未来に続く物語
 市街駅に続く大通りから曲がった中通り、路地裏にも見える人けも少ない場所。そこにはコインパーキングや雑居ビルが建ち並んでいる。その中に五階建てのビルがあって、上部に映画館があり、下部にはカラオケ屋と小さな映画館が併設されている。内部には映画館の事務所があるけれど、残りの場所は閉鎖されていた。

 私はそのビル内の映画館とカラオケ屋をシフト制で回り、働き出してから三年目を迎えていた。

 寂れた映画館に来る客はヒット作でしか訪れず、カラオケ店は休み時期でしか繁盛しない場所で、普段は然程することがなかった。それでも規定通りに給料は出て、上司は殆ど来ないし、陰湿な人も居なくて働き易さで毎日が満たされていた。

 今日はヒット作の上映初日で混雑を極め、帰る頃には身体の節々に疲れが溜まり、足取りも重かった。下部にある更衣室から抜け出し、小さな映画館を横目に出口へ歩いていると、ガラス製のドアから雨混じりの雪が降っている様子が見えた。

 傘は忘れてきたし、バス停までは距離がある。走って行くしかないかと決め、ドアを開けた瞬間だった。

 派手なブランド服で身を固めた女性が、手にした紙袋を正面に向かって思いきり投げつけた。

 そこには男性が立っていて、二人の様子から状況を察した。

 無造作な長めの黒髪、両耳にシルバーの小ぶりなフープピアス。眉間には深い皺が刻まれている。口元には髭が生えていて、顎髭まで繋がっている。その髭だけは綺麗に整えられていた。

 そのまま視線を下げれば、ライトブルーのデニムジャケットは襟や袖、前開きから裾までの部分が擦り切れていて、少し隠れた手元には煙草が挟まれていた。

 下は焦げ茶色のコーデュロイパンツを履き、足元は紺色に白い三本線が特徴的なスニーカーで、パンツの裾と足先が雨に濡れて滲んでいた。そして、二人の間には紙袋が形を変えて落ちていた。

 男女の揉め事を見るのは初めてではなくても、呆れて物が言えないとは今の状況を指すのだろうと思った。それと同時に、足止めされた原因の空模様を眺めていた。

 その時、女性が紙袋を手に取り、男性に向かって言った。

「いい加減にしてよね。マジで無駄足だったわ」

 女性はそう吐き捨て、街のほうへ身体を向けて歩いて行った。

 けれど、女性にしては肩幅が広いように見えるし、スカートから伸びた脚は脹ら脛が筋肉質なように感じた。

 すると、近くから軽く息を飛ばすような音が聞こえた。視線を移してみたら、男性と目が合い、男性は少し首を傾げ、すぐ戻して言った。

「知り合い?的な」

 そう聞いても、こちらには関係のないことで、ふと息を吐いてから返した。

「お疲れさまでした」
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