32歳、推し活女子。大恋愛の失恋の末、アプリで出会ったハイスペ男性に溺愛される(かも)
16,観覧車の夜景が言葉を紡ぐ
日も落ちました。
日没も早いこの冬の時期、まだ19時ですが辺りはすっかり暗く、東京ドームアトラクションズのすべてのアトラクションが輝かしい光を放っています。
ミッドタウン日比谷で見た夜景が大人のための夜景なら、東京ドームの夜景は大人から子どもまで楽しめるエンターティメントな夜景といえるでしょう。
大人が見ても心がはずみ、子どもが見ても胸を弾ませる。
幅広い包容力こそ、この施設が持つ最大の強みといえるのです。
そんな夜景を見ながら、私たちは観覧車の中にいました。
上がりつつある夜景を私はあえて見ずに、遠くの真っ暗な夜空を見つめます。
下を見たら終わり。
高所恐怖症の私は怖すぎて足が震えてしまって動けなくなると思います。
そんな私を前に、和樹さんはカラオケを熱唱していました。
歌っているのはスピッツ。
ちょうど私たちが中学生の頃にベストアルバムが出て、代表曲を楽しむことができました。
彼が歌う曲もそのアルバムの中に入っていたもので、彼がマイクを使って歌う中、私も軽く口ずさんで気を紛らわせます。
彼は歌い終わると、私にマイクを渡しました。
「はい。じゃあ、次はともえさん」
「ありがとう」
受け取った私は備え付けのタブレットを手に曲を選び始めました。
「ともえさんは何を歌うの?SPECIAL & Marvelous?」
「うーん、ここの曲リストにはないんだよね。坂道かな」
「そうなんだ」
そう言いながら彼は外の夜景に目を向けます。
ああ、下は見ないで。
なんか、その視線だけで地上の風景を想像しちゃって怖くなっちゃうから。
あ、手が震えてきた。
うまくタブレットが押せない。
私がもたもたしていると、和樹さんは私の顔を覗き込んできました。
急に向けられた視線。
密室空間。
高所であることも相まって、私の心臓は痛いくらいにドキドキし始めてしまいました。
「ともえさん」
「な、なに?」
私が聞き返すと、彼は穏やかにニッコリと笑いました。
「今日は本当にありがとう。とても楽しかった」
そう言って彼は屈託なく笑います。
裏表のない真っ直ぐな笑顔に感じました。
でも急にありがとうと言われると、続いて 「でも、やっぱり俺達、性格が合わないね。さようなら」と言われそうで怖くなります。
私はまだ、前の彼氏から傷つけられた心が癒えていません。
和樹さんとジェットコースターに乗って前向きにはなれたけど、それでもやっぱり振られるのが怖い。
なんだか、和樹さんから別れを告げられそうになっている気がして、私は曲の選定を放り出して話をしたいと思いました。
タブレットを置いた私は強がりながら笑いかけます。
「私も楽しかった。でも、本当に和樹さんも楽しめたの?ジェットコースターを怖がっていたし、お化け屋敷では和樹さんを笑っちゃったし、アニタッチでも和樹さんを笑っちゃったし」
あれ?私、ずっと和樹さんを笑ってない?
いえ、彼をバカにする気持ちはなかったんです。
ただ、彼がずっと面白かったから笑うことが多かっただけで。
でも和樹さんにしてみたら、ずっと年下の女の子に笑われ続けた一日になってしまいました。
嫌な思いをしていないか心配になります。
私自身、以前の職場で先輩に笑われることが多くて悔しい思いをしてきました。
私は根に持つタイプなので、転職した今でも許せなくて怒っています。
和樹さんも同じタイプな気がして、根に持たれているんじゃないかって怖くなったのです。
しかし、和樹さんは笑っています。
「よかった。ともえさんも今日は楽しく過ごせたみたいだね。日比谷の時は辛そうにしていたこともあったから心配だったんだ」
そう言って彼は照れくさそうに頭をかきます。
(ちゃんと見てくれていたんだ)
それがとても嬉しい。
私は結構、考えが顔にでてしまうタイプなのですが、私の険しい表情を見た男性からは 「気難しい子」と思われて話しかけられないことが多いです。
実際に前に付き合っていた彼からも、 「お前が不機嫌な時は話しかけたくないな」と言われて放置されることが多かったように感じます。
でも和樹さんは私が不機嫌でもちゃんと私の顔を見てくれる。
心配をしてくれる。
恋愛下手な私にとって、すごくありがたい存在に思えました。
だけど、私は和樹さんにとって良い女性に見えているのでしょうか。
不安でしかたありません。
私は勇気を出して聞きました。
「和樹さんは今日一日一緒にいてどうでしたか?」
「うん?楽しかったよ」
なぜ、ここで察しが悪くなるんですか!
楽しかったという感想はさっき聞きました。
答えて欲しいのは、この先の私たちの関係です!
思わず深い溜息をつきそうになりましたが、頑張ってこらえます。
男性は女性の不機嫌な態度を見ると不機嫌になるそうですから。
私はゆっくりと深呼吸してから、改めて聞きました。
「私たち、マッチングアプリで出会ったばかりですけど、この先も一緒にいてくれますか?」
聞いた瞬間、私の顔は沸騰しそうなくらいに熱くなりました。
こんな聞き方したら、私の方からプロポーズしたみたいじゃない!
顔がカッカとなり、恥ずかしくて顔を伏せそうになってしまいますが、私は頑張って顔を上げ続けます。
(うう、答えを待つ時間が辛い。早く答えてくれないかな)
男性はなかなかハッキリと答えてくれないものです。
キープしたいのか、やりたいだけなのかわかりませんが、関係をはっきりすることを嫌うのです。
どうせ和樹さんも結論を言ってくれないのでしょうけど。
そう思ったその時でした。
視線を逸らす私の手を、和樹さんの大きな手が包み込みます。
密室に流れる二人の息遣いと、重なり合う体温。
高所の恐怖なのか、それとも彼へのときめきなのか、胸の鼓動が激しく打ち鳴らされる——
「もちろん、これからも一緒に過ごしたい!」
「はやっ!即決?」
彼はにっこりと笑います。
「もちろんだよ。俺もともえさんもまだお付き合いができるか考えてる段階だと思うけど、俺はともえさんと一緒にいて居心地が良いし、それに楽しい!きっと、これから何度か会って、お互いに信頼しあえると感じることができたら将来のことも自然と考えていけるんじゃないかな?」
うん?
この答えはどうなんだろう。
好意は伝わってくるけど、まだお付き合いできる段階じゃないってこと?
でも、たしかに彼が言うように私たちは会うのは二回目。
今すぐにお付き合いするとか、告白するとかは早いのでしょう。
ただ、やっぱり気持ちが焦るのです。
ただでさえ、私は32歳。
できれば子どもも欲しい。
そう考えると、今年中には子作りしたい。
これ以上年齢を重ねると高齢出産のリスクが上がりすぎてしまうから。
それに星子さんの存在も気になります。
元カノだったりして、あとから横取りされないのか。
不安で不安でたまらないのです。
不安のあまり、私は言葉につまります。
和樹さんの言う通りって答えたい気持ちと、もっと早く答えを出してという気持ちが心の中で戦っていて辛いのです。
私の沈黙をどう解釈したのでしょう。
彼は私の手を掴みながら、こう言いました。
「……もしともえさんが俺に対して不満ができて、嫌になったらすぐに言ってほしい。たぶん、俺は必死に引き止めちゃうと思うけど……絶対に迷惑はかけない。なぜなら俺は、ともえさんのことが好きだからだ」
まっすぐに見つめて放たれたその言葉に、私の胸はドクンと激しく跳ね上がりました。
密室の中に、彼の低い声が心地よく響き渡る。
高所恐怖症の怖さなんて一瞬で吹き飛ぶほど、彼の熱い眼差しに全身が熱くなっていく。
(うわあ……『好き』って、こんなにまっすぐ言えちゃうんだ……)
星子さんの存在も、将来への焦りも、私の心にはまだたくさんの不安が渦巻いています。
けれど、こんなにも飾らない言葉で、嘘偽りなく私を選んでくれるこの人なら——。
(……信じてみたい。この温かい手を、離したくない)
観覧車から見える夜景はほとんど見なかったし、せっかくのカラオケも歌えませんでした。
だけど、私たちはしっかりと手を繋ぎ、これまでにないほど温かい笑顔で地上へと降り立ったのでした。
日没も早いこの冬の時期、まだ19時ですが辺りはすっかり暗く、東京ドームアトラクションズのすべてのアトラクションが輝かしい光を放っています。
ミッドタウン日比谷で見た夜景が大人のための夜景なら、東京ドームの夜景は大人から子どもまで楽しめるエンターティメントな夜景といえるでしょう。
大人が見ても心がはずみ、子どもが見ても胸を弾ませる。
幅広い包容力こそ、この施設が持つ最大の強みといえるのです。
そんな夜景を見ながら、私たちは観覧車の中にいました。
上がりつつある夜景を私はあえて見ずに、遠くの真っ暗な夜空を見つめます。
下を見たら終わり。
高所恐怖症の私は怖すぎて足が震えてしまって動けなくなると思います。
そんな私を前に、和樹さんはカラオケを熱唱していました。
歌っているのはスピッツ。
ちょうど私たちが中学生の頃にベストアルバムが出て、代表曲を楽しむことができました。
彼が歌う曲もそのアルバムの中に入っていたもので、彼がマイクを使って歌う中、私も軽く口ずさんで気を紛らわせます。
彼は歌い終わると、私にマイクを渡しました。
「はい。じゃあ、次はともえさん」
「ありがとう」
受け取った私は備え付けのタブレットを手に曲を選び始めました。
「ともえさんは何を歌うの?SPECIAL & Marvelous?」
「うーん、ここの曲リストにはないんだよね。坂道かな」
「そうなんだ」
そう言いながら彼は外の夜景に目を向けます。
ああ、下は見ないで。
なんか、その視線だけで地上の風景を想像しちゃって怖くなっちゃうから。
あ、手が震えてきた。
うまくタブレットが押せない。
私がもたもたしていると、和樹さんは私の顔を覗き込んできました。
急に向けられた視線。
密室空間。
高所であることも相まって、私の心臓は痛いくらいにドキドキし始めてしまいました。
「ともえさん」
「な、なに?」
私が聞き返すと、彼は穏やかにニッコリと笑いました。
「今日は本当にありがとう。とても楽しかった」
そう言って彼は屈託なく笑います。
裏表のない真っ直ぐな笑顔に感じました。
でも急にありがとうと言われると、続いて 「でも、やっぱり俺達、性格が合わないね。さようなら」と言われそうで怖くなります。
私はまだ、前の彼氏から傷つけられた心が癒えていません。
和樹さんとジェットコースターに乗って前向きにはなれたけど、それでもやっぱり振られるのが怖い。
なんだか、和樹さんから別れを告げられそうになっている気がして、私は曲の選定を放り出して話をしたいと思いました。
タブレットを置いた私は強がりながら笑いかけます。
「私も楽しかった。でも、本当に和樹さんも楽しめたの?ジェットコースターを怖がっていたし、お化け屋敷では和樹さんを笑っちゃったし、アニタッチでも和樹さんを笑っちゃったし」
あれ?私、ずっと和樹さんを笑ってない?
いえ、彼をバカにする気持ちはなかったんです。
ただ、彼がずっと面白かったから笑うことが多かっただけで。
でも和樹さんにしてみたら、ずっと年下の女の子に笑われ続けた一日になってしまいました。
嫌な思いをしていないか心配になります。
私自身、以前の職場で先輩に笑われることが多くて悔しい思いをしてきました。
私は根に持つタイプなので、転職した今でも許せなくて怒っています。
和樹さんも同じタイプな気がして、根に持たれているんじゃないかって怖くなったのです。
しかし、和樹さんは笑っています。
「よかった。ともえさんも今日は楽しく過ごせたみたいだね。日比谷の時は辛そうにしていたこともあったから心配だったんだ」
そう言って彼は照れくさそうに頭をかきます。
(ちゃんと見てくれていたんだ)
それがとても嬉しい。
私は結構、考えが顔にでてしまうタイプなのですが、私の険しい表情を見た男性からは 「気難しい子」と思われて話しかけられないことが多いです。
実際に前に付き合っていた彼からも、 「お前が不機嫌な時は話しかけたくないな」と言われて放置されることが多かったように感じます。
でも和樹さんは私が不機嫌でもちゃんと私の顔を見てくれる。
心配をしてくれる。
恋愛下手な私にとって、すごくありがたい存在に思えました。
だけど、私は和樹さんにとって良い女性に見えているのでしょうか。
不安でしかたありません。
私は勇気を出して聞きました。
「和樹さんは今日一日一緒にいてどうでしたか?」
「うん?楽しかったよ」
なぜ、ここで察しが悪くなるんですか!
楽しかったという感想はさっき聞きました。
答えて欲しいのは、この先の私たちの関係です!
思わず深い溜息をつきそうになりましたが、頑張ってこらえます。
男性は女性の不機嫌な態度を見ると不機嫌になるそうですから。
私はゆっくりと深呼吸してから、改めて聞きました。
「私たち、マッチングアプリで出会ったばかりですけど、この先も一緒にいてくれますか?」
聞いた瞬間、私の顔は沸騰しそうなくらいに熱くなりました。
こんな聞き方したら、私の方からプロポーズしたみたいじゃない!
顔がカッカとなり、恥ずかしくて顔を伏せそうになってしまいますが、私は頑張って顔を上げ続けます。
(うう、答えを待つ時間が辛い。早く答えてくれないかな)
男性はなかなかハッキリと答えてくれないものです。
キープしたいのか、やりたいだけなのかわかりませんが、関係をはっきりすることを嫌うのです。
どうせ和樹さんも結論を言ってくれないのでしょうけど。
そう思ったその時でした。
視線を逸らす私の手を、和樹さんの大きな手が包み込みます。
密室に流れる二人の息遣いと、重なり合う体温。
高所の恐怖なのか、それとも彼へのときめきなのか、胸の鼓動が激しく打ち鳴らされる——
「もちろん、これからも一緒に過ごしたい!」
「はやっ!即決?」
彼はにっこりと笑います。
「もちろんだよ。俺もともえさんもまだお付き合いができるか考えてる段階だと思うけど、俺はともえさんと一緒にいて居心地が良いし、それに楽しい!きっと、これから何度か会って、お互いに信頼しあえると感じることができたら将来のことも自然と考えていけるんじゃないかな?」
うん?
この答えはどうなんだろう。
好意は伝わってくるけど、まだお付き合いできる段階じゃないってこと?
でも、たしかに彼が言うように私たちは会うのは二回目。
今すぐにお付き合いするとか、告白するとかは早いのでしょう。
ただ、やっぱり気持ちが焦るのです。
ただでさえ、私は32歳。
できれば子どもも欲しい。
そう考えると、今年中には子作りしたい。
これ以上年齢を重ねると高齢出産のリスクが上がりすぎてしまうから。
それに星子さんの存在も気になります。
元カノだったりして、あとから横取りされないのか。
不安で不安でたまらないのです。
不安のあまり、私は言葉につまります。
和樹さんの言う通りって答えたい気持ちと、もっと早く答えを出してという気持ちが心の中で戦っていて辛いのです。
私の沈黙をどう解釈したのでしょう。
彼は私の手を掴みながら、こう言いました。
「……もしともえさんが俺に対して不満ができて、嫌になったらすぐに言ってほしい。たぶん、俺は必死に引き止めちゃうと思うけど……絶対に迷惑はかけない。なぜなら俺は、ともえさんのことが好きだからだ」
まっすぐに見つめて放たれたその言葉に、私の胸はドクンと激しく跳ね上がりました。
密室の中に、彼の低い声が心地よく響き渡る。
高所恐怖症の怖さなんて一瞬で吹き飛ぶほど、彼の熱い眼差しに全身が熱くなっていく。
(うわあ……『好き』って、こんなにまっすぐ言えちゃうんだ……)
星子さんの存在も、将来への焦りも、私の心にはまだたくさんの不安が渦巻いています。
けれど、こんなにも飾らない言葉で、嘘偽りなく私を選んでくれるこの人なら——。
(……信じてみたい。この温かい手を、離したくない)
観覧車から見える夜景はほとんど見なかったし、せっかくのカラオケも歌えませんでした。
だけど、私たちはしっかりと手を繋ぎ、これまでにないほど温かい笑顔で地上へと降り立ったのでした。