文化祭の日、恋をした

文化祭の日、恋をした

 今年の文化祭は劇だ。
 新しいクラスになり、もうすっかり馴染んだ頃に文化祭はやってくる。
 高校に入学してすぐは、クラス一丸のなって展示発表をした。あれは友達が少ない私が、話せる子をたくさん作れたすごく良い機会だった。
 だから今年も一人ぐらい、話したことのない子と仲良くなりたいものだ。

 今年の劇の内容はシンデレラだ。と言っても、原作と全く同じではなく少し内容が変えている。というのも私が脚本を担当したのだ。
 私は小さい頃から物語を描くことが好きで、高校に入学してからは、本格的に書き始めていた。私はどうしてもやりたいと思い、四月の委員決めの時に、文化委員に立候補したのだ。
 最初にクラスでやりたい劇の内容を決め、それを元に脚本にしたのだ。最近はほとんどAIばかりで、他の誰かがAIを使って、それを劇にするのは避けられたようだ。
「あんたなんて一緒掃除してれば良いのよ!」
 私は脚本と衣装係も担当しており、今は衣装を作っていた。
 監督は同じ文化委員の他のメンバーに任せており、私は基本衣装作りに専念している。
「はい。…ごめんなさい」
 意地悪なお母さん役とシンデレラ役の二人の声が聞こえる。クラスの中心にいる二人だ。声も大きく、顔も可愛くて、オシャレだ。だからこそ前に立っても何も言われない存在だ。羨ましい。シンデレラ役なんて私の方がピッタリなのかも知れない。
 そんなことを考えていると、クラスメイトに荷物を運ぶ手伝いをして、と言われて私は廊下を歩いていた。
 他のクラスもそれぞれワイワイ楽しそうにやっているみたいだ。
 私が持っているのは、段ボールで作られて結構重い荷物。果たしてこれは女子に持たせる荷物であっているのか。
「大丈夫?手伝うよ」
 何人かすれ違ったにも関わらず、一人だけが私を助けてくれた。…王子様役の透真くん。優しくてまっすぐで、透明なガラスの靴の持ち主を見つけ出してくれる。
 彼は私の持っていた荷物をそっと持ってくれた。
「ごめん。ありがとう」
 私はキラキラ輝く透真君と目を合わせられなくて、俯きながら答えた。
「いえいえ。こんな重たいもの詩ちゃん一人に持たせられ訳ないじゃん」
 うたちゃん、私の名前知ってくれてたんだ。
 彼はそのまま舞台発表をするホールに荷物を移動させてくれた。
「荷物運んでくれてありがとう。王子様役、頑張ってね」
 彼にそれだけを伝えて、ホールでの練習がある彼と別れて、教室に戻った。

「…ってことがあってさー」
 私は親友の莉子に、荷物を持ってくれた話をしていた。
 トイレに行くために教室を出て階段を降りていた。
「王子様と話したのかーついに詩も恋したのかー」
「なんでそうなるのよー大体私なんかが恋いしたって叶う訳ないのに」
「そんなことないって、その可愛いお顔と優しい性格なら大丈夫に決まってるじゃん」
「だったら私はお姫様役してたよ〜」
 下から噂の彼が走ってきた。左に寄ると彼も左に寄る、右に寄ると彼も右に寄る。え、と戸惑っているとぶつかった。
 そんな時下から噂の彼が走ってきた。
 ぶつかったら危ないと思い、私が咄嗟に左に寄ると、彼もなぜか同じ左に寄る。
 焦って今度は右に寄ると、息を合わせるように彼も右に寄ってしまった。
 お互いに右へ左へとシンクロしてしまう、やばいぶつかる。
 避ける間も、スピードを落とす猶予もない。
 私は透真君に抱きしめられるように受け止められた。体の真ん中からバクバクと鼓動が早くなるのを感じる。
「ごめん、大丈夫?怪我ない?」
 …距離が近い。誰かに見られたらやばいって。
「うん、こちらこそごめん」
 お互いに謝罪し合って、じゃあと言って別れた。
「詩、やばいね」
 透真君がどこかに行ったことを確認した後に、莉子は興奮して言った。
「まじで焦った」
「運命すぎる恋か。いいなぁ」
 ドラマで親友役が言いそうなセリフだ。…少しだけ実際ドラマみたいなこと起きてることに私は驚いている。

「衣装作るの上手だね」
 教室では机を全て前に移動して、後ろに広い空間を作ってそこでみんな練習している。小道具や私みたいな衣装担当は前の方でひっそりと作業をしている。
 透真君が演じる王子様役の衣装を縫っている時に、彼が来たのだ。
「ほんとに?ありがとう」
「なんか詩ちゃんは必要不可欠の存在だよね」
 え?、と私は気の抜けた声をこぼした。
「衣装がないとまず何も始まらないし、脚本も詩ちゃんでしょ?AIじゃなくて時間をかけて作ってくれた作品だしさ」
 AIじゃないって、気づいてくれたんだ。お世辞でも嬉しい。
「ありがとう、そんな風に言ってくれて」
「ありがとうはこっちのセリフだよ。ありがとう」
 彼の整った顔を見て、私はやっぱり緊張する。こんな近くで見る日が来るとは。
「じゃあ俺練習行くわ」
 そしてまた練習に彼は戻った。なぜかわかんないけど、その後彼から私は目が離せなかった。

 次の日も、次の日も、文化祭前日まで彼は毎日私に話しかけてくれた。
「今日の髪型いつもと違うね。めっちゃ似合ってる」
「最近流行りのあの曲聴いた?サビが好きなんだよね」
「文化祭、楽しみにしてる所ある?」
「今日の数学の授業、なんか先生機嫌悪かったよね」
「週末何した?聞いてないと思うけど、ちなみに俺は映画行った」
 私はただ彼がみんなと話しているだけなんだと思う。でも無理だと分かっているけど、彼が私のものになれば良いのにと思った。心の中では秘密にしていたけど、彼の明るさにいつの間にか惹かれていた。

 文化祭一日目。この日は丸一日ホールにいるだけの日だ。私たちの学年の舞台発表や、演劇部や音楽部などが出る日だ。夕方には練習みたいな形で高三の屋台が出るらしい。うちの学校ではその時に好きな人を誘って、次の日必ず回る約束をするのがなぜか慣習になっている。
 私たちのクラスの劇は二番目で、もうすぐ順番が回ってくる。出演する訳でもないのに、なぜか緊張する。
 放送委員の人から指示が入って、私たちのスタートが近づいた。
「透真君、頑張ってね」
 隣を通った王子様に、私は声をかけた。緊張はやっぱりする。
「うん。ありがとう」
 彼は優しく微笑んだ。
 そのまま幕が引き、物語が始まった。
「昔々、ある所に一人の女の子がいました」
 スポットライトがついて、舞台の真ん中の一人を照らす。シンデレラ役の梨沙ちゃん。
「彼女は新しいお母さんの元で暮らしていますが、決して幸せではありません」
「だから彼女は決めました。…こんな生活を変えたいと」
 自分の書いた文章。なのに違う気がした。最初のプロローグを読む放送部のクラスメイト。聞きやすくて物語がサッと頭の中に入ってくる。
 その後暗くなった後、登場人物が増えた。シンデレラとお母さんと姉二人。
「あんたなんて一緒掃除してれば良いのよ!」
「はい。…ごめんなさい」
「なに?聞こえないんだけど。はっきり話せないの?」
「その通りよ。ごちゃごちゃ言われると腹が立つの」
「だからあんたは一生ざ・つ・よ・う、雑用係」
 あーはっはっは、意地悪な三人はそう笑って、舞台袖にはけていく。それと入れ替わりにネズミ二匹が入って来た。
「彼女にはみんなにはない、動物たちと話せる特別な能力があったのです」
 ナレーションが入る。
「今日もあんな風に言われて悔しくないの?」男の子のネズミが言った。
「悔しいわ。でも私は何も言えないから」
「じゃああなたが変わるべきよ」女の子のネズミも言った。
「そうね、どうすれば変われるかしら」
「私に良い方法があるの」
 女の子のネズミは、魔法使いのおばあさんに出会える方法をシンデレラに教えた。
「なぜ君はシンデレラって呼ばれてるのさ」
 今度は男の子のネズミがシンデレラに聞いた。
「シンデレラってのは灰かぶりって意味があるの。つまり私は汚い女の子って訳よ」
「じゃあ君がもし王子様と結婚すれば、シンデレラの意味は灰かぶりじゃなくなるんじゃないか」
「それよ、それ!」
 女の子のネズミは声を上げた。
「シンデレラ。あなたが王子様と結婚してみるのよ。その汚い服は魔法使いに変えてもらって」
 かぼちゃを馬車に変えて、私たちを白くて綺麗な馬にしなさい、と続けた。
「ええ、良いアイデアをありがとう。今夜早速決行ね。なんてったって今日は舞踏会なのだから」
 そして二人のネズミは舞台袖にはけ、また意地悪な三人がやって来た。
「今日は舞踏会ね」
「もちろんあなたは行けない」
「家で皿洗いよ」
 あーはっはっは、意地悪な三人はまた笑った。
 シンデレラは何も返さず、ただ皿洗いを続きた。
 そこで暗転した。その後、家に三人を迎えに来た人が登場して、三人はお城へと行った。
 本当ならここで一人泣いている時に、魔法使いはやってくる。でもこの物語はそうじゃない。
 シンデレラはネズミと家を抜け出して、ネズミに教えてもらって魔法使いのいる暗い森の中に入った。
「あらこんにちは。どうしたの?あなたすごく悲しそうな顔をしているわ」
 一度暗転した後に、魔法使いが現れる。
「実は自分を変えたいの。だからお願い。私を舞踏会に行かせて」
「あなたには強い想いがある。ならばあなたを舞踏会に行かせてあげよう」
 ただし、と口調を強めた。
「この魔法は夜の十二時に解けるの。だからそれまでに帰って来なさい」
「わかったわ」
 暗転をまたして、魔法をかけるBGMが流れる。そこでガラスの靴に衣装の役のシンデレラが代わりに入ってくる。確かこのガラスの靴高かって言ってたような。
 かぼちゃの馬車が後ろに壁に映り、ネズミ役の二人は馬役の二人に変わっていた。そして新たに運転手も増えていた。
「さあお行き」
「ええ、ありがとう」
 シンデレラはそこで色々な景色を見た。家に閉じ込められていた分、小さなことでさえ感動した。
 そのままかぼちゃの馬車はお城に到着し、シンデレラは初めての場所に恐る恐る入った。
 そこで一人立っていると王子様に声をかけられて二人はダンスを始めた。意地悪な三人はどこかで見たことあるわね、と彼女を見る。
 二人は大広間を出て、長い廊下を二人で踊る。この部分は舞台から降りて、客席の間を通る。その間舞台では新たなセットを準備していた。
「君の顔はすごく美しい。だけど悲しそうだ。何があったのか話してくれないか」
 客席から舞台に戻った二人は王子様の部屋で会話を始めた。
「詳しくは言えない。ただ私は自分を変えたいの。いや、…私はどこか遠くへ行きたいの」
 シンデレラは力強く言った。
「そうか。なら君に着いて行かせてくれ」
「ダメよ。あなたはここにいないと」
「昔はずっとここにいるつもりだった。でも君に一目惚れしてしまったんだ」
 シンデレラは時間を確認した。もう十二時が近づいていた。
「もう魔法が解けるの。私はもう行くわ」
 シンデレラは走り出した。そしてまた客席の間を通る。またまた舞台では次の準備をしていた。
「着いてこないで」
「僕はなんと言われても君に着いていくさ」
 そこで二人は舞台袖に行き、クラスで一番頑張ったお城の階段の一番上に現れ、それと同時に十二時を知らせる鐘が鳴った。
 シンデレラは片方のガラスの靴だけを落として、舞台は暗くなった。
「シンデレラの片方のガラスの靴だけは魔法が解けず、王子様がいなくなった今でも大切に飾られています。今の二人はというと」
 ナレーションが途中で止まり、暗かった舞台が明るくなる。そこにはたくさんの動物に囲まれた王子様とシンデレラがいた。後ろには木でできた小さな小屋もある。
「シンデレラは神様からもらった特別な能力で、動物たちと仲良くなり、一緒にお家を作りました。そして王子様と暮らしています」
「プリンセス。今日も君は輝いているよ」
「王子様ありがとう。あなたもよ」
「どうやらとっても仲良しでラブラブなようです」
「自分を変えるために逃げることも大切なのです。これは私たちのクラスが作る新しいシンデレラです」
 ナレーションが物語を終わるへと導く。
「ありがとうございました」
 シンデレラ?プリンセス?が演技を終えて言った。その後にクラスみんなが出てきて、全員でありがとうございましたと言う。
 私は放送室からみんなを見ていた。
 みんながこれまで真剣に取り組んだからこそ、舞台はすごく良かったと思う。自然と涙が出てしまった。
「詩、素晴らしい脚本と衣装、ありがとう」
 横にいた莉子が私の肩に腕を回す。この放送室に私たちだけで良かったなと思う。こんなカッコ悪い姿誰にも見せられない。特に…王子様には絶対に。

 お昼休憩。教室に戻ってお弁当を食べる。こんな日だからって何も張り切ってこなかった自分を少し後悔する。いつもと変わらなさすぎる。
「ねえねえ透真君」
 魔法がかかった時のシンデレラ役の子が、王子様に話しかけた。すごく顔を赤ていて、なんだか嫌な予感がした。
「もし良かったら今日の放課後の屋台、一緒に回らない?」
 私はまるで見てはいけない物を見るように、体の温度が一気に下がった気がした。
「うん、いいよ」
 あぁそっか、私は動揺をなんとか隠しながら、平然とお弁当を食べる。
 一緒に食べてる莉子も同じく驚いているみたいだ。まだ王子様を好きなことは話してなくて良かったと思った。大体私が王子様なんかをって図々しすぎるから言える訳ないし。
 そうやって自分を誤魔化そうとするけど、やっぱりちょっと厳しい。
 そのまま複雑な気持ちで一日目の屋台を周り、次の日を迎えた。昨日の記憶がぼんやりしている。そこでやっと分かった。…これが失恋ってことに。

 朝の点呼が終わって、早速展示と屋台を見る一日が始まった。
 私は莉子と一つ目の展示を見た後、廊下を歩いていた。去年あそこが楽しかったとか、壊したけどバレなかったとか、思い出が蘇ってくる。
 反対側からオーラを感じた。知ってるこれは透真君だって。
 今日は男子友達と回ってるんだ。周りに女の子がいないことに私は少し驚く。
 目と目が自然と合った。その時、彼は私の元に歩いて来た。
「詩ちゃん、一緒に回らない?」
 ・・・、私の頭の中は点で埋め尽くされた。
 ただただ無意識に、はい、と俯きながら言った。
 莉子は気を遣ってくれたのか、たまたま近くを歩いていた友達の方へ行った。去る時に、口パクで“おめでとう”と言ってくれた。莉子、いいやつだ。
「じゃあ行こっか」
 私は透真君と昨日の文化祭の話で盛り上がりながら歩く。不思議なことに私は王子様と呼ばなくなっていた。
「ね、手繋いでいい?」
 お化け屋敷の入り口で、彼ははにかみながら言った。私は手を差し出す。何これどういう状態な訳。てかこれただの高校の文化祭。手を繋ぐほどか?、初めての感情だらけだ。
「はい、あーん」
 私はカステラを透真君に入れてもらう。これ思い返せるかな、今年の文化祭。思い返すたびに気絶しない?逆に将来の私からすればこんなこと普通になってる?いや逆にドラマ見たいて普通に思い返せるかな。
 そんな一日はすぐ終わりに近づいていて、二日間の締めが終わり、後夜祭に行くかを透真君に聞かれて迷っていると、じゃあ二人で誰もいない校庭にいようと提案される。私もそれがいい。
「両片想いが一番楽しいって聞いたことある?」
「もちろん」
 SNSで見たかクラスで話しているのを聞いたか。
「だから俺はその言葉を信じようと思ってさ」
「私も信じていいと思う」
 でも、と私は続けた。
「いつか大切な時にちゃんと想い伝えたらいいんと思う」
 私たちこそがこの関係なんだろう。一度は諦めかけたこの恋。本当は失敗なんかしてなかった。
「それが一番だね。あ、月が見えてきた」
「ほんと?」
 私は彼に肩を寄せて、手を繋いだ。学校でこんなことしてるの私たちだけだよね。
「あーやっぱり言いたいな」
「小さな声なら大丈夫かもよ」
「確かに、それだ」
 彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。私も自然とそんな顔をしている気がする。
 彼は私の耳元で小さく囁いた。私も彼の耳元で囁いた。
 何十億も生きている、月先輩が私たちを優しく見守る。文化祭が生んだ詩と透真の恋の物語、新しく描いてみようかな。
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