子を産めないと捨てられた私ですが、元夫の唯一の跡継ぎを授かりました〜裏切り者の親友が産んだ子は、別の男の娘のようです〜
3
それから3年の月日が流れた。
島田家の邸宅は、今日も重苦しい空気に包まれていた。佳奈子は、蓮人と菜摘の間に生まれたもうすぐ3歳になる女の子・莉奈を抱き上げながら、不満げに溜め息をつく。
「菜摘さん、次こそは男の子を産んでもらわなければ困るわ。島田家を継げるのは男の子だけなのよ」
「すみません、お義母様……」
神妙な顔をつくる菜摘だったが、その顔にはどこか焦りの色が浮かんでいた。蓮人は相変わらず無気力な顔で、窓の外を眺めているだけだった。
その時、玄関のインターホンが鳴り響いた。
制止する手伝い人を押し切って応接間に足を踏み入れたのは、洗練された雰囲気を纏う芽唯愛だった。その傍らには、すくすくと育った、蓮人の面影を色濃く残す3歳の男の子の手が握られている。
「芽唯愛……さん!? なぜここに!!」
佳奈子が立ち上がり、声を荒らげた。
「お久しぶりです、お義母様。……いいえ、島田佳奈子さん」
芽唯愛は冷静に、一枚の書類をテーブルの上に滑らせた。
そこには『DNA親子鑑定証明書』の文字。蓮人と、傍らにいる男の子のDNA一致率は99.9%と記されている。
「な、なにこれ……?」
蓮人が震える手で書類を拾い上げた。
「あなたの子です。立派な、男の子ですよ。今私が大切に育てております。もうすぐ3歳になります」
芽唯愛の言葉に、佳奈子の目が見開かれた。
「蓮人の……本当の跡継ぎ!?」
「ちょっと待ちなさいよ!」
焦った菜摘が声を張り上げた。
「今更現れて何なの!? 蓮人さんの妻は私よ! 私は島田家に女の子を産んだのよ!」
芽唯愛はゆっくりと菜摘に向き直り、フッと冷たい笑みを浮かべた。
「そう……その子のことだけど」
芽唯愛はバッグから、もう一枚の封筒を取り出した。
「3年間、あなたたちをじっくり観察させてもらったわ、菜摘。あなたの派手な夜遊びも、怪しい男性関係もね。……これは、莉奈ちゃんと蓮人さんのDNA鑑定書よ」
「な……ッ!?」
菜摘の顔から一気に血の気が引いた。
蓮人が慌ててその書類を開く。『親子関係:0%』。
「菜摘……これ、どういうことだ!?」
蓮人が叫んだ。
「ち、違うの! これは罠よ、蓮人さん! 私を陥れるために芽唯愛が……!」
「いい加減にしなさい!」
佳奈子の怒号が屋敷に響き渡った。信頼していた菜摘の裏切り、そして血の繋がっていない子を跡継ぎとして育てさせられていた事実に、佳奈子は崩れ落ちるようにソファーに倒れ込んだ。
混乱し、互いを罵り合い始める3人。かつて芽唯愛を地獄に突き落とした者たちが、自らが作った嘘と強欲の罠にかかり、醜く崩壊していく。
芽唯愛は愛する息子の手をしっかりと握り締め、背を向けた。
「行きましょう。もう、私たちには関係のない場所よ」
追いかけてこようとする蓮人の「芽唯愛!」という情けない声を背中で聞きながら、芽唯愛は一度も振り返ることなく、光の差す外の世界へと歩み出していった。