虚無に咲く華


「ほら、行くぞ」

女は立とうとしたが、足にうまく力が入らない。

裕也は眉を寄せる。

「ったく……」

片腕を背中へ、もう片方を膝の下へ回した。

「よっと!」

軽く抱き上げると、女の身体がふわりと浮いた。

「……軽っ!」

裕也は思わず女の顔を見た。

「お前、ちゃんと飯食ってんのか?」

女は黙ったまま、裕也のシャツを指先でつかんだ。

「まあいい。帰ったら食わせてやるよ」

路地を抜けると、表通りの明かりが二人を照らした。

すぐ近くに黒塗りの車が停まっている。

大河が後部座席の扉を開けた。

「兄貴、お待たせしました……って、えっ?」

裕也の腕の中にいる女を見て、目を丸くする。

「……どちらさんです?」

「猫」

「……は?」

「拾った」

「いや、兄貴。猫って……人間じゃないですか!」

「見りゃ分かるだろ」

「だったら猫って言わないでくださいよ!」

裕也は笑いながら、女を後部座席へそっと座らせた。

「いいから、ちょっと待ってろ」

そう言って自分も乗り込もうとした、そのときだった。

「……あれ?裕也さん?」

背後から男の声がした。
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