木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
そんな楓が、自分のやりたいことを話してくれたことが、両親には嬉しかったそうだ。
残念ながら、祖母の介護のため引っ越すことになり、音楽教室を辞めざるを得なくなった。
楓は祖母が好きだ。
確かに、教室を辞めないといけないのは残念だったけど、祖母のそばにいることのほうが、楓にとって大事だった。
それ以来、楓は一人でヴァイオリンの練習を続けていた。
桜の咲く林を、奥へと進んでいく。
(やっぱり、この林の桜はきれい)
つい、小さく鼻歌を歌ってしまった。
たしか、林のかなり奥まで進んだところに、あの木があったはずだ。
どんどん奥へと進んでいくと、やがて、幼い頃に見た、あの大きな木が姿を現した。
(よかった。まだあった。)
楓は、ほっと胸を撫で下ろした。
幼い頃の記憶にあるよりも、ずっと大きな木だった。
ほかの木よりも背が高く、焦茶色の幹は太い。楓が三人で手をつないでも、幹を一周することはできそうになかった。木にはところどころに、緑の苔が生えている。
木を見上げると、太い枝も細い枝も複雑に交差し、桜の花が、枝の隙間から見える空を覆い隠すように咲き誇っていた。
(なんだか今にでも動き出しそう……)
ちょっぴり空想好きな楓は思ったのだった。