優しい死神さんと、空気じゃない私
 同じ場所、そのすぐ側には、姿の見えない死神が佇んでいた。

 彼はこれから起こるであろう悲しい現実に、胸を痛めて立ち尽くしている。

(つい先ほどは、寿命を迎えた犬を見送ったばかりだというのに……今度は事故で命を落とす人間を送るのか。しかも、まだあんな小さな子供だなんて。できることなら、見たくもないけれど……)

 死神は思わず手を差し伸べようとしたが、実体のない彼の手は虚しく空を斬るだけだった。

 人間には自分の声も姿も届かないし、生き物には触れることすらできないのだと、半ば諦めている。

(それに……流石に死神が人の命を助けたら、今回ばかりは閻魔様もお怒りになるだろうし……)

 魔界のルールが頭をよぎり、彼は差し出し懸けた手を諦めとともに静かに下ろした。

 ふと死神の視界に入ったのは、すぐ隣で恐怖に身をこわばらせて震える、『よく知る少女』――玲奈の姿だった。

(この子は)

 死神にとって、その一瞬は時が止まったかのように感じられた。
 頭の中で数多くの葛藤が激しく渦巻く。

(この子は確か……玲奈と言う名前。僕の知る限り、心が水色のように清らかな子だ。どうしよう……あの子の体になら、ほんの一瞬……一瞬だけなら乗り移り、子供(あの子)を助けることができる。でも、そんなことをしたら――)
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