バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
身をよじりながら抵抗する。
「……ねぇ慧さん、あなたその女に騙されてるのよ。そんな介護士なんて社会の底辺にいる人が、あなたにふさわしいわけない。どうせ金目当てに決まってる。私は判事の娘でバツだってついてない。完璧なあなたには、私の方がよっぽど相応しいわ!」
腕を掴まれ、長い髪を振り乱しながら、狂ったように金切り声を上げて叫び続ける麗子。
その激しい声を受け止めながら、詩織は静かに、しかし確かな足取りで麗子へと近づいていった。
「違います」
詩織の放った静かな一言に、麗子の叫びがピタリと止まった。
「慧さんは、完璧な人じゃありません。確かに、頭が良くて努力家です。素晴らしい弁護士です。でも……仕事はできるけどお料理はできません。ちょっと邪魔なくらいついて回ってくるし、すぐ勘違いしちゃうし、先走るし。困ったくらい過保護で、頑固で……それに、私と同じくらい泣き虫です」
まっすぐに、麗子を見つめる。
「私は、慧さんが完璧だから好きになったんじゃない。ダメなところも全部ひっくるめて、人間らしくて可愛い人だから好きなんです」
ひとつひとつ、言葉を噛み締めるように紡ぎながら、詩織の胸の奥から熱い感情が溢れ出す。
「完璧な王子様なんかじゃない。ただ、私を条件なしに大事にしてくれる人だから。見返りを求めず一緒に居てくれる人だから。だから私も、どんな彼も愛してるんです」
麗子はピタリと動かなくなった。
そのまま警察官たちに左右から身体を支えられ、引きずられるようにして警察車両の中へと連れていかれる。
ヒールの音が遠ざかり、静寂が戻ってくる。
「慧さん……」
詩織はすぐに振り返った。
何よりも彼の怪我が心配だ。ハンカチをあてた頬の傷が、どれほど深いのか確かめようと覗き込む。
「大丈夫だよ、これくらい」
その視線の意味を瞬時に察した鷹木が、安心させるようににこりと微笑んで答えた。
「どうしてここが……?」
詩織は、彼の手のひらの温もりを頬に感じながら問いかけた。
誰にも行き先を言わずに、一人で終電に乗ってきたのだ。
なぜ彼は、K駅にいると分かったのだろうか。そしてなぜ、一連の混乱の主犯が西園寺麗子だと正確に見抜けたのだろう。
「あの写真……週刊誌に載っていた写真は別の施設で起きた事件のものだって分かってね。ねつ造記事だと、すぐに証拠が出せた。それをもって、警察とともにB社に立ち入ったんだ。麗子さんの社用パソコンをたどったら詩織へのメールの履歴も出た」
鷹木はひとつひとつ順序立てて説明してくれた。
「西園寺さんには直談判したんだ。『娘さんが非道なことをしている、このままでいいのか』って。……最初は半信半疑だったけどね」
鷹木は声を和らげながら、詩織の頬を大切そうになで続ける。
目の前に自分を愛おしそうに見つめる鷹木の優しい瞳がある。しかし彼の向こうには、静まり返った暗がりに立つ、疲れ切った西園寺判事の小さな背中が見えた。
胸の奥からこみ上げてくる安堵と、さまざまな感情の昂ぶりが、詩織の中でない交ぜになる。
詩織は、涙がこぼれ落ちるのを止めることができなかった。