【ほぼ実話】40歳、推し活女子。アプリで出会った42歳男性と10代みたいな恋をする

プロローグ:枯れたサボテンと、40歳の冬

「別れよう? 15年間、ありがとう?」

3年前の冬の朝。
両親と同居するマンションのベッドの上で、パジャマ姿の私は寝顔のまま固まっていた。

画面に浮かぶたった一行のメッセージ。
文章の意味はわかっても、頭が理解を拒絶する。

15年。
15年も付き合ったのよ?

初めて男性に声をかけられ、初めて付き合って、彼一筋で生きてきた。

私の20代から30代までずっと、全部彼に捧げたのに……このたった一行で終わり!?

「嘘でしょ……? 私、もう37歳だよ……?」

すがる思いで掛けた電話は、「相手の事情により」という無機質なアナウンスで弾かれた。
一瞬で、思い描いていた未来が砕け散る。

彼が勝手に仕事を辞めてフリーターになった時だって、運命の人だと信じてついていったのに。

その糸が、朝起きたら切れていた。

「ともえ! いい加減起きなさい! 遅刻するわよ!」

ドア越しに響くお母さんの怒鳴り声。
その声に今の私は答えられない。

「私、今振られたの」
なんて口が裂けても言えない。

強がって普段通りを装い出社したものの、その日の仕事はミス連発。
嫌な上司に絞り上げられ、ボロボロになって帰宅した。

――そこから立ち直るのに、半年。

私は部屋のサボテンの横に座り込み、ひたすら元彼の愚痴を吐き捨て続けた。

「ねえサボちゃん、最低だと思わない……?」

だが、半年後。
青々と針を張っていたサボテンは、茶色く変色し、ぐでんと萎れて枯れ果てていた。

植物は人の心がわかるという。
私の放つ泥のような怨念に当てられ、ストレスで枯れてしまったのだ。

(……このままじゃ、私も枯れる!!)

朽ちたサボテンに未来の自分を重ねた私は、恐怖で跳ね起きた。

一人娘の私。
このままでは遠くない未来、誰にも気づかれず独居老人として朽ち果てる――!

「婚活しなきゃ!!」

翌日、意気揚々と駆け込んだ大手町の結婚相談所。
だが、待っていたのはホテルのように綺麗な一室と、目つきの鋭い担当者の冷酷な一言だった。

「正直、かなり厳しいです。ともえ様の年齢(37歳)は、多くの男性の『対象外』に設定されていますので」

突きつけられた現実は過酷だった。

入会金15万を払い、料理教室に通い、エステで肌を磨き、必死に努力した。
けれど、私のプロフィールが誰かの目に留まることは一度もなかった。

成果ゼロのまま1年が過ぎ、ぽっきりと心が折れて退会。
「ほら見たことか」と言いたげな担当者の顔を振り切るように、私はアイドルグループの「推し活」に逃げ込んだ。

苦労を重ねて輝く大人アイドルたちの泥臭いパフォーマンスは、傷ついた心にじわじわと染みた。
だけど――ライブハウスの熱気の中、高く跳躍する推しの紫を見上げた瞬間、ふと涙が溢れた。

(……私、推しに逃げてるだけだ)
(何も諦めないで必死に努力してる推しに比べて、私は何ひとつ頑張ってない)

もう一度、あがこう。
自分の幸せを、誰かに任せるんじゃなくて自分自身で掴みに行くんだ。

ライブ会場の隅で、私は震える指でマッチングアプリをダウンロードした。
勢いに任せて「いいね!」を押し送る。もう恥も外聞もない。

◇

――そして、さらに年月が流れた今日。

私は、冷たい冬風が吹き抜ける駅前の待ち合わせ場所に立っている。
アプリで3ヶ月間、慎重にメッセージを重ねてきた相手と、初めて対面する日。

(騙されたらどうしよう……変な人だったら……ううん、また振られたらどうしよう……!)

警戒心と不安で、胃が絞られるように痛い。
何も食べていないのに吐き気がする。
手袋の上の指先が、緊張で冷たく強張っていた。

私、橋本ともえ。
40歳。

人生最大の迷走を経て、いま、奇跡を信じてここに立っている。
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