きみが窓を見なくなるまで
閉館の十分前、先生が窓際へ声をかけた。

「そろそろ片づけるね」

高木くんは顔を上げ、短く頷いた。

本を閉じる。
椅子を引く。
鞄を肩へ掛ける。

その動作を見ないように、私はカウンターの引き出しを整理した。

借りて帰るのだろうか。

手続きの機械を少し自分のほうへ寄せる。

けれど彼は、本を返却用の棚へ置いた。

借りないんだ。

そう思った自分に、また驚く。

「ありがとうございました」

出入口で、彼が先生へ言った。

私は顔を上げるのが遅れた。

閉まりかけた扉の隙間に、制服の肩が見えた。

挨拶くらい、すればよかった。

その程度のことを、帰り道まで覚えていた。
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