もしオレのカノジョが思春期直撃のあの歌手だったら
第1話:ヘッズの通知と、教室のウラガオ

朝の満員電車。揺れる車内でスマホの画面を開くと、聞き慣れないポップな通知音が響いた。
『ーー新着メッセージが1件あります』
匿名型SNSアプリ「ヘッズ」。登録したのは、昨日の夜、退屈しのぎに流し込んだ愚痴アカウントだ。誰とも繋がっていないはずの画面に、ポツンと表示されたダイレクトメッセージ。
差出人の名前を見て、俺一一高校二年の悠真(ゆうま)は、心臓が跳ね上がるのを感じた。

[MARS]
「おはよ、悠真。今日、部活終わったらウ
チ来る?」
「....は?」
声に出してしまい、隣のリーマンに変な目で見られた。
画面を見返す。アイコンは、まばゆいばかりの金髪に、少し気怠げな瞳をした美女。
ーーいや、美女どころの話じゃない。
今、テレビをつけなくても日本中の街角で流れている、伝説的シンガー・MARS(マーズ) その人だった。
中学生の頃、世間は空前の「マーズ現象」に包まれていた。ヒット曲『マーズ・ダイブ』の圧倒的な歌声と、黒髪清楚でおとなしい「清純派アイドル」然としたルックスは、思春期の男子たちの心を一網打尽にした。もちろん、もれなく俺の青春のど真ん中にも直撃していた。
ーーけど、なんでそんな大スターが、普通の高校生である俺の名前を知っている?いや、それ以前に...・。
【悠真】
「....お前、本当にあのマーズか?ていうか、その口調......」
震える指で返信を打つと、秒速で既読がつき、すぐに返事が返ってきた。
[MARS]

「なに疑ってんのよ。画面の向こうで『清
楚なお姉様』とか勝手に妄想してたでしよ?残念でしたー、素のウチはこーゆーキャラなんですー」
送られてきたのは、ステージ上のクールな表情からは微塵も想像がつかない、スウェット姿でベッドにごろ寝しながら舌を出している自撮り写真だった。
「ーーで、それが本当の彼女ってわけ?」放課後の部室。友人のKが、スマホをのぞき込みながら呆れたような、しかし羨望の色を隠し切れない顔で俺を見た。
 バスケ部の部活を終えて、冷やかすKに、俺は頭を抱えて机に突っ伏す。
 
「信じられないだろ.......ネットの裏アカでたまたま知り合って、愚痴とか言い合ううちに意気投合して.....まさか本物が混ざってるなんて思わないじゃん」
「いや大事件だろ!日本中の男子が泣くぞ!で、今日の放課後は『ウチ来る?』の通りに、あのマーズの家に直行するわけ?」
「....行くしかないだろ。既読つけちまったし、行かないと『冷たい』ってスタンプ連打されるし.....」
「贅沢な悩みだなコノヤロー!」
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