32歳、推し活女子。大恋愛の失恋の末、アプリで出会ったハイスペ男性に溺愛される(かも)
11,ジェットコースターに乗ると
ゲートが開くと私は和樹さんを奥の席へと押し込みました。
右側はコースの外側。
つまり、一番の重力がかかる場所です。
目の前の恐怖で怯える彼は、これから訪れる恐怖の連続をまだ知らないのです。
(どんな顔をして怯えるんだろう。楽しみ)
すっかりジェットコースターよりも彼の反応が楽しみになっている私がいます。
安全ベルトと締める彼の手は震えていて、なかなかうまくハマらない様子。
安全バーを降ろす係の人が心配そうに見守るほどでした。
なんとか安全ベルトを締めると、係員が手動で安全バーを下ろします。
高速のコースターだけあって、安全バーはかなりしっかりと体に食い込みました。
私は安全バーの締め付けは安心するのですが、彼は慣れていないせいか 「ぐえっ」と変な声を漏らし、そして安全バーを不安そうに握りしめています。
すでに涙目で不安そうな和樹さん。
まるで保育園でお母さんが離れていく様子を泣くのを我慢して見送っている園児みたい。
実に微笑ましい。
そうこうしているうちに、出発の合図が鳴りました。
係の人が 「いってらっしゃい!」と手を振ります。
その瞬間、コースターがガコンと揺れ、そしていきなり髪がなびくほどのスピードで進み始めたのです!
「おお、すごい速さ!いきなり風を感じるなんて」
私が感動で胸をときめかせていると、隣からブツブツと聞こえてきます。
「はや、はやいはやい!早すぎるって」
振り向くと、彼は安全バーを全力で掴みながら目を見開いています。
顎に力が入っているのか、エラが張って顔が長方形になるほど変形しました。
(へえ。男の人って恐怖になると顔が四角くなるのね)
そんなことを思っていると、コースターがスイスイと急斜面を上ります。
角度的に寝る体勢。
上を見ていれば空しか見えませんが、横を向くと東京ドームシティが一望できます。
「うわあ、すごくいい景色!和樹さん、見て。人が米粒みたい」
そう言って彼の顔を見て驚きました。
彼はすでに目をつぶっています!
「うわっ、チキン!」
その声が聞こえたのでしょう。
彼は頑張って目を開けようとしました。
そして横を向き、すぐに前に向き直って目をつむり直します。
目尻のシワが、さっきよりも深くなりました。
よっぽど怖かったのでしょう。
(えへへ。なんか、かわいい)
彼の顔を見ていると一瞬で頂上に到達。
そして、ためもなく、一気に降下!
途端に見舞われる強風!
そしてお尻が持ち上がるほどの浮遊感!
ものすごい揺れと、一気に迫ってくるコンクリートの地面に背中からゾワッと冷たいものが湧き上がるのです。
「きたきたきたぁ!」
私は叫びました。
歓喜の声を上げました。
日常では絶対に味わえないスリル!
安全が保証された命の危険!
信じられないスピードで駆け抜ける疾走感は激しいロックミュージックを超える爽快感!
私は全力で叫びます。
カラオケでも出ない声で喚きます。
「きゃああ!最高!怖い、楽しい!」
轟々とうねりを上げるコースターの音に混じって、野太い男の悲鳴が。
「うわああ、うぎぃぃ!」
歯を食いしばりすぎて変な声になってます。
ゴゴゴゴッ、と骨まで振動する揺れに声も大きく震えました。
その声が生命の危機を盛り上げていて、なおいっそう、胸を踊らせるのです。
「楽しい!ね、和樹さん!」
私は凄まじい勢いで景色が流れ行く中で声を張り上げます。
ですが当然のようにその声は景色と一緒に飛ばされていって、多分、彼の耳には届いていません。
視界に見えていたはずの大きなホテルが一瞬にして真後ろに。
それほどまでに早いスピードでコースターは旋回します。
ここで大きなひねり!
グンッと体が引っ張られる感覚。
空に投げ出される体。
それを受け止める安全バー。
手に力がこもり、足をついつい床に強く押し付けてしまう。
道路を見ていたと思ったら、目の前が空!
空を見ていたと思ったら、急にレールが目の前に現れて壁に迫る!
ぶつかると思ったら、また浮遊感!
顔に叩きつけられる風が、私たちの髪や唇を持っていく!
彼は口を開けっ放しにしていたのでしょう。
ガクガクと揺れる中、 彼は「うごごご!がはっ!」と呼吸すらまともにできていません。
「あは、あはははははっ!」
私は笑いました。
すごく楽しい!
ジェットコースター自体もすごく楽しい。
右に左に、まるでおもちゃのように弄ばれながら信じられないスピードを体験できている。
それだけでも楽しいのに、隣に私を気にかけてくれている男性がいる。
彼は絶対に怖いのに、一人じゃ絶対に乗らないくせに、私のために付き合ってくれている!
面白い表情をしながら、不思議な悲鳴を上げながら、全力で怖がってくれている!
そのおかげで私は今、人生で一番楽しい!
ジェットコースターが上下に大きく波打ち出しました。
浮遊感、そして重力による圧迫感!
グングンと体がはずみ、心も弾む。
「うきゃ!うあっ!あははははっ!」
もう頭の中、真っ白!
辛い現実もジェットコースターが遠くへ置いてきちゃった。
迫りくる風と景色と衝撃が、私の心のデトックスをしてくれる。
「あばばばばばっ!」
私の横で、さっき私に告白めいた言葉を言った彼が面白い顔でうめいている。
さっきまでキリッとしていたはずなのに、今は口を開けて涙をこぼしただらしない顔。
ああ、好きな人と遊園地に来るのってこんなに楽しいんだ!
私は晴れ晴れとした気持ちで最後のコーナーを迎えます。
引っ張られる体。
視界は太陽の光が差し込む大空。
体を投げ出された私は前の彼氏に振られた悔しさや、婚活で失敗した憂鬱を思いっきり笑い飛ばしたのです!
「あははははははっ!」
まるで童心に返ったみたい。
保育園で預かる子どもになったみたい。
今、私は無敵だ。
なにがあっても怖くない!
そんな勇猛果敢な思いでいっぱいです。
それもこれも、この人が隣にいるから。
何でも受け入れてくれて、何でも一緒に体験してくれる。
いえ、まだ遊園地に来ただけですけど、きっと、これからどんな場所でも一緒に来てくれる。
そんな優しい男性がそばにいること。
それが本当に頼もしい!
ほんの数分の、激流のような時間の中、私は幸せで胸がいっぱいでした。
その幸せの時間も、もう終わる。
コースターは速度を落として建物の中に入りました。
地面が見えます。
順番を待つ人たちや係の人が見えました。
ああ、戻ってきた。
そう思うと同時に、私は不安を感じて和樹さんの方に振り向きました。
私は楽しかったけど、和樹さんはきっときつかったよね?
もし、本当に嫌で、これからも私と付き合うと嫌な思いをすると思っちゃったらどうしよう。
もう一緒にいてくれないのかしら。
そんな不安で彼を顔を見ます。
彼は顔面蒼白を超えて、真っ青でした。
一瞬で2・3キロ痩せたかと疑うくらいに真っ青です。
「うわああ」
私が思わず声を上げてしまいました。
(これ、絶対、後悔してる。これに乗せた私を恨んでいたらどうしよう)
いつもの弱気が出て、内心、ビクビクしていたその時です。
彼は顔を上げると、私の視線に気づきました。
ゲッソリとした彼の視線が私の顔を捉えた時、彼は鬼瓦のように笑います。
あまりに不気味な笑み。
(怒られる?)
そう思ったのですが、彼は親指を立ててサムズアップしました。
そして無理やり笑ったのです。
「楽しかったね。超余裕」
ハリのない声でそんな強がりを言うので、私は思わずツッコみました。
「嘘つかないで!すごく怖がってたじゃん!」
「あははは、何を言うんだい。楽勝過ぎて笑っちゃったくらいだよ」
「いやいや!うごご、とか、うぎぎ、とか変な声しか聞こえなかったよ?」
「まさか。そんなことはない」
そんな夫婦漫才みたいな掛け合いをしていると、コースターは停止して安全バーが上がりました。
「ああ、楽しかった……」
彼は最後まで強がりを言いながら立ち上がったものの、見事に足がもつれて数歩ケンケンしてしまいます。
「ほらぁ、言わんこっちゃない!」
心配になって座席から前のめりになると、和樹さんはふらつきながらも必死に踏ん張り、私に向かってそっと手を差し出します。
そして、青白い顔でめいっぱいカッコつけて笑いました。
「さあ、捕まって」
すごくカッコ悪い。
だけど、その震える手からは「僕が君をエスコートしなきゃ」という不器用な優しさと男気が痛いくらいに伝わってきます。
——すごく格好悪いのに、すごく、惚れ直した。
私は嬉しさがこみ上げるのを隠せなくて、彼の大きな手をぎゅっと握り返す。
「ありがとう和樹さん。……頼りになるね」
私の言葉に、和樹さんは少しだけ照れくさそうに頬を緩ませました。
いつの間にかしっかりと繋ぎ合わされた手のひらから、心地よい熱がじんわりと伝わってくる。
「ともえさん、叫んでたけど怖くなかった? 楽しかったならよかった」
「私はとっても楽しかったよ。和樹さんは?」
笑い合いながら降りていく階段の途中、私は確信しました。
この人と一緒なら、これからのどんな高い壁も、きっと二人で乗り越えていける——と。
右側はコースの外側。
つまり、一番の重力がかかる場所です。
目の前の恐怖で怯える彼は、これから訪れる恐怖の連続をまだ知らないのです。
(どんな顔をして怯えるんだろう。楽しみ)
すっかりジェットコースターよりも彼の反応が楽しみになっている私がいます。
安全ベルトと締める彼の手は震えていて、なかなかうまくハマらない様子。
安全バーを降ろす係の人が心配そうに見守るほどでした。
なんとか安全ベルトを締めると、係員が手動で安全バーを下ろします。
高速のコースターだけあって、安全バーはかなりしっかりと体に食い込みました。
私は安全バーの締め付けは安心するのですが、彼は慣れていないせいか 「ぐえっ」と変な声を漏らし、そして安全バーを不安そうに握りしめています。
すでに涙目で不安そうな和樹さん。
まるで保育園でお母さんが離れていく様子を泣くのを我慢して見送っている園児みたい。
実に微笑ましい。
そうこうしているうちに、出発の合図が鳴りました。
係の人が 「いってらっしゃい!」と手を振ります。
その瞬間、コースターがガコンと揺れ、そしていきなり髪がなびくほどのスピードで進み始めたのです!
「おお、すごい速さ!いきなり風を感じるなんて」
私が感動で胸をときめかせていると、隣からブツブツと聞こえてきます。
「はや、はやいはやい!早すぎるって」
振り向くと、彼は安全バーを全力で掴みながら目を見開いています。
顎に力が入っているのか、エラが張って顔が長方形になるほど変形しました。
(へえ。男の人って恐怖になると顔が四角くなるのね)
そんなことを思っていると、コースターがスイスイと急斜面を上ります。
角度的に寝る体勢。
上を見ていれば空しか見えませんが、横を向くと東京ドームシティが一望できます。
「うわあ、すごくいい景色!和樹さん、見て。人が米粒みたい」
そう言って彼の顔を見て驚きました。
彼はすでに目をつぶっています!
「うわっ、チキン!」
その声が聞こえたのでしょう。
彼は頑張って目を開けようとしました。
そして横を向き、すぐに前に向き直って目をつむり直します。
目尻のシワが、さっきよりも深くなりました。
よっぽど怖かったのでしょう。
(えへへ。なんか、かわいい)
彼の顔を見ていると一瞬で頂上に到達。
そして、ためもなく、一気に降下!
途端に見舞われる強風!
そしてお尻が持ち上がるほどの浮遊感!
ものすごい揺れと、一気に迫ってくるコンクリートの地面に背中からゾワッと冷たいものが湧き上がるのです。
「きたきたきたぁ!」
私は叫びました。
歓喜の声を上げました。
日常では絶対に味わえないスリル!
安全が保証された命の危険!
信じられないスピードで駆け抜ける疾走感は激しいロックミュージックを超える爽快感!
私は全力で叫びます。
カラオケでも出ない声で喚きます。
「きゃああ!最高!怖い、楽しい!」
轟々とうねりを上げるコースターの音に混じって、野太い男の悲鳴が。
「うわああ、うぎぃぃ!」
歯を食いしばりすぎて変な声になってます。
ゴゴゴゴッ、と骨まで振動する揺れに声も大きく震えました。
その声が生命の危機を盛り上げていて、なおいっそう、胸を踊らせるのです。
「楽しい!ね、和樹さん!」
私は凄まじい勢いで景色が流れ行く中で声を張り上げます。
ですが当然のようにその声は景色と一緒に飛ばされていって、多分、彼の耳には届いていません。
視界に見えていたはずの大きなホテルが一瞬にして真後ろに。
それほどまでに早いスピードでコースターは旋回します。
ここで大きなひねり!
グンッと体が引っ張られる感覚。
空に投げ出される体。
それを受け止める安全バー。
手に力がこもり、足をついつい床に強く押し付けてしまう。
道路を見ていたと思ったら、目の前が空!
空を見ていたと思ったら、急にレールが目の前に現れて壁に迫る!
ぶつかると思ったら、また浮遊感!
顔に叩きつけられる風が、私たちの髪や唇を持っていく!
彼は口を開けっ放しにしていたのでしょう。
ガクガクと揺れる中、 彼は「うごごご!がはっ!」と呼吸すらまともにできていません。
「あは、あはははははっ!」
私は笑いました。
すごく楽しい!
ジェットコースター自体もすごく楽しい。
右に左に、まるでおもちゃのように弄ばれながら信じられないスピードを体験できている。
それだけでも楽しいのに、隣に私を気にかけてくれている男性がいる。
彼は絶対に怖いのに、一人じゃ絶対に乗らないくせに、私のために付き合ってくれている!
面白い表情をしながら、不思議な悲鳴を上げながら、全力で怖がってくれている!
そのおかげで私は今、人生で一番楽しい!
ジェットコースターが上下に大きく波打ち出しました。
浮遊感、そして重力による圧迫感!
グングンと体がはずみ、心も弾む。
「うきゃ!うあっ!あははははっ!」
もう頭の中、真っ白!
辛い現実もジェットコースターが遠くへ置いてきちゃった。
迫りくる風と景色と衝撃が、私の心のデトックスをしてくれる。
「あばばばばばっ!」
私の横で、さっき私に告白めいた言葉を言った彼が面白い顔でうめいている。
さっきまでキリッとしていたはずなのに、今は口を開けて涙をこぼしただらしない顔。
ああ、好きな人と遊園地に来るのってこんなに楽しいんだ!
私は晴れ晴れとした気持ちで最後のコーナーを迎えます。
引っ張られる体。
視界は太陽の光が差し込む大空。
体を投げ出された私は前の彼氏に振られた悔しさや、婚活で失敗した憂鬱を思いっきり笑い飛ばしたのです!
「あははははははっ!」
まるで童心に返ったみたい。
保育園で預かる子どもになったみたい。
今、私は無敵だ。
なにがあっても怖くない!
そんな勇猛果敢な思いでいっぱいです。
それもこれも、この人が隣にいるから。
何でも受け入れてくれて、何でも一緒に体験してくれる。
いえ、まだ遊園地に来ただけですけど、きっと、これからどんな場所でも一緒に来てくれる。
そんな優しい男性がそばにいること。
それが本当に頼もしい!
ほんの数分の、激流のような時間の中、私は幸せで胸がいっぱいでした。
その幸せの時間も、もう終わる。
コースターは速度を落として建物の中に入りました。
地面が見えます。
順番を待つ人たちや係の人が見えました。
ああ、戻ってきた。
そう思うと同時に、私は不安を感じて和樹さんの方に振り向きました。
私は楽しかったけど、和樹さんはきっときつかったよね?
もし、本当に嫌で、これからも私と付き合うと嫌な思いをすると思っちゃったらどうしよう。
もう一緒にいてくれないのかしら。
そんな不安で彼を顔を見ます。
彼は顔面蒼白を超えて、真っ青でした。
一瞬で2・3キロ痩せたかと疑うくらいに真っ青です。
「うわああ」
私が思わず声を上げてしまいました。
(これ、絶対、後悔してる。これに乗せた私を恨んでいたらどうしよう)
いつもの弱気が出て、内心、ビクビクしていたその時です。
彼は顔を上げると、私の視線に気づきました。
ゲッソリとした彼の視線が私の顔を捉えた時、彼は鬼瓦のように笑います。
あまりに不気味な笑み。
(怒られる?)
そう思ったのですが、彼は親指を立ててサムズアップしました。
そして無理やり笑ったのです。
「楽しかったね。超余裕」
ハリのない声でそんな強がりを言うので、私は思わずツッコみました。
「嘘つかないで!すごく怖がってたじゃん!」
「あははは、何を言うんだい。楽勝過ぎて笑っちゃったくらいだよ」
「いやいや!うごご、とか、うぎぎ、とか変な声しか聞こえなかったよ?」
「まさか。そんなことはない」
そんな夫婦漫才みたいな掛け合いをしていると、コースターは停止して安全バーが上がりました。
「ああ、楽しかった……」
彼は最後まで強がりを言いながら立ち上がったものの、見事に足がもつれて数歩ケンケンしてしまいます。
「ほらぁ、言わんこっちゃない!」
心配になって座席から前のめりになると、和樹さんはふらつきながらも必死に踏ん張り、私に向かってそっと手を差し出します。
そして、青白い顔でめいっぱいカッコつけて笑いました。
「さあ、捕まって」
すごくカッコ悪い。
だけど、その震える手からは「僕が君をエスコートしなきゃ」という不器用な優しさと男気が痛いくらいに伝わってきます。
——すごく格好悪いのに、すごく、惚れ直した。
私は嬉しさがこみ上げるのを隠せなくて、彼の大きな手をぎゅっと握り返す。
「ありがとう和樹さん。……頼りになるね」
私の言葉に、和樹さんは少しだけ照れくさそうに頬を緩ませました。
いつの間にかしっかりと繋ぎ合わされた手のひらから、心地よい熱がじんわりと伝わってくる。
「ともえさん、叫んでたけど怖くなかった? 楽しかったならよかった」
「私はとっても楽しかったよ。和樹さんは?」
笑い合いながら降りていく階段の途中、私は確信しました。
この人と一緒なら、これからのどんな高い壁も、きっと二人で乗り越えていける——と。