魔力が漏れる体の辺境令嬢は、前世の調合スキルと従兄の溺愛で生きていきます
第四章 兄たちの背中
リゼットの世界は狭かったが、狭い世界にも、違う方角を向いた窓がいくつかあった。
長兄アルベールの窓は、数字だった。
十歳のとき、リゼットは輸入物の珍しい香辛料の見本を欲しがった。値段は、子どもの小遣いの範疇を超えていた。アルベールは即座には断らなかった。代わりに言った。
「では、申請書を書きなさい。何に使い、何が分かり、いくら必要か。私を納得させられたら、出そう」
それは遊びの形をした、本気の訓練だった。査定の場は、兄の書斎だった。リゼットは侍女に代筆してもらった申請書を、兄の机の前に置いた。目的、試す調合、分量、失敗した場合の損失まで、自分なりに書いたつもりだった。
アルベールは最後まで読み、赤ペンを取った。
「ここ。『珍しい香辛料』では審査にならない。名前と産地を書きなさい。それから――失敗したときの損失は、自分のお小遣いから出すのかね」
「……出す、つもりでした」
「ならば、『成功したときの使い道』も要る。得た知識は、誰の役に立つ」
通されたのは、二つの書き直しと、一つの問いだった。三日かけて直した申請書に、アルベールは判を押した。「半額出す。残りは、結果を見てからだ」
申請ごっこの始まりは、もっと他愛ないものだった。食後の菓子の二つ目を、正式な申請書で求めたのである。理由欄には「今日の働きに見合うため」。アルベールは真顔で査定し、「働きの証拠が不足」と却下した。翌日、彼女は台所働きの証言書を添えて再申請し、見事に半分だけ認められた。兄は遊びの中で、証拠と手続きの重さを教えていたのだ。
廊下で、母が微笑んで待っていた。「ご苦労さま、小さな商家の主さん」
「願いはね、リゼット。計画の形にすると、叶えやすくなるんだ」
一度だけ、彼女はこの兄に本気で叱られたことがある。見本の余りを内緒で台所の臨時費に貸したのだ(貸した本人の頭の中では貸したつもりだった)。帳簿が合わないと、使用人が疑われかけた。
「金のことはね、たとえ善意でも、記録のない動きが一番人を傷つけるんだ」
幸い筋はすぐ通ったが、リゼットは泣きながら、散らかった伝票を全部集めて兄と一緒に照合した。申請と記録。その二つが、彼女の後の「合意」と「記録」への執着の、半分の出発点だった。
次兄レオンの窓は、外の風だった。
十二歳の年、レオンは騎士見習いとして初めての遠征に加わった。出発は夜明けで、冷え込む朝に彼女は門へ行けなかった。代わりに、温性の粉の小さな包みを、侍女に託した。三週間後、帰還したレオンは、傷だらけの笑顔で彼女の部屋に現れ、土産を置いた。山の樹脂の塊。松の匂いと、高い場所の風の匂いがした。
「お前の粉のおかげで、夜が越せた。礼だ」
その夜更け、リゼットはレオンの袖から、かすかな薬と血の匂いを嗅ぎ取った。笑顔の下に、浅くない傷があったのだ。
「兄様。……私に、隠していますね」
レオンは観念したように笑い、腕の包帯を見せた。「お互い様だ。お前も頭痛を隠す」
「これからは、言い合うことにしませんか。隠し合うのは、やめて」
「約束だ」
兄妹のこの約束は、後にレオンが遠征の報告を――良いことも悪いことも――真っ先に彼女へ手紙で送る習慣になった。
それ以来、レオンの土産はいつも「匂いのするもの」と決まった。行けない場所の匂いが、兄の手で部屋へ届く。
三兄ユリウスの窓は、本だった。
雨の日、図書館の隅で、ユリウスは古い植物図譜を読み聞かせた。遠い島の実、北の森の樹皮。挿絵はあっても、香りは本に載っていない。
「本には、名前と形しか残らないんだな」とユリウスは言った。「君の帳面は、香りを残す本だ。それは、たぶん新しい」
ユリウスはもう一つ、彼女に大事なものを教えた。植物標本の作り方だった。拾った葉を紙に挟み、重しをし、乾くまで待つ。乾燥すれば、香りは弱くなるが、形と名前は残る。
「記録はね、力が残してくれるものと、残してくれないものと、両方を残す方法を持つべきだ」
香りは残響が、形は標本が、数字は帳簿が。――彼女の「残す」技術は、こうして少しずつ揃っていった。何年も後に、故郷の香辛料の標本を年ごとに揃えて比べる発想は、この雨の日の授業から来ている。
別の雨の日、ユリウスは南の島々の旅行記を読んでくれた。暑い石に雨が打つ匂い、塩と果実の市場、夜にだけ開く花の香り。本の中の匂いの言葉は、驚くほど少なかった。
「匂いのことは、なぜ本に残らないんだろう」
「書く人が、鼻の言葉を持っていないからだね。……じゃあ君が、作るんだ」
何気ない一言だった。けれど、香りを言葉にして残すという仕事の輪郭は、この雨の日に生まれていた。
従兄ノエルの窓は、手の届く工夫だった。
彼は年少の頃から、彼女の周りの「不便」を黙って直した。車椅子の足置きの軋み。開けにくい薬瓶の蓋。壊れたオルゴールの代わりに作った、弦を弾くと香りの小瓶が回る小さな仕掛け。どれも派手ではなかったが、生活はその都度、少しだけ軽くなった。
「不便はね、我慢するものじゃなくて、設計を変えるものだ」
彼のこの考え方は、生涯の相棒である工夫の出発点だった。後の調合箱も、供給の装置も、巡環網の中継器も、源はこの従兄の窓だった。
従兄クロードの窓は、正直さだった。
その年の検診で、まだ医官見習いだった十八歳のクロードが、叔父の指導のもと、初めて彼女の脈を取った。彼女は数日前から、残響の読みすぎで頭痛が続いていたが、言っていなかった。面倒をかけたくなかったのだ。
クロードは脈を取り、記録を取り、それから静かに言った。
「頭痛を、隠しているでしょう」
「……なぜ」
「脈と、目の動きで。――患者が隠すと、医者は見誤ります。見誤ると、困るのは、あなたです」
子ども扱いも、過剰な心配もない、医官の言葉だった。リゼットは唇を噛み、それから小さく頷いた。言えば、心配される。けれど隠せば、もっと悪いことが起きる。その計算を、彼女はこの従兄の前で覚えた。
次の検診のとき、彼女は診察の最初に自分から言った。「三日前から、少し頭が重いです」――たったそれだけの報告がひどく勇気の要ることだったが、クロードは記録用紙に淡々と書き取り、「ありがとうございます、それが助かります」とだけ言った。褒めも、安堵の芝居もない。だから次も言えるのだ、と彼女は思った。
雪の夜、一度だけ、窓が全部開いたことがある。兄たちが三人とも屋敷にいて、ノエルとクロードも呼ばれ、彼女の部屋で他愛ない勝負事に興じた夜だ。リゼットは参加できない代わりに、出された茶の調合を当てる審判を買って出た。笑い声が廊下まで漏れて、母が「病室とは思えない」と笑い、父がそっと戸を閉めに来た。狭い世界の真ん中に、こんな夜もあったのだ。
四つの窓。お金の窓、外の窓、本の窓、正直さの窓。
病室の世界は狭いままだった。けれど、その窓の向こうを、彼女はずっと見ていた。