天正の雪、444年の約束
深雪〜生まれ変わっても、あなたを
「……やっと逢えたね」
その言葉を聞いた瞬間、小太郎は息をすることさえ忘れていた。
目の前に立っている女性。
透き通るような白い肌。
きれいな二重の瞳。
そして、涙を浮かべながら微笑む、その表情。
どうしてだろう。
初めて会ったはずなのに、懐かしくてたまらない。
胸の奥が、苦しいほど温かくなっていく。
「……君は、誰なの?」
小太郎は、震える声で尋ねた。
女性は、そっと微笑んだ。
「私の名前は、深雪です」
「深雪……さん?」
「はい」
深雪は、小太郎をまっすぐに見つめた。
「小太郎さんに、どうしても会いたかったんです」
「どうして……俺の名前を?」
小太郎には、何もわからなかった。
今日、幸恵の家を訪ね、おゆきの手紙を読んだばかりだった。
そして、帰り道で突然現れた、この女性。
彼女は、まるで昔から小太郎のことを知っているかのように話している。
「もしかして……おゆきを知っているの?」
その名前を口にした瞬間、深雪の瞳から涙がこぼれた。
「……はい」
小太郎の心臓が、大きく跳ねた。
「おゆきさんのことを、知っているの?」
深雪は、ゆっくりとうなずいた。
そして、震える声で答えた。
「だって……おゆきさんは、私なんです」
小太郎の目の前が、真っ白になった。
「……え?」
「信じられないですよね」
深雪は、涙をぬぐった。
「でも、私には覚えているんです。ずっと昔のことを」
小太郎は、言葉を失った。
四百年以上も昔。
天正十年。
雪の降る日に出会った、白い着物の少女。
七日間を一緒に過ごし、突然別れることになった、大切な人。
「……おゆき」
小太郎がつぶやくと、深雪は悲しそうに、そしてうれしそうに微笑んだ。
「はい。私は、あのときのことを覚えています」
その瞬間、小太郎の頬を涙が伝った。
四百四十四年。
長すぎる時間だった。
もう二度と会えないと思っていた。
それなのに。
目の前に、彼女がいる。
二 深雪の記憶
二人は、近くの静かな場所へ移動した。
夕暮れの空が、ゆっくりと夜の色へ変わっていく。
小太郎は、まだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
「深雪さん……本当に、おゆきなの?」
深雪は、小さくうなずいた。
「はい。でも、今の私は深雪です」
そう言って、自分の手を見つめた。
「今の家族がいて、今の人生があります。それでも、私の中には、あの時代の記憶が残っているんです」
「記憶って……どこまで覚えているの?」
深雪は、少し考えてから答えた。
「雪が降っていたこと。小太郎さんと出会ったこと。七日間、一緒に過ごしたこと」
小太郎の胸が、締めつけられた。
「俺が帰ってしまった日のことも?」
「……はい」
深雪の目に、再び涙が浮かんだ。
「小太郎さんが光に包まれて、私の前からいなくなってしまったこと。手を伸ばしても届かなかったこと。忘れないでって、何度もお願いしたこと」
小太郎は、唇をかみしめた。
あの日の自分も、同じだった。
おゆきの手を握っていたかった。
ずっと一緒にいたかった。
でも、何もできなかった。
「……ごめん」
小太郎は、うつむいた。
「俺、あの日、おゆきを置いていってしまった」
「違います」
深雪は、すぐに首を横に振った。
「小太郎さんが、自分の意思で帰ったわけではないことを、私は覚えています」
「でも……」
「だから、自分を責めないでください」
深雪は、優しく微笑んだ。
その微笑みは、あの頃のおゆきと同じだった。
「私は、ずっと信じていました。いつか、また会えるって」
小太郎の目から、涙があふれた。
「……俺も、ずっと会いたかった」
「はい」
「何度も高塚さんに行った。あの音が聞こえたら、また会えるんじゃないかって」
深雪は、涙をぬぐいながらうなずいた。
「私も、ずっとあなたを探していました」
「深雪さん……」
「いいえ。今は、深雪と呼んでください」
深雪は、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「今の私は、深雪ですから」
小太郎は、ゆっくりとうなずいた。
「……深雪」
その名前を口にしたとき、小太郎は初めて気づいた。
おゆきと深雪。
同じ人でありながら、違う人生を生きている。
だからこそ、今度こそ、目の前にいる彼女と向き合いたいと思った。
三 四百四十四年の家族
「深雪、ひとつ聞いてもいい?」
「はい」
「幸恵さんのこと、知ってる?」
深雪は、うなずいた。
「もちろんです。幸恵さんは、私の親戚なんです」
「やっぱり……!」
小太郎は、驚きながらも納得した。
「幸恵さんは、おゆきの娘のお春。その子孫なんだよね?」
「はい。そして、私は……」
深雪は、自分の胸元にそっと手を当てた。
「おゆきの息子、宗太郎の子孫なんです」
小太郎は、息をのんだ。
「宗太郎……」
手紙を読んだときに知った名前だった。
おゆきが、家族を守るために嫁ぎ、その後の人生でつないだ命。
その息子が宗太郎。
娘がお春。
二人の子どもから続いた家系が、四百年以上の時を越えて、今もつながっている。
そして、その二つの家系に生まれた幸恵と深雪は、親戚同士だった。
「じゃあ……おゆきが守ろうとした家族は、今も続いているんだね」
「はい」
深雪は、静かにうなずいた。
「お春の家系も、宗太郎の家系も。長い時間の中で、いろいろなことがあったと思います。それでも、こうして私たちが生きています」
小太郎は、空を見上げた。
おゆきは、家族を守るために、自分の気持ちを胸にしまった。
その選択が、どれほどつらかったのか。
小太郎には、すべてを知ることはできない。
でも、彼女が守った命は、確かに未来まで続いていた。
「……おゆきは、ちゃんと守ったんだね」
小太郎がつぶやくと、深雪は優しく微笑んだ。
「はい。だから、私もここにいるんです」
四 一歳違いの二人
しばらく話したあと、小太郎は、ふと気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、深雪って何歳なの?」
深雪は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「小太郎さんは、何歳ですか?」
「俺は高校生で、十八歳だよ」
深雪は、くすっと笑った。
「私は十七歳です」
「えっ、一個下?」
「はい」
小太郎は、思わず笑ってしまった。
四百年以上も昔に出会った少女が、今は自分より一歳年下の女の子として、目の前にいる。
不思議な話だった。
「そっか。じゃあ、俺のほうが一個お兄さんだね」
「そうですね」
深雪は、いたずらっぽく笑った。
「でも、小太郎さん。昔は、私のほうがしっかりしていたかもしれませんよ?」
「えっ、そうだった?」
「ふふっ。どうでしょう」
その笑顔を見た瞬間、小太郎も笑った。
懐かしい。
でも、初めてのようでもある。
おゆきと過ごした七日間を思い出すと、胸が苦しくなる。
けれど、今、目の前にいる深雪は笑っている。
それが、うれしかった。
「……深雪」
「はい?」
「これから、もっと君のことを知りたい」
深雪は、少し目を見開いた。
「私のことを?」
「うん。おゆきの記憶があることも、四百年以上の時を越えてきたことも、まだわからないことだらけだから」
小太郎は、まっすぐに深雪を見つめた。
「でも、今の君のことも知りたいんだ」
深雪の頬が、ほんのり赤くなった。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ」
二人は、照れくさそうに笑い合った。
かつて、天正十年で交わした約束。
今、その約束の先に、新しい時間が始まろうとしていた。
五 もう一度、あなたの隣で
帰り道。
小太郎と深雪は、並んで歩いていた。
夜空には、星が輝き始めていた。
「深雪」
「はい?」
「ひとつだけ、聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
小太郎は、少しだけ足を止めた。
「……俺に会いたかったのは、昔の約束があったから?」
深雪は、静かに小太郎を見つめた。
「それもあります」
「それも?」
「はい」
深雪は、少し恥ずかしそうに笑った。
「でも、私は小太郎さんに会いたかったんです。あの七日間が、私にとって大切だったから」
小太郎は、何も言えなかった。
深雪は続けた。
「昔の記憶があるからといって、今の私が昔の私とまったく同じというわけではありません。今の私にも、今の気持ちがあります」
小太郎は、深雪の言葉を静かに聞いていた。
「だから……」
深雪は、少しだけ勇気を出すように顔を上げた。
「これからの私のことも、好きになってくれたらうれしいです」
小太郎の胸が、大きく跳ねた。
目の前にいるのは、おゆきであり、深雪でもある。
四百四十四年という時間の中で、彼女は新しい人生を生きてきた。
小太郎は、ゆっくりと微笑んだ。
「うん。これから、たくさん知っていきたい」
「……本当ですか?」
「本当だよ」
小太郎は、少し照れながら続けた。
「昔のおゆきも、今の深雪も。俺にとって、大切な人だから」
深雪の目に、涙が浮かんだ。
けれど今度の涙は、悲しみだけではなかった。
「……ありがとうございます、小太郎さん」
深雪は、そっと微笑んだ。
「私も、あなたと一緒にいたいです」
夜風が、二人の間を静かに吹き抜けた。
四百四十四年前。
雪の降る日に出会った二人は、別れを迎えた。
それから長い時を越えて、今、再び出会った。
けれど、これは昔の続きを、そのまま繰り返すための再会ではない。
おゆきとして生きた記憶を抱きながら、深雪として生きる彼女。
そして、あの日の約束を胸に、彼女を見つけた小太郎。
二人には、これから歩いていく時間がある。
小太郎は、そっと空を見上げた。
「おゆき……」
小さくつぶやいたあと、隣にいる深雪を見た。
「いや……深雪」
深雪は、うれしそうに笑った。
「はい、小太郎さん」
四百四十四年の時を越えた約束は、ここで終わりではない。
今度こそ、二人で未来を歩いていくために。
その言葉を聞いた瞬間、小太郎は息をすることさえ忘れていた。
目の前に立っている女性。
透き通るような白い肌。
きれいな二重の瞳。
そして、涙を浮かべながら微笑む、その表情。
どうしてだろう。
初めて会ったはずなのに、懐かしくてたまらない。
胸の奥が、苦しいほど温かくなっていく。
「……君は、誰なの?」
小太郎は、震える声で尋ねた。
女性は、そっと微笑んだ。
「私の名前は、深雪です」
「深雪……さん?」
「はい」
深雪は、小太郎をまっすぐに見つめた。
「小太郎さんに、どうしても会いたかったんです」
「どうして……俺の名前を?」
小太郎には、何もわからなかった。
今日、幸恵の家を訪ね、おゆきの手紙を読んだばかりだった。
そして、帰り道で突然現れた、この女性。
彼女は、まるで昔から小太郎のことを知っているかのように話している。
「もしかして……おゆきを知っているの?」
その名前を口にした瞬間、深雪の瞳から涙がこぼれた。
「……はい」
小太郎の心臓が、大きく跳ねた。
「おゆきさんのことを、知っているの?」
深雪は、ゆっくりとうなずいた。
そして、震える声で答えた。
「だって……おゆきさんは、私なんです」
小太郎の目の前が、真っ白になった。
「……え?」
「信じられないですよね」
深雪は、涙をぬぐった。
「でも、私には覚えているんです。ずっと昔のことを」
小太郎は、言葉を失った。
四百年以上も昔。
天正十年。
雪の降る日に出会った、白い着物の少女。
七日間を一緒に過ごし、突然別れることになった、大切な人。
「……おゆき」
小太郎がつぶやくと、深雪は悲しそうに、そしてうれしそうに微笑んだ。
「はい。私は、あのときのことを覚えています」
その瞬間、小太郎の頬を涙が伝った。
四百四十四年。
長すぎる時間だった。
もう二度と会えないと思っていた。
それなのに。
目の前に、彼女がいる。
二 深雪の記憶
二人は、近くの静かな場所へ移動した。
夕暮れの空が、ゆっくりと夜の色へ変わっていく。
小太郎は、まだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
「深雪さん……本当に、おゆきなの?」
深雪は、小さくうなずいた。
「はい。でも、今の私は深雪です」
そう言って、自分の手を見つめた。
「今の家族がいて、今の人生があります。それでも、私の中には、あの時代の記憶が残っているんです」
「記憶って……どこまで覚えているの?」
深雪は、少し考えてから答えた。
「雪が降っていたこと。小太郎さんと出会ったこと。七日間、一緒に過ごしたこと」
小太郎の胸が、締めつけられた。
「俺が帰ってしまった日のことも?」
「……はい」
深雪の目に、再び涙が浮かんだ。
「小太郎さんが光に包まれて、私の前からいなくなってしまったこと。手を伸ばしても届かなかったこと。忘れないでって、何度もお願いしたこと」
小太郎は、唇をかみしめた。
あの日の自分も、同じだった。
おゆきの手を握っていたかった。
ずっと一緒にいたかった。
でも、何もできなかった。
「……ごめん」
小太郎は、うつむいた。
「俺、あの日、おゆきを置いていってしまった」
「違います」
深雪は、すぐに首を横に振った。
「小太郎さんが、自分の意思で帰ったわけではないことを、私は覚えています」
「でも……」
「だから、自分を責めないでください」
深雪は、優しく微笑んだ。
その微笑みは、あの頃のおゆきと同じだった。
「私は、ずっと信じていました。いつか、また会えるって」
小太郎の目から、涙があふれた。
「……俺も、ずっと会いたかった」
「はい」
「何度も高塚さんに行った。あの音が聞こえたら、また会えるんじゃないかって」
深雪は、涙をぬぐいながらうなずいた。
「私も、ずっとあなたを探していました」
「深雪さん……」
「いいえ。今は、深雪と呼んでください」
深雪は、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「今の私は、深雪ですから」
小太郎は、ゆっくりとうなずいた。
「……深雪」
その名前を口にしたとき、小太郎は初めて気づいた。
おゆきと深雪。
同じ人でありながら、違う人生を生きている。
だからこそ、今度こそ、目の前にいる彼女と向き合いたいと思った。
三 四百四十四年の家族
「深雪、ひとつ聞いてもいい?」
「はい」
「幸恵さんのこと、知ってる?」
深雪は、うなずいた。
「もちろんです。幸恵さんは、私の親戚なんです」
「やっぱり……!」
小太郎は、驚きながらも納得した。
「幸恵さんは、おゆきの娘のお春。その子孫なんだよね?」
「はい。そして、私は……」
深雪は、自分の胸元にそっと手を当てた。
「おゆきの息子、宗太郎の子孫なんです」
小太郎は、息をのんだ。
「宗太郎……」
手紙を読んだときに知った名前だった。
おゆきが、家族を守るために嫁ぎ、その後の人生でつないだ命。
その息子が宗太郎。
娘がお春。
二人の子どもから続いた家系が、四百年以上の時を越えて、今もつながっている。
そして、その二つの家系に生まれた幸恵と深雪は、親戚同士だった。
「じゃあ……おゆきが守ろうとした家族は、今も続いているんだね」
「はい」
深雪は、静かにうなずいた。
「お春の家系も、宗太郎の家系も。長い時間の中で、いろいろなことがあったと思います。それでも、こうして私たちが生きています」
小太郎は、空を見上げた。
おゆきは、家族を守るために、自分の気持ちを胸にしまった。
その選択が、どれほどつらかったのか。
小太郎には、すべてを知ることはできない。
でも、彼女が守った命は、確かに未来まで続いていた。
「……おゆきは、ちゃんと守ったんだね」
小太郎がつぶやくと、深雪は優しく微笑んだ。
「はい。だから、私もここにいるんです」
四 一歳違いの二人
しばらく話したあと、小太郎は、ふと気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、深雪って何歳なの?」
深雪は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「小太郎さんは、何歳ですか?」
「俺は高校生で、十八歳だよ」
深雪は、くすっと笑った。
「私は十七歳です」
「えっ、一個下?」
「はい」
小太郎は、思わず笑ってしまった。
四百年以上も昔に出会った少女が、今は自分より一歳年下の女の子として、目の前にいる。
不思議な話だった。
「そっか。じゃあ、俺のほうが一個お兄さんだね」
「そうですね」
深雪は、いたずらっぽく笑った。
「でも、小太郎さん。昔は、私のほうがしっかりしていたかもしれませんよ?」
「えっ、そうだった?」
「ふふっ。どうでしょう」
その笑顔を見た瞬間、小太郎も笑った。
懐かしい。
でも、初めてのようでもある。
おゆきと過ごした七日間を思い出すと、胸が苦しくなる。
けれど、今、目の前にいる深雪は笑っている。
それが、うれしかった。
「……深雪」
「はい?」
「これから、もっと君のことを知りたい」
深雪は、少し目を見開いた。
「私のことを?」
「うん。おゆきの記憶があることも、四百年以上の時を越えてきたことも、まだわからないことだらけだから」
小太郎は、まっすぐに深雪を見つめた。
「でも、今の君のことも知りたいんだ」
深雪の頬が、ほんのり赤くなった。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ」
二人は、照れくさそうに笑い合った。
かつて、天正十年で交わした約束。
今、その約束の先に、新しい時間が始まろうとしていた。
五 もう一度、あなたの隣で
帰り道。
小太郎と深雪は、並んで歩いていた。
夜空には、星が輝き始めていた。
「深雪」
「はい?」
「ひとつだけ、聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
小太郎は、少しだけ足を止めた。
「……俺に会いたかったのは、昔の約束があったから?」
深雪は、静かに小太郎を見つめた。
「それもあります」
「それも?」
「はい」
深雪は、少し恥ずかしそうに笑った。
「でも、私は小太郎さんに会いたかったんです。あの七日間が、私にとって大切だったから」
小太郎は、何も言えなかった。
深雪は続けた。
「昔の記憶があるからといって、今の私が昔の私とまったく同じというわけではありません。今の私にも、今の気持ちがあります」
小太郎は、深雪の言葉を静かに聞いていた。
「だから……」
深雪は、少しだけ勇気を出すように顔を上げた。
「これからの私のことも、好きになってくれたらうれしいです」
小太郎の胸が、大きく跳ねた。
目の前にいるのは、おゆきであり、深雪でもある。
四百四十四年という時間の中で、彼女は新しい人生を生きてきた。
小太郎は、ゆっくりと微笑んだ。
「うん。これから、たくさん知っていきたい」
「……本当ですか?」
「本当だよ」
小太郎は、少し照れながら続けた。
「昔のおゆきも、今の深雪も。俺にとって、大切な人だから」
深雪の目に、涙が浮かんだ。
けれど今度の涙は、悲しみだけではなかった。
「……ありがとうございます、小太郎さん」
深雪は、そっと微笑んだ。
「私も、あなたと一緒にいたいです」
夜風が、二人の間を静かに吹き抜けた。
四百四十四年前。
雪の降る日に出会った二人は、別れを迎えた。
それから長い時を越えて、今、再び出会った。
けれど、これは昔の続きを、そのまま繰り返すための再会ではない。
おゆきとして生きた記憶を抱きながら、深雪として生きる彼女。
そして、あの日の約束を胸に、彼女を見つけた小太郎。
二人には、これから歩いていく時間がある。
小太郎は、そっと空を見上げた。
「おゆき……」
小さくつぶやいたあと、隣にいる深雪を見た。
「いや……深雪」
深雪は、うれしそうに笑った。
「はい、小太郎さん」
四百四十四年の時を越えた約束は、ここで終わりではない。
今度こそ、二人で未来を歩いていくために。