どて山くんとフツ田くん
どて山くんとフツ田くん

どて山(どてやま)くんとフツ田(ふつだ)くんは仲が良い。
毎日二人で話してる。
いつもなんだか楽しそう。

二人で話すことが、よっぽど楽しいんだろうな。
そう思っていると──

フツ田「あ、真中(まなか)さん!この前教えてくれた──」
どて山「新作のお菓子な。俺たちも食べてみたよ。」
──急に話しかけられるんだ。
わたし「食べたんだ?……美味しかったでしょ?」
フツ田くんは目をつむり両手を握る。
フツ田「……もう最っ高!もちもちの食感で、チョコの甘さが絶妙だし!」
どて山くんはフツ田くんを指さす。
どて山「俺も!ちょうどそれ言おうとしてた!」
フツ田くんはどて山くんをちらりと見る。
フツ田「……俺の感想、横取りしないでよ。」
どて山「あははっ。……それでさ、真中さん──」
──こんな感じ。
他の人が会話に入るのは、嫌じゃないみたい。

どて山くんとフツ田くんは、特別目立つわけじゃない。
目立つのは運動部の子たち。
いつもにぎやかにはしゃいでる。
二人は、そういう会話には加わらない。
けれど、クラスで何かを決める時とかは、さりげなく発言する。
気を配った意見を言うとか、嫌な役割を買って出るとか……。

中学三年生の三月。
卒業式の予行演習が早く終わって、ぽっかりと空いた時間。
とくに授業もなかったから、自習になったんだ。
わたしは窓の外をぼんやりと眺めてた。
空はきれいに晴れている。
北の山々がよく見える。
校舎の向こうには畑が広がる。
鳥が畑の上をゆっくりと飛んでいる。

クラスの中に目を移す。
みんな、席から離れてあっちへ行ったりこっちへ来たり。
卒業する前に、だれかと何かを話したいのかそわそわしてる。
わたしの席は教室の中央あたり。
どて山くんとフツ田くんは、窓際の前のほうで話してる。
今日も二人は楽しそう。

どて山「じゃあさ、『温泉太郎』で一番強いのは?」
フツ田くんは顎に手を当てる。
フツ田「ん〜……イカッホー隊長かなあ?クールでかっこいいし!」
どて山くんが片手を顔の前で左右に振る。
どて山「いやいや~!やっぱり温泉太郎だって!」
どて山くんは胸の前で両手を妙な形に交差させる。
どて山「くらえ!熱湯ビーム!」

わたしの近くでは、上武士(かみたけし)くんたちが二人を見てる。
上武士くんは、野球部引退後に伸ばした髪をしきりにさわる。
それに、他の人の机の上にどっかりと座る。
わたしは、こういう人が少し苦手。

上武士「……どて山とフツ田、また遊んでる。」
中島(なかじま)さんは、上武士くんの視線の先を追う。
中島「あれ、なんの真似なんだろう?」
三ツ木(みつぎ)くんは、あきれるようにつぶやく。
三ツ木「子どもかよ。もう卒業なのにな〜。」
そんな時、後ろの席から米岡(よねおか)さんがぽつりと言ったんだ。
米岡「……でもさ、あの二人って、なんか良いよね。」
上武士くんは、米岡さんの言葉にびっくりしたみたい。
上武士「……えっ!?米岡さんって、ああいうのが好きなわけ?」
米岡さんは、少し困ったように笑う。
米岡「……『好きなわけ?』って……。」
上武士くんは、どて山くんたちが褒められてるみたいで面白くなさそう。
机から下ろした脚を大きく揺らしてる。
無理もないかな。米岡さんって男子から人気あるし。
米岡さんは、上武士くんたちを見回す。
首を少し傾げて笑みを浮かべる。
米岡「……どうしよう。もう卒業だし、話しちゃおうかな……。」
みんなは、不思議そうな顔で米岡さんを見る。
わたしは、気になって米岡さんのほうへ身を乗り出す。
わたし「ねえ、その話って──」
どて山くんたちをちらりと見る。
わたし「──あの二人に関係あること?」
米岡さんが、きょとんとした顔でわたしを見る。
米岡「ふふっ……真中さんがそんなに聞きたいなんて、意外。」
わたし「……あ。ごめんね。」
米岡さんは優しく笑う。
米岡「ううん。大丈夫。」
上武士くんはわたしに目をやって、米岡さんに少し顔を近づける。
上武士「……で、なに?あの二人のどっちかから告白されたとか?」
中島さんと三ツ木くんは黙ってる。

米岡さんは、楽しそうに話すどて山くんたちを見る。
米岡「……わたし、去年ね、部活に行けない時期があったんだ。」
中島「……そんなことがあったの?」
米岡さんは、中島さんを見る。
米岡「うん。部のみんなと上手くいかなくて……。」
三ツ木くんは、腕を組んでうなずく。
三ツ木「……そういう時って、どうしたらいいかわからなくなるよね……。」
米岡さんは三ツ木くんを見る。
米岡「それでさ、部活をサボっちゃった。もうどうでもいいやって……。」
わたしはうなずく。
米岡「そんな時期、帰る準備をしてたら──」
米岡さんは、上を向く。
米岡「フツ田くんに『部活頑張ってね。』って言われたんだよね。すごくサラッと。」
笑みを浮かべる。
米岡「それまで、話したことなんてないのに……なんで急に?って。」
わたし「……フツ田くんらしいかも。」
上武士くんは眉をひそめる。
上武士「それで、フツ田と仲良くなったの?」
米岡「……ううん。わたし、黙ってうつむいちゃった。」

離れたところで、どて山くんたちはまだ話してる。
フツ田「湯畑(ゆばたけ)~チョップ!」
どて山くんは、得意げな顔で胸の前で両手の人差し指と親指を合わせる。
どて山「……でも俺、バリアー張ってるからダメージなし!」
フツ田「ああ〜っ!しまった〜っ!」

米岡「……そしたらさ、どて山くんが飛んできて……ふふっ。」
警笛を吹く真似をして、正面を指さす。
米岡「『ピピーッ!はい、フツ田、米岡さんを泣かせました~!米岡さん!こいつに処分を!』とか言って……。」
中島さんは笑う。
中島「……ふふっ。何それ。」
米岡さんも笑う。
米岡「……ね。フツ田くんも慌てちゃってたから……なんだかおかしくて。」
上武士くんは、唇を尖らせる。
上武士「……いや、結局なんの話だよ。」
米岡さんは上武士くんに微笑む。
米岡「……ごめんごめん。それでさ、悩んでることを二人に話したんだ。」
わたし「……そうなんだ……。」
米岡さんはわたしを見てうなずく。
米岡「そう。それから一週間くらいかな。二人と話したり一緒に帰ったりした。」
三ツ木くんは目を丸くする。
三ツ木「マジで?米岡さんが……?」
米岡さんは肩を震わせて自分を指さす。
米岡「ふふっ……なに?わたしが?って。」
中島さんが三ツ木くんに向けて少し笑う。
中島「米岡さんが男子といるって……なんか意外なんだよね。」
米岡「……ふふっ。とにかく、二人は深く事情は聞いてこなかった。ただ、そばにいてくれた。」
わたしは米岡さんを見つめてうなずく。
米岡さんはわたしをじっと見つめ返す。
米岡「それでね……わたしは、フツ田くんのことが気になったんだ。」
少しうつむいて、髪を耳にかける。
米岡「とっても優しくて素直。わたしがあまり話してこなかったタイプ。」
上武士くんは身を乗り出す。
上武士「……それで?その後は!?」
米岡さんは、上武士くんを見て小さく首を振る。
米岡「……何もなかったよ。」
三ツ木くんは顎に手を当てる。
三ツ木「フツ田、そんなふうに思ってもらえて、きっと嬉しかったと思うよ?」
米岡さんに向けて、少し微笑む。
三ツ木「……伝えてみてもよかったんじゃない?」
米岡さんは三ツ木くんを見て、指を一本立てる。
米岡「一度だけね、少し頑張ってみたんだ。」
指を下ろし、わたしたちを見回す。
米岡「わたしが『三人で写真撮ろう』って言った時があって……。その時に、思い切ってフツ田くんの腕に手を回してみたの。」
うつむいて小さく首を振る。
米岡「……そしたら、フツ田くんは優しく笑っただけだった。」
そして、わたしに顔を近づけて笑う。
米岡「……失礼だと思わない?」
大きな瞳に、思わず見入ってしまう。
米岡「わたし、自信がないわけじゃなかったんだけど……。」
わたしは、小刻みにうなずく。
中島さんはわたしにちらりと目をやり、米岡さんに笑いかける。
中島「ふふっ、米岡さんにそんなことされたらさ、男子はみんなテンション上がっちゃうよね。」
上武士くんもうなずいてる。
米岡さんはフツ田くんたちをちらりと見る。
米岡「それで、『……ああ、無理だな。』って思ったんだよね。」
わたしもフツ田くんたちに目をやって、米岡さんを見る。
わたし「……でも、楽しい時間だったんだよね?」
米岡さんは大きくうなずく。
米岡「とっても。その後、気分も変わって部活に復帰できたんだ。」
晴れやかな顔でみんなを見る。
米岡「最後の大会もみんなで頑張れた。悔いはないよ。」
上武士くんは、米岡さんから笑いかけられて少し照れてるみたい。
わたしたちは、少し笑ってうなずく。
米岡さんは笑顔でつぶやく。
米岡「……よし。やっぱり行こう!」
わたし「……?」
米岡さんは席を立って、フツ田くんたちのところへ歩く。
わたしたちは米岡さんの背中を見送る。

フツ田くんが振り向く。
フツ田「……あ〜っ!米岡さん!ちょうどよかった!」
どて山くんは、米岡さんを見ながら自分とフツ田くんを交互に指さす。
どて山「今さ、白熱した議論を繰り広げてたんだよ!」
米岡さんは口元を覆って笑う。
米岡「ふふっ……何の議論?」
フツ田くんは両手を広げる。
フツ田「『温泉太郎』でさ、一番強いのは誰か?って議論!」
どて山くんは米岡さんを指さす。
どて山「やっぱり、主人公の温泉太郎だよなっ!?」
米岡さんは顎に指を当てる。
米岡「……そうだね……。」
二人に笑顔を向ける。
米岡「ミナカ将軍かな。きれいでかっこいいし。女性として憧れる。」
フツ田くんは笑顔で米岡さんを指さす。
フツ田「あーっ!そうだ!去年言ってたね!」
どて山くんは頭を抱える。
どて山「全員一票ずつだーっ!決まらねえ!」
米岡さんは、ふふっと笑う。
二人を交互に見る。
米岡「……ね、卒業式が終わったら、また三人で写真を撮ってくれる?」
フツ田くんは親指を立てる。
どて山くんは笑顔で強くうなずく。
米岡さんは小さく飛び跳ねる。
米岡「やった〜!」
フツ田「……そんなに嬉しいの?」
米岡さんは、フツ田くんに何度も強くうなずく。
どて山くんは、フツ田くんと米岡さんを見て笑みを浮かべる。
米岡さんはフツ田くんとどて山くんに向けて、両手を妙な形で交差させる。

卒業式当日。
約束どおり、米岡さんは二人と写真を撮った。
周りのみんなは、米岡さんと二人の組み合わせに少し驚いてたみたい。
わたし「はい、チーズ。」
米岡さんは、真ん中で二人の腕にそっと手を回す。
どて山くんはピースをする。
フツ田くんは優しく笑う。
わたし「ふふっ、撮れたよ。」
米岡さんはわたしに片手を差し出す。
米岡「真中さんも撮ってあげる。」
わたし「……え?わたしは……。」
二人のほうをちらりと見る。
フツ田くんが手招きをする。
フツ田「真中さん!早く撮ろう!」
どて山くんは、フツ田くんとの間のスペースを両手で示す。
人気のお笑い芸人さんの口調を真似する。
どて山「俺たちのここ、空いてますよ!」
米岡さんが、二人を見て笑う。
小さくつぶやく。
米岡「……真中さんは、良いなあ。」
わたし「……?」
米岡さんは、わたしを見て首を振る。
米岡「なんでもない。はい、撮るよ~!」
二人の間に立つと、フツ田くんがわたしを見る。
フツ田「──真中さんも泉崎高校なんだよね?」
わたし「……え?うん。そうだよ。」
どて山くんは、自分とフツ田くんを指さす。
どて山「俺たちも!また三年間よろしくっ!」
わたしは、二人の顔を交互に見る。
わたし「……。」
二人は、わたしに笑顔を向ける。
わたし「……こちらこそ。」

どて山くんとフツ田くんは仲が良い。
いつでもなんだか楽しそう。
これからもこの二人を見られるって、嬉しいことなのかも。
米岡さんが、わたしたちに向けてスマホを構える。
米岡「……ふふっ、真中さん、良い笑顔だね!」
わたし「……え?そうかな……?」
どて山くんとフツ田くんがわたしを見て笑う。
米岡「はい、チーズ!」
米岡さんの声が響く。
空がきれいに晴れている。
北の山々が遠くに連なる。
鳥が、翼を広げて高く飛ぶ。
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