君の本音だけ、聞こえない。

Episode1 私の幼馴染は、可愛げがない。

「こはる、起きろ」

「…………」

「おい、こはる」

「……あと五分」

「それ、さっきも聞いた」

聞き慣れた声が、頭の上から降ってくる。

せっかく気持ちよく寝ていたのに。

私は布団を頭まで引っ張り上げた。

「……うるさい」

「七時四十分」

「…………」

「あと二十分で家出るけど」

「…………え?」

七時、四十分?

その言葉が頭の中でゆっくり変換されて。

「ええええっ!?」

勢いよく飛び起きた。

――ゴンッ!

「いったぁ!!」

ベッドの横に置いてあった棚に、思いっきり頭をぶつけた。

痛い。ものすごく痛い。

「……朝から何してんの、お前」

呆れた声が聞こえる。

涙目になりながら顔を上げると、そこには制服姿の男の子が立っていた。

黒に近い茶色の髪。
少し長めの前髪から覗く、切れ長の目。
顔だけ見れば、まあ、かっこいい。

……顔だけは。

「朔! 勝手に部屋入らないでよ!」

「おばさんに起こしてこいって言われた」

「だからって!」

「六回起こしたけど」

「……六回?」

「全部無視された」

「…………」

何も言い返せない。

この可愛げのない男の名前は、瀬戸朔。
私、花宮こはるの幼馴染だ。

生まれた頃からずっと一緒で、幼稚園も小学校も中学校も、そして高校まで同じ。

つまり、十七年間の腐れ縁。

「ほら、早く準備しろよ」

「わかってるってば!」

「どうだか」

そう言って、朔は部屋を出ていった。

……ほんっとに!
昔はもっと優しかったのに。

私は枕を抱きしめ、閉まったドアを睨みつけた。

「……ばーか」

もちろん、本人には聞こえないくらい小さな声で。


だって。
聞こえたら絶対、十倍になって返ってくるんだから。
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