。
まるで必死に何かを耐えているみたいで、冷たい顔の奥に熱を隠しているようだった。
「お、俺は九条ルカ」
短く名乗ったあと、ルカは苦しそうに眉を寄せた。
「本当は近づくつもりなんてなかった。でも……無理だ」
「え……?」
意味が分からないまま見上げると、ルカの視線は美月の首筋で止まっていた。
ぞくりと背筋が震える。
「その血の香り、反則だ」
さっきまで抑えていた空気が、そこでふっと変わった。
冷たかったはずの彼が、急に熱を帯びたように見える。
「逃げるなら今のうちだ」
そう言いながら、ルカは少しも離れない。
むしろ、美月を囲うみたいに壁へ手をついたまま、じっと見つめてくる。
「……逃げません」
自分でもどうしてそんなことを言ったのか分からなかった。
怖いはずなのに、不思議と目をそらせなかった。
その答えを聞いたルカが、ふっと息をのむ。
「後悔するなよ」
囁くように言って、彼は美月の肩をそっと抱き寄せた。
強引ではないのに、逃がさない熱がある。
そして首筋へ顔を寄せる。
触れる寸前で一度だけ止まり、確かめるように小さく問う。
「……ほんとに、いいんだな」
美月はぎゅっと制服を握りしめながら、こくんとうなずいた。
次の瞬間、首筋にひやりとした感触が落ちる。
唇がふれて、それから、かすかな痛み。
けれど怖いだけじゃない。
胸の奥がきゅっと甘くしびれて、力が抜けそうになる。
「んっ……」
もれた声に、ルカの腕がぴくりと揺れた。
けれど彼はすぐに美月の背を支え、倒れないよう抱きしめる。
まるで壊れものを扱うみたいに、ひどく優しく。
やがてゆっくりと顔を上げたルカは、どこか呆然としたように美月を見つめた。
その唇の端に、赤い色がにじんでいる。
「……最悪だ」
「えっ」
「もう、お前を放っておけない」
さっき会ったばかりなのに。
名前を知ったばかりなのに。
ルカは熱を帯びた瞳で美月を見つめたまま、頬にそっと手を添える。
「白雪美月。今夜からお前は、俺が守る」
有無を言わせない声音だった。
なのに不思議と嫌じゃなくて、胸がどきどきとうるさい。
「誰にも触れさせるな。お前の血も、お前自身も」
月明かりの下で告げられたその言葉は、まるで甘い呪いみたいだった。
白雪美月は、転校初日の帰り道にうっかり落とした生徒手帳を探して、一人で旧校舎へ足を踏み入れていた。
「……あれ、こんなところだったかな」
小さくつぶやいた声が、暗い廊下に吸い込まれていく。
窓から差しこむ青白い月明かりだけが、古い床を淡く照らしていた。
その時だった。
コツ、と背後で靴音が鳴る。
びくっと肩を揺らして振り返った美月の視線の先に、ひとりの男子が立っていた。
黒髪に、夜を溶かしたみたいな深い瞳。
整いすぎるほど整った顔立ちなのに、その雰囲気はひどく冷たくて、どこか人ではないものを感じさせる。
「誰」
低く、静かな声。
問いかけなのに、命令みたいに胸を震わせる響きだった。
「わ、私は……今日転校してきた白雪美月です。生徒手帳を探してて……」
答えた瞬間、その男子の目がわずかに細められる。
まるで何かを確かめるみたいに。
次の瞬間、美月のすぐそばを冷たい風がすり抜けた。
気づけば彼は目の前にいた。
「え……っ」
あまりの近さに息が止まる。
逃げようとした背中が、とん、と壁に触れた。
「動くな」
静かなのに逆らえない声だった。
彼は美月の髪に触れそうなほど顔を寄せ、そっと息を吸う。
その瞬間、彼の表情が初めて揺れた。
「……なんだ、この匂い」
かすれた声に、美月の鼓動がどくんと跳ねる。
近い。近すぎる。
知らない男の子なのに、どうしてこんなふうに見つめられているのか分からない。
「きみ……」
彼の指先が、美月の頬にふれた。
ひんやりとした温度に、肩が震える。
「怖がるな」
そう言ったくせに、その瞳はひどく危うかった。
まるで必死に何かを耐えているみたいで、冷たい顔の奥に熱を隠しているようだった。
「お、俺は九条ルカ」
短く名乗ったあと、ルカは苦しそうに眉を寄せた。
「本当は近づくつもりなんてなかった。でも……無理だ」
「え……?」
意味が分からないまま見上げると、ルカの視線は美月の首筋で止まっていた。
ぞくりと背筋が震える。
「その血の香り、反則だ」
さっきまで抑えていた空気が、そこでふっと変わった。
冷たかったはずの彼が、急に熱を帯びたように見える。
「逃げるなら今のうちだ」
そう言いながら、ルカは少しも離れない。
むしろ、美月を囲うみたいに壁へ手をついたまま、じっと見つめてくる。
「……逃げません」
自分でもどうしてそんなことを言ったのか分からなかった。
怖いはずなのに、不思議と目をそらせなかった。
その答えを聞いたルカが、ふっと息をのむ。
「後悔するなよ」
囁くように言って、彼は美月の肩をそっと抱き寄せた。
強引ではないのに、逃がさない熱がある。
そして首筋へ顔を寄せる。
触れる寸前で一度だけ止まり、確かめるように小さく問う。
「……ほんとに、いいんだな」
美月はぎゅっと制服を握りしめながら、こくんとうなずいた。
次の瞬間、首筋にひやりとした感触が落ちる。
唇がふれて、それから、かすかな痛み。
けれど怖いだけじゃない。
胸の奥がきゅっと甘くしびれて、力が抜けそうになる。
「んっ……」
もれた声に、ルカの腕がぴくりと揺れた。
けれど彼はすぐに美月の背を支え、倒れないよう抱きしめる。
まるで壊れものを扱うみたいに、ひどく優しく。
やがてゆっくりと顔を上げたルカは、どこか呆然としたように美月を見つめた。
その唇の端に、赤い色がにじんでいる。
「……最悪だ」
「えっ」
「もう、お前を放っておけない」
さっき会ったばかりなのに。
名前を知ったばかりなのに。
ルカは熱を帯びた瞳で美月を見つめたまま、頬にそっと手を添える。
「白雪美月。今夜からお前は、俺が守る」
有無を言わせない声音だった。
なのに不思議と嫌じゃなくて、胸がどきどきとうるさい。
「誰にも触れさせるな。お前の血も、お前自身も」
月明かりの下で告げられたその言葉は、まるで甘い呪いみたいだった。