あの日の約束は夢になって、
末山愛斗は、物心ついたときからコーラスグループ「サーカス」の歌声に心を奪われていた。
テレビから流れてくる透き通ったハーモニーを聴くたび、胸が躍るような気持ちになった。
幼稚園の休み時間にはいつも口ずさみ、お遊戯会では必ずサーカスの曲を選んで歌うほどで、周りの友達や先生たちは、いつも愛斗がサーカスの歌を歌っている姿を見て、微笑ましく見守っていた。
コーラスグループサーカスは、姉の叶正子、弟叶高、弟叶央介央介がオーディションで社内恋愛して結婚した原淳子、そしていとこの卯月節子が加わり、家族と親戚が一緒になって結成された温かなグループだ。
長い時間を共に歩み、メンバーの入れ替わりを経た今も、正子と高、高のひとり娘であるありさ、そしてオーディションから新たに加わった吉村勇一の四人が、変わることのない美しい歌声を届け続けている。
三十五年前、愛斗がまだ幼稚園の年長組だったある日のこと。
園長先生がにこやかな笑顔で声をかけてくれた。「愛斗くん、ちびっこのど自慢という番組があるんだけど、出てみない? なんとゲストでサーカスのみなさんがいらっしゃるんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、愛斗の胸はいっぱいに膨らんだ。
テレビの向こうの憧れの人たちに、直接会える——それだけで、心が落ち着かなくなった。
迷うことなく「出ます」と答え、本番の日が来るのを毎日指折り数えて待っていた。
本番当日、ステージの袖に立つと、大勢の観客の声がほんのりと聞こえてくる。
足がすくむほど緊張し、手のひらには汗がにじんだ。そんなとき、背の低い少女がそっと横に来てくれた。叶ありさ。母親が仕事で忙しいときはいつもコンサートに付き添って来ている、幼いながらも穏やかで優しい瞳の少女だ。
ありさは愛斗の緊張した様子を見て、柔らかく微笑みかける。
「緊張してるの? 大丈夫だよ。私、あなたの歌、ちゃんと聴いてるから。オーディションに受かったら、大人になってまた会おう。私もいつかサーカスのメンバーになって、一緒に歌うから」
その言葉は、幼い心の中で温かく光り続ける約束となった。
三十六年という長い歳月が流れた。
愛斗は夢を叶え、演歌歌手としてステージに立つ日々を送っている。
そしてライブやイベントでサーカスのみなさんと共演する機会が巡るたび、ありさとの距離も少しずつ縮まっていった。
言葉を交わすたび、笑い合うたび、あの日の小さな約束が鮮やかによみがえってくる。
そして今日、サーカスの四人が一堂に会する特別なコンサートの朝が訪れた。
会場にはたくさんのお客さんの予約が入り、ステージ裏にも落ち着いた活気が漂っている。
愛斗は紺色の美しいステージ衣装に身を包み、ステージ袖へと続く廊下をゆっくりと歩いていく。先の方には、幼い頃からテレビの画面越しに憧れ続けた叶正子と叶高の姿が見える。ありさと勇一もそのそばに立ち、ありさはピアニストの加藤実と穏やかな笑顔でをしている。
邪魔をしてはいけない——そう思い、愛斗はそっと足を運び、その横を通り過ぎようとした。だがそのとき、ありさがふと顔を上げ、愛斗の姿に気づいた。
「愛斗くん、おはようございます。今日はどうぞよろしくお願いいたします」
ありさの声は、あの日と変わらぬ温かさに満ちてた。愛斗は慌てて足を止め、頭を下げる。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
二人が挨拶を交わしていると、叶高が隣に立っていた知人の方に向けて、愛斗の方を指して話し始める。ありさも嬉しそうに目を輝かせ、言葉を添える。
「この方、小さな頃からずっと私たちの歌を聴いてくださっているんです。あのちびっこのど自慢の日から、今日までずっと」
愛斗は照れくささを感じながらも、心の奥底では、あの日交わした小さな約束が時を越え、今こうして確かな絆へと育っていることをしみじみと感じていた。
テレビから流れてくる透き通ったハーモニーを聴くたび、胸が躍るような気持ちになった。
幼稚園の休み時間にはいつも口ずさみ、お遊戯会では必ずサーカスの曲を選んで歌うほどで、周りの友達や先生たちは、いつも愛斗がサーカスの歌を歌っている姿を見て、微笑ましく見守っていた。
コーラスグループサーカスは、姉の叶正子、弟叶高、弟叶央介央介がオーディションで社内恋愛して結婚した原淳子、そしていとこの卯月節子が加わり、家族と親戚が一緒になって結成された温かなグループだ。
長い時間を共に歩み、メンバーの入れ替わりを経た今も、正子と高、高のひとり娘であるありさ、そしてオーディションから新たに加わった吉村勇一の四人が、変わることのない美しい歌声を届け続けている。
三十五年前、愛斗がまだ幼稚園の年長組だったある日のこと。
園長先生がにこやかな笑顔で声をかけてくれた。「愛斗くん、ちびっこのど自慢という番組があるんだけど、出てみない? なんとゲストでサーカスのみなさんがいらっしゃるんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、愛斗の胸はいっぱいに膨らんだ。
テレビの向こうの憧れの人たちに、直接会える——それだけで、心が落ち着かなくなった。
迷うことなく「出ます」と答え、本番の日が来るのを毎日指折り数えて待っていた。
本番当日、ステージの袖に立つと、大勢の観客の声がほんのりと聞こえてくる。
足がすくむほど緊張し、手のひらには汗がにじんだ。そんなとき、背の低い少女がそっと横に来てくれた。叶ありさ。母親が仕事で忙しいときはいつもコンサートに付き添って来ている、幼いながらも穏やかで優しい瞳の少女だ。
ありさは愛斗の緊張した様子を見て、柔らかく微笑みかける。
「緊張してるの? 大丈夫だよ。私、あなたの歌、ちゃんと聴いてるから。オーディションに受かったら、大人になってまた会おう。私もいつかサーカスのメンバーになって、一緒に歌うから」
その言葉は、幼い心の中で温かく光り続ける約束となった。
三十六年という長い歳月が流れた。
愛斗は夢を叶え、演歌歌手としてステージに立つ日々を送っている。
そしてライブやイベントでサーカスのみなさんと共演する機会が巡るたび、ありさとの距離も少しずつ縮まっていった。
言葉を交わすたび、笑い合うたび、あの日の小さな約束が鮮やかによみがえってくる。
そして今日、サーカスの四人が一堂に会する特別なコンサートの朝が訪れた。
会場にはたくさんのお客さんの予約が入り、ステージ裏にも落ち着いた活気が漂っている。
愛斗は紺色の美しいステージ衣装に身を包み、ステージ袖へと続く廊下をゆっくりと歩いていく。先の方には、幼い頃からテレビの画面越しに憧れ続けた叶正子と叶高の姿が見える。ありさと勇一もそのそばに立ち、ありさはピアニストの加藤実と穏やかな笑顔でをしている。
邪魔をしてはいけない——そう思い、愛斗はそっと足を運び、その横を通り過ぎようとした。だがそのとき、ありさがふと顔を上げ、愛斗の姿に気づいた。
「愛斗くん、おはようございます。今日はどうぞよろしくお願いいたします」
ありさの声は、あの日と変わらぬ温かさに満ちてた。愛斗は慌てて足を止め、頭を下げる。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
二人が挨拶を交わしていると、叶高が隣に立っていた知人の方に向けて、愛斗の方を指して話し始める。ありさも嬉しそうに目を輝かせ、言葉を添える。
「この方、小さな頃からずっと私たちの歌を聴いてくださっているんです。あのちびっこのど自慢の日から、今日までずっと」
愛斗は照れくささを感じながらも、心の奥底では、あの日交わした小さな約束が時を越え、今こうして確かな絆へと育っていることをしみじみと感じていた。
