極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
店の扉を見れば、そこには、いつもの黒ではなくダークブルーのスーツを着こなした、モデルと見間違うほどの美貌を持った凌さんがいた。
今日もハーフアップの髪型が素敵だ。

浪川さんもその迫力に押されたのか、私の肩に手を置いたまま固まって、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。

時計を見れば二十時半を回っている。
回覧板などを持って来てくれた浪川さんと少し話すだけのつもりが、こんな時間になっていたらしい。
そう思ったときには、凌さんがツカツカと歩いて来ていた。

凌さんは整った眉を僅かに吊り上げて、私の肩に置かれた浪川さんの手を自然に払った。そして浪川さんの手元の回覧板に視線を落とし、すっと目を細める。

「……これは町内会の回覧板と議事録のコピーか。遅くまでご苦労様です」

浪川さんに向けられた凌さんの声も笑顔も穏やかなのに、琥珀色の瞳だけが笑っていなかった。

浪川さんが「え、あ」と返事に詰まる間に、凌さんは私へ手を伸ばし、いつものように髪を耳に掛けた。
けれど今日は、その手がすぐに離れなかった。耳から後頭部へ、ゆっくりと移動して。
──凌さんの手は、私のうなじで止まった。

「わ、わぁっ。凌、凌さん。くすぐったい」

「茉莉。今日は俺のお茶はないのか?」

「い、いぇ、あ、ありますっ! だから、ふふっ。指先を動かさないで、あは、くすぐったいっ」

「それとも用事が済んでいなかったら、俺はまた後で来た方が良かったか?」

「あ、もう大丈夫ですから。って、ひゃっ、そこ、だめですっ」


私が身を捩ると机にガタンとぶつかった。
その瞬間に浪川さんは真っ赤な顔で「お、俺、そろそろ帰るね!」と言い残し、慌てて店を出ていった。

後には扉が閉まる音と風鈴の余韻が残った。
すると、やっと凌さんの手が私のうなじから離れた。
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