虚無に咲く華
玄関を抜けると、冷たい風が頬をかすめた。
裕也は黒いロングコートの襟を立て、冷たい風に肩をすくめた。
「さっむ……!」
吐き出した息が白く広がり、夜の闇に溶けていった。
料亭の前には黒塗りの車が停まっている。
裕也の姿を見つけると、運転席から大河が降りてきた。
「お疲れ様です、兄貴!」
後部座席の扉を開け、頭を下げる。
「おう!ご苦労さん!」
裕也は車に乗り込み、背もたれに身体を預けた。
車内には暖房が効いており、冷えた頬がじんわり温まっていく。
「さみーよな。まだ十一月だってのによ」
大河は運転席に戻り、ルームミラー越しに答えた。
「さっき、雪がちらついてましたよ」
「雪?もうかよ」
「ええ。すぐやみましたけどね」
「だからか。道理で寒いわけだな」
裕也は窓の外へ目を向けた。
車はゆっくりと走り出す。
街路樹の葉はほとんど落ち、歩道の隅に吹き寄せられていた。
やがて中華街が近づくと、通りの雰囲気が一変した。
赤や金色の看板が立ち並び、店先からは湯気が立ち上っている。
観光客の笑い声。
客を呼び込む店員の声。
料理の香ばしい匂いまで、車内に入り込んできそうな賑わいだった。
「相変わらず人が多いなぁ」
裕也は窓の外を眺めながら呟いた。