やさしい風の吹く街で~謎の美青年、海に落ちる~
葵さんからの電話を受けて少しして、お店に戻った。
café leafはマスターと奥さんの二人でやっていて、アルバイトはわたしを含めて二人。 もう一人は同じ大学の先輩で、彩さんという。かなりの美人だ。 今までは交代でほぼ半分ずつ出ていたけれど、四年生になって忙しくなったらしく、最近はわたしの出る日数が増えた。
マスターと奥さんは二人とも千葉県の出身で、十年ちょっと前にマスターが脱サラし、最初は千葉の南房総でお店を開くつもりだったらしい。 でも旅行で尾道を訪れたときにすっかり気に入り、そのまま移住を決めたのだという。 ちなみに「café leaf」という店名は、千葉の「葉」(leaf)から取ったのだそうだ。
普段は奥さんもお店にいるけれど、わたしか彩さんがいるときは、銀行や歯医者などの用事を済ませに出かけることもある。 昼間のあの“事件”のときも、たまたま出かけていたのだった。
「それにしても、誰も知り合いがいないところで入院って、たしかに大変だよな」
マスターはそう言ったあと、大きなくしゃみをして「チクショー」と付け加えた。
「大丈夫ですか、マスター」
あれからお店を臨時休業にして家に戻ったそうだけど、どうも風邪をひいてしまったようだ。
「まったく。普段から運動不足なのにそんなことするからよ」
奥さんが呆れたように言う。
「でもマスター、すごくかっこよかったですよ。ヒーローみたいでした。 お医者さんが言ってたんですけど、意識を失って海に落ちたら、もがいたりできなくてそのまま溺れちゃう可能性があるから、救助が早くてよかったって。 わたしたちが駆け付けた時点であの人沈みかけてたから、マスターたちが飛び込んで支えてなかったら危なかったってことですよね」
「それはそうだけど……。今回は結果的によかったけど、もし助けに行ってあなたまで溺れちゃったらどうするつもりだったのよ。 誰だか知らないけど、高校生の男の子がいてくれてホントによかったわよね」
奥さんの言うことももっともだ。
「はいはい。これからは気を付けます。 ところで咲和ちゃん、その彼の別荘ってどこにあるって言ったっけ? 境ガ浜の方?」
わたしはううん、と首を横に振った。
「西久保町みたいですよ」
境ガ浜は市街地からは少し離れていて、オーシャンビューのラグジュアリーなリゾートホテルなんかがあるらしい。でも西久保町は普通の街中だ。 このお店からもそんなに遠くない。
奥さんが思いついたように言った。
「もしかしてあそこ? ほら、西國寺の参道のあっちの方に大きいお屋敷みたいなのあるじゃない」
「そんなのがあるんですか? 西國寺って、門にでっかい草履が掛かってる所ですよね?」
「そうそう」
するとマスターも思い出したように言った。
「あー、あの洋館っぽい所か。けっこう古い。 でもあそこって人がいる感じしないけどなあ」
「別荘だからなんじゃない?」
「そうか。そんなにしょっちゅうあの辺通るわけじゃないけど、たまに見ても建物とか植木とかがずっときれいだってことは、誰かが手入れしてるってことだよな」
「管理人を雇ってるのよ、きっと」
「そうなんだろうな」
「で、その人、どのくらいで退院できるのかしらね」
「検査入院ならそんなにかからないだろ」
「何ともないといいけどね」
「とにかく咲和ちゃん、明日行ったら彼によろしく……っていうのは変だな。お大事にってことで」
葵さんからの電話のことを話すと、マスターも奥さんも、自分たちにできることは何でも協力するし、お店のことは気にしなくていいから彼の力になってあげて、と言ってくれたのだった。
café leafはマスターと奥さんの二人でやっていて、アルバイトはわたしを含めて二人。 もう一人は同じ大学の先輩で、彩さんという。かなりの美人だ。 今までは交代でほぼ半分ずつ出ていたけれど、四年生になって忙しくなったらしく、最近はわたしの出る日数が増えた。
マスターと奥さんは二人とも千葉県の出身で、十年ちょっと前にマスターが脱サラし、最初は千葉の南房総でお店を開くつもりだったらしい。 でも旅行で尾道を訪れたときにすっかり気に入り、そのまま移住を決めたのだという。 ちなみに「café leaf」という店名は、千葉の「葉」(leaf)から取ったのだそうだ。
普段は奥さんもお店にいるけれど、わたしか彩さんがいるときは、銀行や歯医者などの用事を済ませに出かけることもある。 昼間のあの“事件”のときも、たまたま出かけていたのだった。
「それにしても、誰も知り合いがいないところで入院って、たしかに大変だよな」
マスターはそう言ったあと、大きなくしゃみをして「チクショー」と付け加えた。
「大丈夫ですか、マスター」
あれからお店を臨時休業にして家に戻ったそうだけど、どうも風邪をひいてしまったようだ。
「まったく。普段から運動不足なのにそんなことするからよ」
奥さんが呆れたように言う。
「でもマスター、すごくかっこよかったですよ。ヒーローみたいでした。 お医者さんが言ってたんですけど、意識を失って海に落ちたら、もがいたりできなくてそのまま溺れちゃう可能性があるから、救助が早くてよかったって。 わたしたちが駆け付けた時点であの人沈みかけてたから、マスターたちが飛び込んで支えてなかったら危なかったってことですよね」
「それはそうだけど……。今回は結果的によかったけど、もし助けに行ってあなたまで溺れちゃったらどうするつもりだったのよ。 誰だか知らないけど、高校生の男の子がいてくれてホントによかったわよね」
奥さんの言うことももっともだ。
「はいはい。これからは気を付けます。 ところで咲和ちゃん、その彼の別荘ってどこにあるって言ったっけ? 境ガ浜の方?」
わたしはううん、と首を横に振った。
「西久保町みたいですよ」
境ガ浜は市街地からは少し離れていて、オーシャンビューのラグジュアリーなリゾートホテルなんかがあるらしい。でも西久保町は普通の街中だ。 このお店からもそんなに遠くない。
奥さんが思いついたように言った。
「もしかしてあそこ? ほら、西國寺の参道のあっちの方に大きいお屋敷みたいなのあるじゃない」
「そんなのがあるんですか? 西國寺って、門にでっかい草履が掛かってる所ですよね?」
「そうそう」
するとマスターも思い出したように言った。
「あー、あの洋館っぽい所か。けっこう古い。 でもあそこって人がいる感じしないけどなあ」
「別荘だからなんじゃない?」
「そうか。そんなにしょっちゅうあの辺通るわけじゃないけど、たまに見ても建物とか植木とかがずっときれいだってことは、誰かが手入れしてるってことだよな」
「管理人を雇ってるのよ、きっと」
「そうなんだろうな」
「で、その人、どのくらいで退院できるのかしらね」
「検査入院ならそんなにかからないだろ」
「何ともないといいけどね」
「とにかく咲和ちゃん、明日行ったら彼によろしく……っていうのは変だな。お大事にってことで」
葵さんからの電話のことを話すと、マスターも奥さんも、自分たちにできることは何でも協力するし、お店のことは気にしなくていいから彼の力になってあげて、と言ってくれたのだった。