モテ男とデキ女の奥手な恋

 職場に戻って同僚のお使いを果たし、みんなでと声をかけて大袋のチョコレートを共用テーブルに置いた。みんながThank youと返すのを聞きながら自分のデスクに座る。
 午前中のほとんどは、メールチェックと関係各所へ新年の挨拶で終わったので、後回しにしていた次のプロモーションイベントの企画書のファイルを開く。
 ーーこれ、俺は担当外れた方がいいんだろうな。
 書きかけていたその文書を見ながら、ぼんやり思っていた。
 できるだけはやく発ち、いつまでとハッキリしない転勤。
 ひとまずは一週間ほど、様子見に行って、長引きそうなら今の家を引き払おう。
 まあ、行ってみたらアッサリ帰って来れるかもしれないし。逆に俺じゃ無理だって分かるかもしれないし。
 画面を見ながら考えていたら、隣のデスクの後輩、ジョーがこちらを向いた。日本人だが、名前が安田丈なので当然のようにジョーと呼ばれている。正直うらやましい。俺も子供ができたらグローバルに使えてキラキラもしていない名前がつけたいものだ。
 ーーそんな予定は全くないが。
「そういえば、マーシー。財務部の忘年会、どうだったんですか?」
 ジョーはひょろりとしてこざっぱりした容姿をしているが、目が大きくて童顔だ。好奇心旺盛な目をくるりと開いた笑顔はなかなか愛嬌があり、社内のお姉様方のアイドルでもある。
「ヨーコさんとも話しました?」
 そして意外と肉食系男子だ。ついでに年上好き。
 今のターゲットは名取さんだが、おっとりしているが故にか、全く手応えがないらしい。むしろアピールに気づいていないのではないか。天然恐るべし。
「話したっていうか……」
 ベタベタ触られた。それも結構キワドイところまで。
 正直、財務部女子の中で一番危険なのは名取さんだと思ったくらいだ。気づかないうちにベルトに手がかかっていたときには、さすがに肝が冷えた。
「……まあ、酒の席だからな。酔ってたんだろ」
 とてもそうは見えなかったのだが、あれで素面だったら怖すぎる。酔っていたのだと思いたい。
 思っていると、マイクが笑った。
「女子に囲まれて鼻の下を伸ばしてた、って財務部の奴が言ってたけど。まあひがみだろうね」
 俺は引きつった笑顔を返した。
 どれだけ必死に自分の身を守ってたと思ってんだ。女ってのはスイッチ入るとエグイんだぞ、いろいろと!
 名取さんと姉の笑顔を思い出しながら心中で叫ぶ。
「話した以外の何かがあったんですか?」
 ぐいと顔を寄せるジョー。勘弁してくれよ、俺は被害者だ。
「お前だって、イヴの日とっとと帰り支度してただろ。予定あったんじゃないの」
「あれはまあ、遊びみたいなもんで」
 最低なことをさらりと口にする。外資系大手でバイリンガルだと、笑ってるだけでめっちゃ女の子寄ってきますよねー、マジ勝ち組!と以前爽やかに笑っていたのを思い出した。
 いつか刺されるぞ。って、俺もそう思われてんだな。
 人の振り見て我が振り直せ、とはこのことか。
「次回はお前を呼ぶよう推薦しとくよ、山崎部長に」
 山崎部長が俺に声をかけたのは、前に一緒に仕事していたからだろう。俺の人気がどうなのかは知らないが、ジョーとて社内での人気はそこそこのはず。そうなれば、山崎部長、ジョー、俺の三人にとってウィンウィンだ。
「ありがとうございます!」
 語尾に音符が飛びそうな口調で笑うと、ジョーはまた自分のパソコンに向き合った。
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