木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「とてもいいですよ。桜も満開で……少し、暑いくらい」
そう答えてから、楓は少し後悔する。
暑いなんて言ったら、かなたが心配するかもしれない。
けれど、かなたは、
「同じですね」
と、言っただけだった。
楓はほっとした。
「桜を見ると、初めて楓さんの声を聞いた日のことを思い出しますね」
かなたが続けた。
「そう、ですね」
「楓さんは僕のことを『妖精さん』と呼んでいましたね」
かなたは、懐かしむような声で言った。
「か、かなたさん!それはもう、言わないでください……」
楓がそう言うと、かなたが声に出して笑った。気持ちの良い笑い声だった。
「すみません。でも僕は楓さんのほうがずっと『妖精』らしいと思いました。とても可愛い声でしたし」
「可愛いって、そんな……」
楓はまた頬が熱くなる。
かなたは時々、こんなことをさらりと言いのける。
「楓さんも、もちろん僕も、妖精ではなく人間です。
でも僕たちは、それぞれ違う時代を生きているんですよね」
かなたは、感慨深そうに言った。
そう。
楓は二十一世紀、令和の時代を生きている。
しかし、かなたは二十世紀、大正時代を生きている。
どういうわけか、この古くて大きな木が、令和と大正という二つの時代をつないでいるのだ。