優しい死神さんと、空気じゃない私
 最初は不思議な存在への恐怖から警戒し、距離を置いていた玲奈だった。

 けれど、毎朝出会う彼の、街を見つめる澄んだ瞳や、カラスたちへ優しく注がれる横顔を見るうちに、心の中の警戒という霧はすっと晴れていった。

 彼は人間に危害を加えるどころか、ただ静かに、少し寂しそうな目で街を……そして玲奈を見守っているだけだったのだ。

 ある日、彼が不器用にぎこちない微笑みを向け、照れくさそうにすぐ顔を伏せたことがあった。

 そのあまりにも純粋で優しい仕草が、玲奈の背中を押した。

(この人は……ちっとも怖くない。むしろ、とても優しい人なんだ)

 そう気づいた澄んだ朝、玲奈は勇気を出して、静かに佇む彼のもとへ歩み寄り、言葉をかけた。

「あの……おっ、おはよう」

 死神の青年は驚いたように目を見開いた。

 いつもの哀しげな眼差しで玲奈を見つめていたが、自分が「そこに存在している」と認識された奇跡を確かめるように、噛みしめながらぽつりと呟く。

「……おはよう……」

 その日を境に、二人が交わす言葉の数は少しずつ増えていった。

 そしてある日の放課後。 オレンジ色の夕焼けが街を優しく染める時間、玲奈はまた街を彷徨う彼の姿を見つけると、胸がトクンと小さく跳ねた。
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