公爵様に、「父親と歳が近い男は嫌だろう?」と言われましたが、私そんなに若くないですけど。
――この状況は、非常にまずいな。
大陸の北方。1年の大半を雪に覆われたノルマン公爵領。そこの主であるルークス・ノルマン公爵は雪の精霊の様な銀の髪と、その端正な顔立ちから氷のノルマンと称されていた。
十代、二十代は困らなかった。しかし今年ルークスは32歳になる。結婚適齢期もとうに過ぎ、ルークス含めノルマン公爵家は頭を抱えていた。
「ルークス。先日の成果はどうだったのです」
先代ノルマン公爵夫人は、執務室の扉を開けるなり口を開いた。
「母上。先日……というと、帝都で開かれた騎士団別の武闘大会のことでしょうか?お伝えした通り、もちろん我がノルマン騎士団の圧勝でした。やはり日々強大な魔獣を相手にしているので他の騎士団とは格が……」
「――違います。その後開かれた舞踏会のことです。良いご令嬢とは巡り合えたの?」
前公爵夫人はルークスの言葉をぴしゃりと遮った。
前公爵夫人とはいえ、若い頃は皇室騎士団の副団長を務めていた女傑である。並みの迫力ではなく、ルークスは気まずそうに視線を逸らした。
「……それは」
口籠るルークスに、夫人はため息を漏らす。
「――はあ、なんと情けない。旦那さまから引き継いだその風貌を持ちながら、その体たらく」
夫人が言う『旦那さま』とは前公爵――ルークスの父である。エルフを始祖とするノルマン公爵家の礎を体現するかのような美丈夫だった。
夫人と前公爵は、帝都の舞踏会で出会い、大恋愛の末に結ばれた。今でも演劇の題目として語り継がれているほどである。その経緯もあり、夫人は今までルークスの結婚相手に関して何も言わなかった。ルークスにも自然と出会い、好いた令嬢と結ばれて欲しかったからだ。しかし、それも30歳を過ぎるまでのこと。今では帝都で開かれる全ての夜会に、強制的に参加させられている。
「私としても、お前には恋愛婚をさせてやりたかったけれど、32にもなってお付き合いをした女性もおらず、そのように奥手では二百年以上続いたノルマンの血筋が途絶えてしまうではないの」
「夫人の仰る通りです。団長、今日の夜会はハッシュラー侯爵家で開かれます。そろそろ準備なさいませんと」
ノルマン騎士団の部下にも心配される始末。ルークスは重い腰をあげて従った。
「わかった……」