モテ男とデキ女の奥手な恋

 そうこうしているうちに2月になった。組合が協力的になったおかげで仕事の方はどうにか流れはじめ、時間が限られている中で大体目処もついてきた。新しいものを産み出すことでもあり、やりがいも感じている。
 週末には橘と電話をするのが慣例になりつつある。ヒカルの練習に付き合ったりジムに行く合間に電話をかけることが多い。
 午後に部活があるというヒカルに午前中つき合い、帰宅してシャワーを浴びたところで橘から着信があった。起き抜けらしい掠れた声だ。
『おはよ』
「ってもう12時前だけどな」
『だって帰ってきたの今日だもん』
「おいおい……」
 俺は苦笑する。相変わらずだ。
『そっちはどう、仕事。はかどってる?』
「まあな。お前みたいにブラックな働き方にはならずにすんでる」
『まあ……3月の株主総会まではちょっとね』
 財務、会計セクションは12月の決算でひと山、3月の株主総会でもうひと山だ。
『ね。そんなことより、もう少ししたら誕生日でしょ。何が欲しい?』
 聞かれて宙を仰いだ。特段何も浮かばない。
 強いて言えば、
「お前が抱きたい」
『は、はぁ!?』
「……冗談だよ」
 ーー半分は、な。
 きっと顔を真っ赤にしているのだろう。その姿を思い浮かべてくつくつと笑う。橘は電話の向こうであーとかうーとか意味を成さない言葉を発していたが、小さくつぶやいた。
『……善処します』
「無理すんな。仕事忙しいんだろ」
 俺は笑う。そうか誕生日か。すっかり失念していた。もう自分の誕生日を喜ぶ歳でもないので当然だが。
 来週の予定を思い浮かべて、ふと思い出した。
「そういや、来週の土曜、例の中坊が練習試合なんだと。午後、一年の試合があるから来てくれって言われてる」
『そうなんだ。懐かれてるのねぇ』
 橘の言葉に、俺はうーん、と首を傾げた。
「まあ、いろいろ事情あるらしいから。何で俺だかわかんないけど」
『そうなんだ。でも、楽しみだね。教え子の晴れ舞台』
「まあな」
 そこで“いろいろな事情“に口を突っ込もうとしない距離感が気持ちいい。俺はついつい微笑を浮かべた。
『今日のご予定は?』
「んー、今ひと運動してきたけど、家事済ませたらジム行くかな」
『好きねぇ』
「ぷにぷにの腹になりたくないからな」
『むっ』
 橘が自分の腹に手をやった気配を察して笑う。
「お前のはいいの。女が腹割れてると生理止まりそうで心配」
『……それもそうかもしれないけど』
 そんなくだらない会話を少しして、電話を切った。

 ーーまさか、本気で橘が“善処する“など思いもせずに。
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